第12話 akashic records
鈴音さんの話によると、今日はお客様が家に来るとの事で食材も買い込みつつウチの喫茶店でしばらく待っていた。
私が鈴音さんの喫茶店に居る時は、大体アイスコーヒーと特製チーズケーキを注文して小説を読んでいるのだが、今日はお客様が来るから没頭している訳には行かない。
すると一人の背の高い女性が入ってきた。
外人さんだろうか、金髪にスーツの上下でビシッと決まっており、スーツケースを引いていた。
丸でチャーリーの依頼で暴れまわる天使の様だった。
「ひっさしぶりーグレース!」
「ベアトリクスご無沙汰デス!」
「何年ぶりだっけー?」
「六年ぶりデース!☆」
そうか、【
「月花と式部の具合は?」
「別に死ぬ訳じゃないんだけど、意識が戻らなくてねぇ…あ、その子が二人の忘れ形見の月詠だよ」
「鈴音さん、その表現だとママ達死んじゃってます」
突然紹介されて秒でハグされてからジロジロと見られる私。
「外見は二人似デスが、雰囲気が似てないデスネ」
「まぁ、あの二人もアナザーバースに出入りして無かったら、こんな文学少女になってたんじゃないかな?って
とびきり美人にジロジロ見られているので割と照れる。
「初めまして!グレースです!宜しくデス!」
「
「あれ?カイネは?」
「依頼でアナザーバースだよ」
「ふっふっふっ…そろそろあの巨乳が成長した頃…
そういうグレースも巨乳だった!
グレースさんの来日はママ達のお見舞いだった様で、荷物を置いて喫茶店を後にしママ達の病院へ赴いた。
病室へ入った瞬間、悲壮な雰囲気になるかと思いや月花ママと式部ママの姿のオーディン達がいたので悲しい雰囲気にはならなかった!
「グレースめっちゃ久しぶり!」
「十七年ぶりだにゃ♪」
「おおう、混乱する状況デス!」
ベッドで寝てる二人を見て、二人の両手を握るグレースさん。
「ふふ、お互い大きくなりましたネ」
きっと旅していた当時を思い出すのだろう。
その後、色々な事情を話し、何故今この状況なのかを細かく話した。
「成程、神を創る犠牲として精神ヲ…」
「偽神を倒し封じれば取り返す事が出来るので…」
「ならワタシも協力シマス!人が増えた方が速く回復シマス!」
「グレースさん、有難う…二人じゃ危ない時もあるから気を付けてね?」
「こう見えても実戦経験値ありマス!危ないと判断したらベアトリクス呼びつけマス!」
「ふふっ」
「グレースは大人になったにゃー♪」
「ホントだねー!このけしからん乳とか実にけしからん!」
「oh!コラ!病室で揉んだらダメです!」
ミニ式部ママのジェラシーを買って引きずられていくオーディン様。
「ああいうとこも二人にそっくりデスネ」
「流石、ママ達がベースになってるなぁって思います」
滞在費も掛かるだろうから、うちで仮住まいしてもらう事となり、Wi-Fiが一番強い部屋をお貸しした。
何でも昔もこの部屋で住んでいたという。
そういえば転送装置の部屋にグレースさんのロッカーがあったから当然か。
ママ達の部屋も見せたら、人柄を知ってるだけにバージョンアップしてると大笑いしていた!
夜、アナザーバースから帰ってきたカイネとグレースさんの再開も果たし、鈴音さんも入れて四人で夜ご飯となった。
カイネが大袈裟目に私の事を話すので私は若干居たたまれない感じだ。
そして話の流れで、何故か私とグレースさんの腕試しになる!
庭に移動し、鈴音さんとカイネが見届け役で立っている。
「さぁ、かかって来なサーイ!」
グレースさんはブーメランを妙な持ち方で構えている!!
私は名も無き刀の
「そのカタナ見ると月花を思い出します!セイッ!」
回転しながらブーメランを放ってきたが、庭はライトアップしているから、夜でも軌道が見える!
ガガッ!
ガガッ!
ブーメラン二つを刀と光の片翼で弾き返すと不自然な軌道で手元に戻って行く!
叩き落されても所有者の元に返っていく機能が備わっている様だ!
接近すれば勝てる!
ブーメランの戻る隙を利用し、一気に間合いを詰めて技を繰り出す!
「
グレースさんは必殺の移動居合斬りをブーメランで止める!
「その技はもう何百回も見マシタ!」
「私の底が浅いと思われても困る!きっちり一本貰います!」
バックダッシュで距離を取り詠唱をする。
「
鞘を地面に落とすとその刀身は姿を消していた。
「
ブーメランを上に投げながら、最大限の速度で抜刀を躱そうと移動するグレースさん!
軌道を浅く投げたのか、先にブーメランが襲って来たので
「色無き
間合いを悟られない位置から見えない刀身で乱れ斬りを放ち、服だけを切り刻む!
喉笛に見えない刀を突きつける。
「これと同じですよね?極めて光の屈折率の低いブーメランを普通のブーメランと同時に投げている。だから持ち方が不自然で四回ヒットした」
「イエース!私の負けデス!」
笑顔で降参された!
技の状態を全解除するが、手加減された感が超半端ない…
「初見で私のブーメランの技を見抜くのは優秀デス!」
「グレース、色々な使い方するからねぇ…ブーメランの扱いなら世界一クラスだよ」
「手加減されたとか考えない方がいいよ!僕なんかあのブーメラン、頭に刺さったし!」
「それはカイネが、当てて来ないと舐めプしてるからデス」
「ほら、また舐めプって言われた」
「もーゴメンてばー!」
カイネ、舐めプ疑惑は未だ晴れずだった。
『舐めプとは効かぬ言葉よのぉ』
振り向いた瞬間、鈴音さんが超火力で声の発生源を焼く!
燃え盛る炎の中で砂に包まれていた老婆はダメージを追っていなかった!
それどころか、私以外を砂で束縛する速度が恐ろしかった!
『神封じ…そこの童がそうじゃな?生まれ出でた神を狩ろうとは不届きなるぞ。成敗してやらねばならん!』
「させません!」
再び、
だが、砂の壁が厚く硬く、刃を通さない!
「
至近距離から乱れ斬りを放ってみる!
多少は傷ついているものの、砂の壁の変幻自在の動きは殆どダメージを通さなかった!!
『砂の掌握!』
拳の形に変わり掴まれかけたのを、名も無き切り
「
斬りつけた部分から衝撃波と残響が伝わり、崩壊していく!
これなら効くが技が瓦解しただけで、砂を潰した訳ではない!
『
老婆がにやりと笑う!
「
落雷とスタンが入った瞬間移動斬りを入れる凶悪技だがどう!?
…入った!
スタンが効いているから、咄嗟の判断で
多少ダメージが入ったが、相手が固い上にまだ手の内が読めない為一旦離れると、砂を弾丸の様に飛ばして来たので、我と全員の前に障壁を張り様子を見る。
『
「古典的な表現が面白い!」
「月詠、感心してる場合じゃなさそうだよ!」
じりじりと障壁が削られつつある!
厚みや高度を変えて削られる度に再度結界障壁を張りなおしているので、砂が貫通する事はなくなったが、攻撃の手が緩む事はなく障壁の後ろから動けなかった!
あまり使いたくなかったが…
「ブック!」
索引を開き、本に名前を付ける!
「ブック・オブ・ラーヴァ!!!」
本のカバーが灼熱の色に変わる!
「
砂掛け婆だろうか…?老婆の足元からマグマが広がり、砂を溶かしていく!!
咄嗟にジャンプして技から逃れようとするが…
「
老婆を指さすと、空から無数の隕石が老婆に降り注ぎ、マグマの大地へと押し込んで行く!!
ドロドロに溶けたマグマに砂が飲み込まれ、老婆の主導権を完璧に奪い、灼熱の大地に飲み込んで行った。
皆を拘束していた砂も無くなり、両手に
「oh、それが
「こういうのが舐めプじゃないって言うんだよ」
「母さん、まだ言うじゃんー」
危惧していた、庭に穴が空くんじゃないかという事もブックの効果が終わったら溶岩も無くなっていたのでほっとした。
「それ、変わった神器デスネ!」
「
「見た事ないデス!『娘が本好き』って聞いていたのでママ達からのプレゼントかな?」
「何時の間にか持っていたので…もしかしたらママかもです」
「しかし、今のが偽神…舐めプだとこちらがやられそうデスネ」
「そうね、舐めプしなければ大丈夫だねぇ」
「舐めプ気を付けます」
「もー!皆いーじーわーるー!」
散々弄られるカイネだった。
一緒にお風呂に入ってカイネを慰めていると、グレースさんが入って来てダイナマイトボディを見せつけられた!
これがfromアメリカの威力か!
月花ママがいたら泣いて風呂を飛び出していただろう…
「二人共将来の夢はありマスカ?」
狭いながらも三人でバスタブの湯に浸かり、そんな事を聞かれた。
「僕は…まだ決まってないかなぁ…好きな人のお嫁さんも良いけど、アナザーバースももっと巡ってみたいし」
カイネがぼんやりとそんな事を呟いた。
好きな人のお嫁さん…ボーイッシュなカイネからは意外な台詞だったから、実は意外と内面は乙女なのかも。
「私はママ達が治っていたら…それまでに貯めてた小説を読んで…ゆくゆくは物書きか、考古学の古文書の解析とかしてみたいです…ぼんやりとですけど」
「月詠らしいデスネ!本に関わりたいんですネ!」
「こう…読めない本とか難しい本は何か燃えちゃう傾向が…先日もカムドアースで読めない赤い本を衝動買いしたりしました」
…無反応なのでグレースさんを見ると笑顔が固まっていて冷や汗が滝の様に出ていた!
「カイネとベアトリクスは全ての鍵とカーテンを閉めて!月詠は準備が整ったらリビングに本を持ってきてクダサイ!」
「は、はい!」
「ベアトリクス、音遮断の魔法ってありましタッケ?」
「任せて!」
厳重な体制の中、恐る恐るグレースさんに手渡す。
「um……間違いなさそうデス」
「何か
「いや、好都合デシタ!これは
「でも、その本読めませんよね?」
「翻訳出来たら過去現在未来、分岐された時間軸まで全てが分かると言われてイマス。翻訳法はまだ分からないですが既に水面下でこの本の争奪戦が始まってイマス」
「グレースさんにお渡しした方がいいですか?」
「NO!ここで保管しておく方が返って分からないと思いマス!ブックカバーなどをつけておけば大丈夫デス」
「そんな危険な物、何処で手に入れたの?」
「カムドアースの本屋に寄ったら『読めないから1ルギーで良い』って投げ売りしてました」
「世界中が探し回ってる本が投げ売りされてるとか…」
「価値のない人間からしたら名画ですら落書きだからねぇ…」
「よし、この件は追い追い調べるとして、先ずは戦力になる二人を復活させようデス!」
『お―――!』
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