第11話 One who embraces

 その日ママ達の病室に行くと、少し変化があった!


 手を握ると、たまに軽く握り返してくれるのだ。

 中学に上がり、ママと手を繋ぐことが少なくなったが、数か月ぶりに繋いだ手がこんなに嬉しい事はなかった!


 オーディン達も喜んでくれてたので、このままなら早く目覚めてくれるかも知れない!

「元・半身がこの状態では安心して帰れないからな」

「オーディン、敵は相変わらず?」

「うん、リアルの暗殺者と偽神はたまに来る」

「なかなか油断出来ないにゃ♪」

「我々がいるから大丈夫だ、そっちも偽神狩りを頑張ってね!」

「そういえば…病室のボードゲームやカードゲームが増えてませんか?」

 詰みゲーならぬ詰みボードゲ―が大量にあった。

「これは不眠不休の対価なのだっ」

「夜が暇なだけにゃ♪」

「昨日やった『キチンと開拓者』ってボードゲームは面白かったから月詠も今度やろうね!」

 私の睡眠時間が無くなる予感しかしなかった!




 午後に家に帰りつくと、カイネが偽神の情報を持って来てくれていた!

 情報によるとアクラドシアの南東の山の中に潜り込んで黄金を溜めこむドラゴン系らしい。

「『抱擁するもの』の二つ名がある位強欲で宝にも呪いをかけているらしいけど…呪い系は厄介だね…」

「カイネ、今回は手伝ってもらっていい?私一人なら呪いでダウンしそう…」

「頼って頼って!全然オーケーだよ!作戦組む?」

「うん、カムドアースのモンスターは現代の影響を受けているから、それも考慮しなきゃね…」

 下の転送装置の部屋で着替えながら作戦会議していると、やはりカイネの巨乳のサイズに納得がいかない。

 お母さん譲りなのか!?

 式部ママの分は私の何処に消えたのかしら!?





 カムドアースにダイヴインし、飛行結晶で現地に赴くと山地が連なっており、その内の一つに大穴が穿たれていた。

 あれに違いない!

 見るからに邪気が漂っており、大穴の周囲の木々が朽ちてきている。

 洞穴からは財宝の光とおぼしき光も微かに漏れているのでここで間違いないだろう。


「じゃあ、いくわよ…」

「オペレーション・スプーフィング、スタート!」



 まず私が洞窟に入り、意思の疎通が取れるか確認する。

 気配に気付き、重そうな首をもたげる。

小さき者よLittle one.宝が欲しくて侵入してきた愚か者かFools who want treasure.?』

「偽神よ、新しく生まれ出でし太古の神よ。母の為に…封じさせて頂きます!」


 その時、竜が鼓膜が破れる程の叫びを上げた!!!

我をファフニルと知っての事かYou know me as Fáfnir.さては最近名を上げている神狩りかRumored God Hunt??…これから死ぬ貴様の名だけ聞いておこうLet us hear your mortal name.



月詠つくよみ

良い名だNice name.だが宝は渡さぬBut I won't give you the my precious.!』

「はぁあああああっ!」

 剣でファフニルの手に一撃入れるも、長く伸びた爪が少し切り揃った程度だった!

 ファフニルは無言で爪を再生し、爪を伸ばして攻撃してくるが剣で順番に斬り落とす!!

 次いで黒炎のブレスが豪快に吐かれたが、結晶結界を前方に置いておき綺麗に防ぎ、ブレスの繋ぎ目を狙って鼻先を正面から斬る!!

 すかさず、飛行結晶を付与して射程外後方に回避し、様子を見るが…


そろそろ我が呪いが効いてきたであろうMy curse must have taken effect by now.?』


 「これが呪いか…骨が軋む痛さ…飲んではいけない物を飲んだ様な不快感!」

我が視界に入る者は等しく呪われるAll who enter my sight are equally cursed.

生命の安定スタビリティオブライフ!」

 生命の安定でステータスをリセットしても、視界内にいる限り何度も同じ状態に陥る!


「ふっ、流石呪いのエキスパートだねー」

後悔など遅いIt's too late for regrets.名前を知られた時点でKnowing the name is a win様は地の果てにいても呪いから逃れられないYou cannot escape the curse.!』

 体中の骨が悲鳴を上げ、きしんでいく!



「前提条件をクリア!討伐します!」

 ファフニルの後方から隠密追跡ハイドアンドシークで潜んでいた私が現れる!!

呪詛じゅその条件は視線か真名。故に貴様は詰んだ!」

同じ女が二人Two of the same woman.…、いやどちらかが幻影かNo, a phantom.!』


「レージング!ドローミ!!」

 不壊の鎖が胴体を拘束し、首を締め上げてあらぬ方向へ頭を締め上げる!

禍焔剣かえんけん!」

 次元の狭間から剣を振ると、背骨が繋がった様な刃の形に伸びていき、竜の首に巻き付き刺さっていく!

くっ、貴様は一体…What the hell are you doing??』


「私は【孤立アイソレーター】!先代『王』の後継にして、鋼の意志を受け継ぐ者なり!」

『王…そうか、あの女の血族か』

咎人の背骨スピナーオブシナ―!!」

 巻きついた刃状の背骨がファフニルの首を爆発しながら削ぎ、引き斬りながら手元に戻ってきて、一本の剣に戻る頃には首をズタズタに引き裂き真っ二つにしていた!


 ファフニルが消滅し、靄が帰ってきたのを確認すると真っ先にの治癒に向かう!

女神の息吹ブレスオブゴッデス生命の安定スタビリティオブライフ!」

 横たわっている私に回復を掛けた!

 幻術が解かれるとその姿はカイネに変わっていく!

「有り難う…月詠、上手く行ったね!」

「ごめんねカイネ、痛い役させて…」

「いいのいいのー!僕が言い出したんだから!」


 オペレーション・スプーフィングとは、つまりすり替え作戦だった。

 視線で呪ってくる事は想像に固くなかったが、真名で呪ってくるか、またはどの様な効果があるか未知数だったので、姿と名前が一致しない様に姿は私、中身はカイネで戦ってもらっていた。

 何かと耐性の高いカイネだが、勿論危ない時はすぐ飛び込む予定だった。

 即死呪文が来ないだけ戦い易かったと言える。

「帰ったらパフェ三杯奢るね!」

「危険報酬のカロリーの高さよ!…まぁ三つ位いけちゃうけどね!」

「あ、それから宝物は触らないでね?おそらく死の呪いが掛かってるから」

「危ない置土産だなぁ…」

 盗掘者が死なない様に持ちうるスキルを活かして粉々に粉砕し、洞窟も塞いでおいた。





 家に帰ると羽心ちゃんがいたので、カイネが羽心ちゃんを愛でている間に、鈴音さんとお昼ご飯を作る!

 今日はさっぱりと冷やし中華にしてみた。

 やはり大人数で食べるご飯は美味しい!

 羽心ちゃんがフォークで食べるのに悪戦苦闘しているので、見ていて微笑ましくなった。


「なかなかぐるぐるにならないのだよー」

「羽心ちゃん、真下にフォークを立ててくるくるしてー…、お口に入る量巻きついたら横にして…そうそう上手い上手い」

「出来たのだー!☆」


「カイネ、教え方上手ですね?」

「ああいうとこは誰に似たのかねぇ…」

「鈴音さんの血…本当に入っ…いえ何でもないです」

「次の冷やし中華には辛子二チューブ入れちゃるからなっ」

「嘘ですって!鈴音さん器用ですもんね!そういえばカイネって学校どうしてるんですか?!」

「暫くこちらにいるみたいだから月詠と同じ学校に通わせようかと思って!もう手続きは出来てるんだ。明日から行けるから教えて上げてね?」

「はい!カイネは制服はスカート?」

「うん!学校はそれでいいかなって」

 普段ボーイッシュな服装しかしないのでブレザーにスカートはちょっと楽しみ!


「親友も紹介するね!毒薬制作のエキスパートなんだけど可愛い子だよ!」

「え?あ、うん。個性つよつよだねー」



 翌日玄関で待ってるとカイネが離れからやって来た。

 印象的にはバスケ女子みたいな爽やかイメージだったが、巨乳が強調されていてジロジロ見られないか不安だ!



 クラスは担任の先生の計らいで私と同じクラスにしてくれたらしい。


「はい、転校生紹介するで!今日から学び舎を共にする流暮風衣音るくれかいねさん!仲良くしたってな!」

流暮風衣音るくれかいねです!運動は得意だけど…勉強はあれなんで皆教えて下さいっ☆」

 拍手が起こるが、男子が結構盛り上がっている!

 流行りの男子受けは、やはり乳か!

 乳なのか!?


 授業は滞りなく進み、授業の合間の休憩で質問攻めになってたのですぐ打ち解けそうな感じだった。

 休み時間になり、机を固めてお弁当を食べるスタイルにする。

「さっき顔を合わせてたけどこっちが毒薬テロリストの菖蒲池舞衣あやめいけまいよ」

「誰がテロリストかっ!趣味は毒薬研究、モットーは毒を食らわば皿まで!菖蒲池舞衣だよ!」

「宜しく!風衣音カイネって読んでね!」

「耳が尖ってるのは…ハーフかな?」

「そうそう、ハーフエルフなんだー!宜しくね」

「とうとうファンタジーの風が現代にも…自分の毒耐性とか興味ない?」

「こら」

「えへへーつい」

「それは調べてもらった事はあるんだ!ある程度の内服毒と接触毒は無効化出来るんだけど、劇薬レベルは流石に無理みたい!あと呼吸器系を攻撃するのも駄目だね…って、なんかめっちゃメモってない?」

「カイネの劇薬のボーダー…気になるわっ!」

「ならなくていいからー」


「あ、そうだ!月詠に頼まれてた毒出来たから試してみて!」

「あ、助かるわ!」

「…どこで使うの、それ?」

「偽神に毒が効くが試してって言われたから『偽神なら倫理観もギリセーフかな?』って」

「偽神と言えど神に毒薬とかヤバイね!」

 因みに舞衣が親友なのはバストサイズで互いに意気投合したからであるっ!





 放課後三人で一緒に帰り、舞衣と途中で別れた後で差し掛かった公園で異常事態に気付いた。


 雪。

 季節外れの雪が公園に積もっている。

「最近雪属性多いわよね…流行りかしら?」

「偽神にも流行り廃りがあるんだ…」

 見ると太っちょの赤い服装の髭の男が公園のベンチに座っていた。

「カーネ〇サンダース?」

「ううん、そうじゃないっ」


『サンタクロースの服が赤い理由を知っているかな?』

「…どうせ返り血がどうとか言うんじゃないの?」

『…風水だよ』

「サンタが風水を気にするな!」

『今年の金運は赤がいいらしいんだよ…それならもっと沢山殺さないとね…』


「月詠!二人で一気に押すよ!」

『させません!キラートナカイ!』

 空から現れたトナカイが高速で突進してきて、角に挟まれたカイネが引き離される!



『さぁ、聖夜を祝いましょう!』

「祝いましょう、貴方を倒せばまたママ達が元気になる!」

 封印解除シールリリース断罪ペナルティセットを発動させると、大きいハンドベルで殴りつけてきたので刀で受け止めた瞬間!

 ハンドベルが強烈な音を立てて耳を襲う!

 周囲の民家の窓ガラスも砕け散っている!

 あのハンドベルは厄介だ!

『ははははー!どんなおもちゃが欲しいかなー?』

 片手で出してきたのは大量の投げナイフ!

 それを広範囲に投げてきたので結晶障壁を出して防ぐと、障壁を消した瞬間を狙って時間差でもう一本巧妙に投げてきた!

「ファングハーケン!」

 投げナイフを左手の手甲・ストライフのファングハーケンで絡め取り、手元に戻してから逆に投げ返す!


 投げ返したナイフをサンタがハンドベルで叩き落とした一瞬で背後に回り背中に一撃を入れるが、ハンドベルを超反応で振り返して来たので、避けるついでにハンドベルを斬り落とす!

 根元から斬れた巨大なハンドベルが地面に落ち、大きな金属音を周囲に響かせる!


『プレゼント・フォー・ユー!』

 子供達に渡す様な見た目のプレゼントが円状にぐるぐると回るとランダムにこちらに飛んでくる!

名も無き連撃ネームレス・バラージ!!」

 連撃で突いてプレゼントを壊して行くと、全てが大爆発を起こす!!

 爆炎が上がり視界が悪い中、白いものが頭上から振り降ろされた!

 プレゼントの袋の様だが、凄まじい重さだ!

『子供達の夢の重さを思い知れ!!』

「いや、貴方の台詞じゃないっ!」


『おおおおおおおお』

「はああぁぁぁぁぁぁっ!」

 武器の応酬になるが、こちらも負けていないので決着がつかない!

『プレゼント・フォー・ユー!』

 今度はプレゼントが数えきれない位空中に現れる!

『良い子の皆に先にプレゼントを配ろうか!』

 あれが周辺にばら撒かれたら大惨事になる…だが全ては斬り落とせない…

「結界!花鳥風月!」

 球体状の結界で空中の我々の周囲一帯を包んだ瞬間、プレゼントが動き出し内部で大爆発を起こした!

 判断が遅れていたら大惨事だった!!

 私も女神の手甲の御蔭でダメージを逃れた!


 強烈な爆発でサンタクロースも焦げてるけどまだ元気そうだなぁ‥‥

 サンタが高速で上空に逃げたので距離を縮めると、遠くでカイネと二足歩行のトナカイが刀らしきものをもって戦ってるのが見えた。

 キラートナカイか!!!


『切り刻みなさい!!』

 クリスマスリースが高速回転し幾つも襲って来る!

名も無き舞踏ネームレス・リボルヴ!!」

 乱れ斬りで一つづつ落としていくと、再びプレゼント袋を振りかざしながら突進してきた!!!

名も無き対攻ネームレス・カウンター!!」

 プレゼント袋を引き付けてカウンター攻撃を当てる!!!

 袋は両断され、サンタの右腕を飛ばしたので武器を持ち換える!


「ブック!!!」

 索引を開き、本を命名する!

「ブック・オブ・バースデー!貴様の歳は幾つだ?」

 サンタの足元から夥しい数のケーキの蝋燭が現れる!

小癪こしゃくな!!』

 サンタは高速移動するも、どの方向に逃げても蝋燭が同時に追尾し、サンタを足元から

 何かを言いかけようとした瞬間炎が全身に回り、雪の様に、クリスマスケーキの蝋燭の様に溶けて消えて行った。

 偽神の靄も回収完了!


 本体を消したから、キラートナカイも消えたのかカイネが戻ってきた!



「お疲れ様!」

「ふぁぁぁぁ、凶悪なトナカイだったよ…二足歩行で武器を使って無尽蔵の体力で途切れないラッシュ掛けて来てさ…」

「流石、一晩で世界中を駆け回るトナカイね」

「時季外れで体力有り余ってたのかもね」



 二人共暫くはサンタを視たくないと辟易へきえきしてしまった。



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