第7話 Escape from Dreams

 ―――翌朝、起きて顔を洗うと目の下のクマが気になった。

 小説に没頭して寝なかった時にもこんな事なかった。

 コンシーラーを持つと不思議と既視感がはっきりする。

 カイネが覚えているのか?

 それともカイネに化けているという敵の線もあるから油断出来ない。


「ふわぁぁぁぁ…月詠おはよー」

「カイネ…お早う。何か繰り返してる感ない?」

「うーん、月詠にツッコミ入れた気もするけど…はっきりしないなぁ」

「何度もループしている…出来る限り覚えておいて」

「夢を覚えろという困難さ!…って前回これ言ったな」


 台所へ行くと、鈴音さんが朝ごはんの用意をしてくれていた。

 これはどうすれば打開策が‥‥








 ―――翌朝、起きて顔を洗うと目の下のクマが気になった。

 いやいや、クマよりも全力でループが気になる!

 モンスターは、きっと夢魔ナイトメアかな?

 脱出する手段を見つけない限り、現実へ戻れ無い!

 習性の様にコンシーラーを持つと不思議と既視感がはっきりする。

 登場人物は四人。

 私、カイネ、鈴音さん、小花さん。

 全員ほぼ同じパターンで動き、多少の変化はあるが、一定タイミングでループする。


 ならば!

 名も無き刀、取れない。

 スキル、不発。

 アビリティ、結晶術、出ない。

 窓を開けて外に出てみようとすると、空間が閉じられている。

 弾力のあるグミの様で、叩いても感触が少なく音もない。

 ここがこうなら他も同じなのかも…確認せねば。

「ふわぁぁぁぁ…月詠おはよー」

「カイネ…お早う。繰り返してる感理解出来てる?」

「月読にツッコミ入れたのは覚えてるけど…なんか眠くて眠くて…」

「何度もループしている…出来る限り覚えておいて」

「夢を覚えろという困難さ!…って前回これ言ったな」


 台所へ行くと、鈴音さんが朝ごはんの用意をしてくれていた。

「さ、食べよっか!食べたら私、喫茶店開ける前に少し仮眠取るから食器は流しに持って行ってね?」

『はーい』

 と、ここで『食べない』という選択肢を取ってみる。

 よく見ると皿には何も並んで



 その後、敢えて六周程周回して確認した事を、可能性として捕えてみる事にした。



 ―――翌朝、起きて顔を洗うと、もうお馴染みの目の下のクマ。

 習性の様にコンシーラーを持つと不思議と既視感がはっきりする。


「ふわぁぁぁぁ…月詠おはよー」

「カイネ…お早う。貴女だったのね」

「何が?なんかもー眠くて眠くて…」

「何度もループしている中で考えた。貴女だけは少ない登場人物の中で皆より言動が幅広い」

「夢を覚えろという困難さ!…って毎回言わせるな。何故そんな事が分かる?」


「いいえ、ブラフを掛けてみただけよ?全員にしてみるつもりだったのだけど…」

「……そうか、俺がボロを出しただけか。だが生身で勝てるはずなかろう?ここは俺の夢の領域で現実はない」


「そう、なら私はこのコンシーラーで勝利をもぎ取るわ」

「それも空想の産物、何も出来ねぇよ」

 コンシーラーを刀の様に構える。


名も無き切り札ネームレス・ジョーカー

 キャップを外し、相手に居合斬りの様に振りかざす!!

「…くははははは!そんな攻撃で私が…?私がぁぁぁぁぁぎぃああああああっ!!」

「…神器を甘く見すぎ。契約した神器は常にそばにある」


「責めて一撃だけでもぉぉっ!」

「ブック!」

 ダメージを与えたお陰か神器・ブックが出現する!

「ブック・オブ・ナイトメア…覚めない夢インセスタント・ナイトメア

 指先で放った光が魔物を空間事消していった…

 必ず登場するコンシーラーが名も無き刀の訴えかけだったのはすぐにピンときたので、如何に騙し討ちするかが問題だったのだ。






 ―――翌朝、起きて顔を洗うと目の下のクマが気になった。

 小説に没頭して寝なかった時にもこんな事なかった。

 条件反射なのかコンシーラーを持つと不思議と既視感がはっきりする。

 敵を倒す事が出来た!

 家族に化けているという推測でブラフをいれてみて正解だった。

 だが、目の下のクマは夢であって欲しかった。


「ふわぁぁぁぁ…月詠おはよー」

「カイネ…お早う。何か繰り返してる感ない?」

「うーん、月詠にツッコミ入れた気もするけど…はっきりしないなぁ」

「…忘れて頂戴、もう終わった事。それより、また一柱ひとはしら倒したから、御飯食べたら病院行って来る」

「いつの間に…あ、僕も行くよ!」

 何気ない日常が幸せである事を噛みしめる事が多くなった昨今だった。

 運命は享受するものじゃない、手繰り寄せる物だ!

 全てを手に入れてみせる!

 なお、カイネが着やせするのは揺るがない事実だった。




 その日の昼過ぎ。

 倒した一柱ひとはしらの力をママ達に戻して安心していた所に、アナザーバースにそれらしき神が舞い降りたので討伐して欲しいと【社】から連絡があった。

 小花さんは仮眠、鈴音さんは仕事なのでカイネにオーディン達と、ママ達の御世話をお願いした。





 目指す街は魔法公国リトルフェミア。

 魔法の発展と研究、復興に尽力している魔導士が沢山いる国らしい。

 かつてママ達がお気に入りの場所だったみたいで相当入り浸っていたと聞いた。


 公爵様と呼ばれる国の代表に会えば話が通じてくれると信じて歩みを進める


 ポータルクリスタルに触り、いつでもこの国に飛べる様にして置いて、城の麓で公爵様への謁見をお願いしたら、もっと上だと言われたので、エレベーターで上に上がる。

 上がった先で場所を聞き、謁見まで時間があるから先に階段で………

 普段運動していないのが効いたのか、見事に息が上がってしまった。

 丁度休憩場所に良い階に差し掛かると、座った椅子から冷たいスポーツドリンクの屋台が見えた。


 商魂逞しいなぁ…と思いつつ買わない事にした。

 ママ達も絶対そうした筈!

 持参の水筒を取り出し、お茶を一口飲んで上がった息を整えた。




 ようやく上のエレベーターまで辿り着き、騎士団を横目に公爵様と謁見を成した。

 公爵様は若く金髪の美人であらせられて、冷たい様な優しい様な…第一印象は分からない人だった。


「私がガンダルフ・ロド・リトルフェミアだ…何処かで会った様な印象だな」

「レクスとデッドエンドの娘、鹿鳴月詠ろくめいつくよみと申します。二つ名は…仮に【孤立アイソレーター】を名乗らせて戴いています」

 と、喋ってる間に近寄ってきて、笑顔でハグしつつ頭を撫でてくれた。


「そうか、二人の娘か。本が好きでカムドアースに興味を持ってくれないって嘆いておったぞ」

「私からすれば、本の面白さを分からず、別世界に入り浸っている方が分かってないです」

「そうだな、本とは他人の思想・人生そのものだ。創作物でも文献でもそこに私見は入る。結果それを読み解くのが楽しくなって来るものだ」

「ですです!公爵様は分かっておられる!」


「…私は婚姻もせず子供が居なくてな。レクス達を可愛がっておったから、急に孫が出来たみたいで嬉しいよ」

「恐れ多い…でも有難う御座います」


「それで、要件とは…」

 公爵様に事のあらましを丁寧に説明した。




「成る程、神を生み出したシステムを逆に利用されたのか…」

 偽神は一体何柱なんはしら生まれたのか…


「この件についてはリトルフェミアも力を貸そう。あの二人がこの国の為に尽力してくれた功績はあまりにも大きい」

「有難う御座います。ついては、この付近で珍しいモンスターの目撃証言があったと聞いてきたのですが…」


「そうか、情報を集めさせよう。月詠は迎賓扱いとするので、このピンバッジを付けて迎賓室で待っておれ」

「有難う御座います!」


 ママ達がどれだけこの街で活躍したのか、公爵様の口ぶりでわかるのでとても誇らしい。



 迎賓室で紅茶を入れてもらい、待っていると公爵様が突然入ってきた!

 そっと手渡された茶菓子は堅揚げポテトだった。

 公爵様は片手にコーラも持っている!


「何故こっちの世界のポテチとコーラがあるんですか?」

「ああ、お前の祖母の六花とは親友でな。ちょいちょい遊びに行ってたのだが、向こうで運命的な出逢いを果たしてしまったのだ…」

「両手に堅揚げポテトとコーラを持って言う言葉じゃないですね」

 言いながら堅揚げポテトをパーティー開けして公爵様と食べる。



 情報が集まるまで、少しの間公爵様と会話をした。

「―――そうだ、この建物の魔導船ドックから上はスキル封印しているから、気をつけろよ?うっかりスキルで外壁を飛んでると死にかねない」

「全く気づきませんでした…凄い技術ですね」

「お前の母・レクスは人一人ひとひとりを助ける為に血だらけなのに、飛行で人を抱えて窓に突っ込んで来たから吃驚したぞ」

「ママらしいです!アクラドシアにも、わざわざ王様を脅して保護した首長竜が三匹いるんですよ。名前もちゃんとつけて」

「レド・ブル・イロは可愛いな。私もたまに餌をやってるぞ。奴らはピザポテトが好きだからいける口だ」

「ポータルクリスタルで会いに行きますか?」



 結局、公爵様も乗ってくれてすぐ二人でアクラドシアに行った。

 ステージの端で手を叩いて三匹を呼ぶと「ごはんくれるの?」顏で無邪気に出て来る三匹。

「ネクタイ…身体が大きいから少し小さくなったな?」

「そんなに小さかったんですね!」

「あまり見ない個体だが…この辺り限定で生息するタイプかもな…?今日は堅揚げポテトを食べるか?」

「キュイイイイイイイ」

「矢張りいける口だな。堅揚げポテトを好きな奴に悪い奴はいない」

「ごめんね、ママ達また来るからね?」

「ピュイイイイイ」

「代わりにコロちゃん置いてくからね?」

「にににいいいい!?」

「冗談よ♡」

 この後散々遊び倒した。




 リトルフェミアに宿泊し、朝一の未確認生物の朗報で目を覚ました。

 思ったより早い情報収集に感謝し、喜び勇んで現地に出かける。

 向かったのはリトルフェミアから北西の森、山の麓に謎の大きな塔が見える場所にそれはいた。

 少し大きい白髪の乙女…剣と盾も持っている。


『我は…ノルンのスクルド…』

「…母さんの力を返して!」

『我は生まれ出でただけ。ただ在るだけ。それを阻害するのは誰にも許されぬ』

 まずは一合剣を交わすが、案の定一撃が重いので、封印解除シールリリース名も無き断罪ネームレス・ペナルティで底上げしている!

『ほう、一撃で片が付かぬとかやるな』

「私如きに止められるとは神格が知れるわね?」


『ふむ、稚拙な挑発には乗らぬが、ペナルティは与えておくか…【タックス】』

 スクルドがそう声にした途端に身体が強烈に重くなる!!

「動きが緩慢かんまんだな?【債務リアビリティ】!」

 突然スクルドの動きが早くなる!

 速度を吸われたのか!?

『【義務オブリゲート】!終わりだ!』

 スクルドが高速で分身し、あらゆる方向から刃が向かって来る!!

 正面百八十度は名も無き舞踏ネームレス・リボルヴで斬り落とし、背後は分厚い結晶障壁をぐるりと張って止めてみた!

 重さが技に勝っていたら、今頃外国の猫とネズミのアニメに出て来るチーズみたいになっていただろう。

 背後の結晶障壁はボロボロになって消えた…私の結晶術が未熟とはいえ結晶が崩れる位の破壊力は初めてだった!


『死んでない…珍しいな。いや、その稀有けうな技を持っていたのが功を奏したか?』

「一撃が軽いんじゃないかしら?」

『抜かせ、人風情が!』

 剣と刀の衝突する音が周囲に鳴り響き、鎬の削り合いが始まる!

 斬り、突き、払いの猛襲を受け流し、隙を見て技を繰り出すが、【タックス】というスキルの所為で動きが緩慢になりつつある!


『今度こそとどめを!!!【義務オブリゲート】』

名も無き覇道ネームレス・ハドー

 技の初動が自分の状態に左右されず、尚且なおか名も無き切り札ネームレス・ジョーカーと同等の速度で敵に切っ先が届く必殺技!

 つまり、デバフを飛ばす系統の敵に対しては詠唱が終わった時点で勝敗が決するのだ!


 『ふっ…僅かの生だったが…いいいくさだった』

 ノルンのスクルドは胸を貫かれ、周りの分身達とゆっくり消えていった…

 すれ違いざまに分身に少し斬られたが…ママの精神を返してもらった時点で…勝ち…







 ―――気絶したのか?気付くと迎賓室に寝ていた。

「…あれ…」

「起きたか、月詠。無茶な戦い方をするな」

「見て…おられたんですね」

「窓際で堅揚げポテトを食べようとしていたら突風で飛ばされてな。飛ばされた方向に月詠がいたから木陰からたまたま見ていただけだ」

「枯れ葉かっ!長い上に言い訳が過ぎます、公爵様っ」

「まぁ、あの子達の娘だ。無碍むげには扱えないだろ?私も孫みたいに思っているのだぞ」

「突然泣かせに掛かる小説みたいですね!」

「月詠が泣いてないから三文小説だな」

 少し痛みが残っているが、ふふっとなって笑ってしまった。


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