第5話 Newcomers

 オーディン達がボディガードに来てくれて数日。

 ママ達は異常ないものの、良くもならないのは矢張り神を討伐しなければいけないのか…


 そうやきもきしていた時に【やしろ】から続報が飛び込んできたので、居ても立ってもいられず、すぐにアナザーバースに飛んだ。



 飛んだ先は先日訪れたアクラドシアの北西。

 巨大なクレーターの外周にある宿場街。

 その巨大なクレーターの中心に異形の竜が住み着いていているという。

 クレーターの淵から眺めると、確かにクレーターの中心に黒い竜がいる。

 竜は棘のように背ビレから角が生えており、通常の竜とは矢張りどこか違う。


 飛行結晶で飛び、目の前に降り立つ。



『小娘、神の御前みまえで無礼なるぞ』

「私は偽神ぎしんを狩りに来た。私は貴方あなたを神だとは認めない!」

『笑止千万!!死地に立つ事を許そう!!』

 口から毒の様な物を吐き出すが、結晶障壁で全て防ぎ視界が悪い間に毒が掛からないように障壁を張りながら背後に回る。

 その時にはもう名も無き刀を封印解除シールリリースし、構えに入っている。


名も無き切り札ネームレス・ジョーカー!」

 開幕初手で尻尾を一太刀で切断!

 こちらに頭部を急旋回した処を、背後に回っていたコロちゃんが炎を吐いて尻尾の断面から焼いていく!

 勿論再生されない為である。


小癪こしゃくなり人間!』

 更に回転し、背中の角を何本も私に伸ばしてくる!!

名も無き舞踏ネームレス・リボルヴ!』

 乱れ切りで全て切り落とすが、向こうも再生が早かった!

「ファングハーケン!」

 背中を見せたのをいい事に後頭部に手甲ストライフのワイヤーハーケンを撃ち込んでワイヤーを手繰り寄せて頭に登る!


 先ずは頭の二本の角を切り落とす!

 振り落とそうと頭を回すが、ハーケンが食い込んでいる為離れないのと、コロちゃんが死角に回り込んで攻撃を続けている為、こちらに集中出来ていない!


「御免なさい!」

 頭を一突きし、そのまま切り上げる!

 頭部から噴血ふんけつし命令系統を失った竜はそのまま崩れ落ち、大地に沈んだ。

 コロちゃんと合流し、魂の回収を待つ……しかし竜の身体が溶け落ち、殆ど骨だけになりつつあるのに前回同様の事が起こらない…


 その時目の当たりにしたのは、起き上がってくる竜の骨!!

「くっ、ドラゴンのゾンビなの!?」

 名も無き一撃ネームレス・スラストの突進突きで肋骨を何本か折ってみるも効いている様子がないので移動の帰り際に背骨を切断してみた!


 これが功を奏したのか前後で身体を切断され歩けなくなっているので、首の根本、腰より下の背骨も切断して様子を見る!


 動かない!

 漸く終わった…


 そう思った時、動かなくなった骨の周りに先程溶けた身体の肉が纏わり付き、再び初期の形態に戻ろうとする。

「成る程、再生を繰り返すのか…」

 ならば!

「王が令する…再生を禁ず!!!」

 王狼の魔眼で縛りを与える。

 八割程再生した処で動きが止まった!


「ブック」

 次元の狭間から本を取り出して索引を捲り、本の名を決める

「ブック・オブ・ミニストリー」

 本をパタン!と閉じて癒やしを与える。

生命の奔流ライフストリーム

 治癒効果が奔流に乗り、ドラゴンゾンビに纏わり付く!

 が、負けじと毒の霧で周囲を充満させる!

 防刃コートにマスクが付いてるので慌ててそれを装着する!

 どちらが先に死ぬか勝負だ!

 コロちゃんが風スキルで毒を一か所に集めているから助かる!


 再生も禁じられ、成すすべをなくしたドラゴンゾンビはそのまま癒され、最高の回復でこの世界から光の粒となって去っていった。

 やはりゾンビ属性には回復が効く!

 そして、この世界を去る前に私の両手にまた白い靄を残して去っていった。


「よし…コロちゃん帰ろう!」

「ににん!」



 ダイヴアウトして、家から病院まで飛行結晶で数分!

 はやる気持ちを抑えて病室に辿り着くと、オーディンとミニ式部ママと小花ちゃんが呑気にトランプで遊んでいた。

「おかえり、どうだった?」

 小花ちゃんの答えにサムズアップで答え、ママ達の両手に手を重ねると、白い靄が身体に吸収されていった。


 二人共先程より顔色が良くなった気がするので、効果は如実に現れている!


「よし…必ず大丈夫!ママ達は絶対戻ってくる!」





 午後のお医者様の検診も、前日より幾許か良くなってると言われたのでホッとした。 


 と、小花さんが「病室の守りは硬いから学校に行ってらっしゃい」と言ってくれたので、数日ぶりに学校へ登校する事となった。

 心に余裕がなかった為、すっかり失念していたが本来私は現役JCなのだ。



「月詠ー!」

 登校途中で目敏めざとく私を見つけた舞衣まいが近寄ってきた!

「おはよー!ずっと休んでいたけど大丈夫だったの?チャットアプリも既読にならないし!」


 芽衣だけには、と、登校しながら事情を打ち明けた。


「あー…そっか、大変だったんだね!私も何か役に立つ事があったら言ってね!?毒薬なら接触毒からパンデミック感染レベルまで何でも作れるから!」

「毒は使わないから気持ちだけ貰っておくわ」

「……証拠が残らないタイプから、苦しまずに死ねるタイプまで色々あるよ?」

「あるよ?じゃなくて怖いからっ」

 舞衣はお母さんの謎の趣味を受け継いでいて毒薬制作のエキスパートだが、今の御時世なかなか出番は来そうにない。

 一周廻っても来そうにない。



 と、学校に着くなり門が閉鎖されていた。

 ガードマンの方に聞くと答えられないと言ってきたので、外周を周り様子を伺う。


 強盗か、はたまた変質者か…

 校庭が見える場所へ行くとそのどれでもないのが分かった!

 モンスターだ!

 悪魔の様な姿だが、角が少し多く、体格も校舎の三階に届く位の身長だった!


「コロちゃん、いくわよ!」

「わかったのだよー!」

 …横を見ると白く長い髪に ワンピースにサンダルという出で立ちの少女がいた!

「…誰?」

「全世界のアイドル!羽衣羽心はごろもはねこじゃ!気軽に羽心はねこちゃんと呼ぶが良い!」

 頭にコロちゃんを乗せて胸を張っている!

「あの…お嬢ちゃん?今から強そうな敵と戦うから…危ないよ?」

「うむ、だから手助けしてやるから任せるのだよー!」

「危なかったら校舎に隠れるのよ?」

 と注釈を付けて前に出る。




『うぬは誰ぞ?』

 巨人の様な悪魔がこちらに問う。

「通りすがりの神封じ…討伐します」

人風情ひとふぜいが我に抗うなど出来はしないっ!』

 口から突然光を吐いてきたのを月光の反射ムーンライトリフレクスで綺麗に跳ね返す!

洒落臭しゃらくさい!!!』

 右手で殴ってきた所を…

彼方よりの星光スターライト・ビヨンド

 拳から腕まで大穴を開ける!

『くっ!』

 指を鳴らすと上から突然槍が豪雨の様に降っては消え降っては消えと、私達を殺しにかかってくる!

 結晶障壁で天井を作って防げるが動きづらい!


 その頃、槍の死角である悪魔の身体の下に居た羽心ちゃんは、ててててっと悪魔の足に走って行き…

「こうじゃ!」

 木のサンダルですねを思いっきり蹴り飛ばした!

 槍が止まり、校庭でつくばって涙目の悪魔!

 あ…悪魔もそこは痛いのね…


 悪魔は槍を一本取り出し肉弾戦を仕掛けてきた!

 こちらも名も無き刀を封印解除シールリリース名も無き断罪ネームレス・ペナルティで力をあげて挑む!

 高い金属音が鳴り、刀と槍がぶつかり合う

 「自分より小さい人間に槍を受けられてショックだったか?だが、お前も偽神ぎしんの一人なら容赦はしない!名も無き残響ネームレス・リフレイン!!」

 飛び込んで胸に一太刀浴びせると、そこから崩壊が始ま……らない?

 悪魔にはこの技が効かないのか太刀傷も癒えて行っている。


 そうか、それならあれが効くか!

 その前に弱らせる!

名も無き切り札ネームレス・ジョーカー!」

 必殺の移動居合斬りで上下二分割にして見るも、早くも再生をしようとしている!


 だが、その時間が欲しかった!

「レージング!ドローミ!」

 空間から上下の身体に食い込む不壊の鎖が再生を支配する!

『くっ…動けぬだと!』


「ブック」

 次元の狭間から本を取り出す!

 索引から本のタイトルを決める。

「ブック・オブ・ゴッド」

 本が七色に変わる!


七つの神罰セブン・パニッシュメント


 悪魔に神罰の雷が降り注ぐ!

 効果覿面こうかてきめんの様で、身体が崩れ去って行く…

 と、その時!

 悪魔の尻尾がこちらを貫こうと襲ってきた!

 だがしかし、羽心ちゃんの蹴り上げで上に向いた所を神罰が尻尾に直撃し崩壊した!

 何とか悪魔は滅び去った。

羽心はねこちゃん助かったよ!」

 頭を撫で撫ですると、何とも言えない愛くるしい表情を見せた。


 さて悪魔が消えたけど、どうだ!?

 矢張り予想通りにもやが出てきた!


 靄を両手に纏ったまま、飛行結晶ですぐに学校を離れる!

 学校に説明するのを忘れていたが、後で戻ればいい!



 病院につくなり、オーディン達への挨拶もそこそこに両手をママ達の両手に重ねる。

「おお!月詠、朝から狩ってきたの?」

「さーすが私達の子にゃ!♪」

 オーディンとミニ式部ママが勝ち誇る!


 二人と両手を繋ぐと靄は腕を通り、頭に吸い込まれていく。

 目立った反応はないが、結果上手く行ったから良しとしよう!と思っていたら…

 ママ達が反射なのか、私の手を微かに握ってくれた!

 やはり目に見えて良くなっているのは嬉しい!


 それを確認してから蜻蛉返とんぼがえりで学校に戻った。

 あれ?羽心ちゃんどこ行ったんだろう?




 学校も無事終わり、帰りに鈴音さんの店でアイスコーヒーを飲もうとお店に入ると、鈴音さんが私と同じ位の年頃の女の子の胸に顔を埋めていたので警察に通報する。

「待って―――!月詠違うから!うちの子のカイネだから!」

「え、本当ですか?」

 手はスマホをキープしつつ尋ねる。

「本当だよ!初めましてレクスの娘よ!カイネといいます」

 黒髪セミロングで耳が少し長い気がする。

 抜ける様な白い肌と美しい顔立ちはまるで…


「娘はハーフエルフなんだよ。可愛いでしょー!」

「鈴音さんの要素ゼロですね」

「髪―――!髪の色一緒―――!」

「……供述は署で聞きますね」

「待って!本当なのでどうか母の罪を許してあげて下さい!」

「そもそもまるっと無罪なんだけどねぇ…」



 アイスコーヒーを飲んで一息着いた。

「…でね、相方がエルフの王になっちゃったからなかなか一緒に居れないんだけど、まだこの子は自由に動けるから会いに来てくれたんだよー」

「それで娘さんを猫みたいに吸ってたんですね」


「エルフと人の時間の流れって違うからさ…こういうイベントがないと寂しいのよっ!」

「分かります、私も今ママが寝たきりなので…」

「……どういう事なの?」


 これまでの経緯をカイネさんに語る。

「なら、僕も手伝いますよ!母達に戦術は習いました!」

「ハーフエルフの僕っ子は可愛いですね」

「でしょー♡もう物理的に目に入れても痛くない」

 鈴音さんも結構な親バカだった!


「カイネ、地下のママの防刃コートとか使っていいからね?」

「はい!」

「…地下に鈴音さんのロッカーありましたっけ?」

「あるよー!ベアトリクスって書いてるでしょ?」

「……ベアトリクスさんて鈴音さんだったんですか!?」

「その鈍さは誰に似たのかねぇ…」


「いえ、物心着いた時からずっと鈴音さんだったし…」

「【やしろ】に戸籍を用意してもらったんだよ。堂々とこっちに居座れてニチアサ特撮見放題だし」

「あ、そういうとこは聞いたまんまですね」

「まぁ、戦闘は仕込んであるし、女の子同士仲良くしてね!」

「宜しくお願いします」

「僕こそ宜しくー!」

 ママの仲間の娘…持つべきものは仲間とはよく言った物で心強くなった。


 カイネも鈴音さんが住んでいるウチの離れに住むそうなので今の内にチャットアプリのアドレスを交換しておいたら、すぐに挨拶と一枚の画像が送られてきた。

孤立アイソレーター】と名付けられたママの仲間五人の写真だ。

 初めてまじまじと見るが確かに鈴音さんも映ってる!

 そういえば似たような写真ををガルワルディアのお医者様の家で見た気がする。



 という事はこの映っているエルフさんが相方さんなのか。

 そしてアメリカンな金髪美女にママ達。

 いい物を貰ったのでカイネにお礼をいい、すぐに保存しておいた。


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