第4話 True and False Gods

「用心棒か!何故私達を狙う!?」


 茶色の髪を後ろで括っている逞しい女性だ。

「私はティリス…色々理由はあるんだよ…人は己の理由を正義と呼び、他人の都合の悪い理由を悪だと決めつける…」

「真理ね、本当は正義も悪も真理でしかない」


「うわー、話がめっちゃ合いそうだけど…依頼だから邪魔するなら死んでくれる…かな!」

 飛ばされた投げナイフを刀で落とすと、背後のママ達に障壁を作る!

 すると間髪いれずに女が飛び回し蹴りで向かってきた!

停滞領域スタッグメントゾーン


 女の周囲の領域が足先から空中で徐々に停滞する…

 空中で固定された彼女の横をゆっくりと歩く。

「どう?全身が停滞する前に降参する?…」

「気味が悪い技をっ!!!」

 上半身の捻りだけで勢いをつけて投げナイフを飛ばしてくる!

 後方に逃げて上に飛び上がろうと思ったが…飛行結晶で飛び上がれない!

「ファングハーケン!」

 ストライフに装備されている伸縮ワイヤー付きハーケンで二本のナイフを同時に落とした!

「何!?」

 いきなりアビリティ使用を封印された!?

 ママ達の障壁も無くなっている!


「アビリティ封印、床には水…じゃ次は分かるよな?…這い寄る稲妻クロールライトニング!」

 不味い!ただでさえ実験体になってたのに感電したらママ達が死んじゃう!


「これで終わりだぁーっ!」

「グレイプニル!!!」

 ストライフから拘束飛び道具が出て、喉を締め上げる!

 呼吸困難でスキルも撃てはしまい!

 その間にママ達に駆け寄る!


「ファングハーケン!」

 グレイプニルを外し、ファングハーケンを天井に打ち込んで、ママ達を抱きかかえてストライフの機能で上に引き上がる!!

「返してもらうわ!風と共に去る!ダイヴアウト!!!」





 無我夢中でダイヴアウトして自分の世界に戻って来た…

 転送装置の中で三人は狭い!

 先ずは女神の息吹で二人を回復!

 次に救急車!!

 あとは小花さんを呼んで、ママ達に着るものを被せて…


 上に上がろうと思ったら丁度小花さんと鈴音さんが降りてきて気付いてくれた。

 先に鈴音さんが素早く降りてきて、ママ達を気遣う。


 小花さんは私をハグして労をねぎらってくれた…

「良くできました!流石私の自慢の姪だね!」

「うん…有り難う…」




 その後、かかりつけの病院に搬送され、二人部屋で【社】のボディガード付きで入院した。

 外傷は無く、精密検査も異常無し!

 後は意識が戻るのを待つばかりだ。




 ―――次の日。

 ママ達の病室に花を持って見舞いに行く。

 二つのベッドの間に座り、左右のママを見る。

 静かに上下する胸が生きている事を教えてくれるが、意識の回復やその他の反応は見られなかった。


 と、その時に部屋に一人の男が入ってきた。

 白衣も看護服を纏ってない眼鏡の男。


「敵ですか?味方ですか?」

「【やしろ】の使いです。初めまして」

「ああ、ごめんなさい。不測の事態で気が立っていました」

「うっかりで月花レクス様と式部デッドエンド様のお嬢様に殺されては困ります。お二人の状況に着いて分かる事だけお伝えに馳せ参じました」

「有難う御座います。分かった事とは…?」



「…まず、お二人の状況を見るに精神的な部分…魂とも言える部分が強制的に抜き取られています」

「強制的…」

「以前お二人がカムドアースを救い、神を生み出したのはご存知ですか?」

「……いえ。今まで興味を持ってアナザーバースの事を聞いた事が少なかったので…」

 今になって悔やまれる。


「使命を受け、北欧神話の神オーディンを己が分身としてアナザーバースに生み出しました。その時デッドエンド様の分身も生まれ、新たな神としてアナザーバースを統治されております」

「二人の分身が…神様に…」

「ここから導き出される予測は…神の製造」

「何て不謹慎で迷惑な…」


「推測ですが、吸い上げられた精神データを元に神を生み出したのなら、神を殺す、または無力化すればお二人が回復すると思われます」

「神様が降臨…カムドアースかしら。【社】さんの力で情報を集められますか?」


「あ…しかし、月詠様はセンスは抜群ですが戦闘経験が無いとレクス様から伺っております…貴女様に何があると……他の冒険者を追従させましょうか?」

「曲がりなりにも封印や神殺し…業の深い事は私がやります。必要な時は要請します」

「承知しました」



【社】の使者と入れ替わりで小花さんが来てくれた。


「どう?二人は」

「【社】の人曰く、精神的な物を抜かれていて、そこから神を生み出してる可能性…そしてその神を封じるか倒さないと回復しないって」

 端折りすぎたので細かく説明する。

「…その戦い、貴女が帰ってこない可能性の方が高いんじゃない?」

「黙ってじっとしているのも嫌です。『人の真価が問われるのは人生を終えた時だ』とシェイクスピアも言っています」

「うわー中二病的な言い回しはこの二人の血だわー」

「ふふ、最高の褒め言葉ですよ」



「失礼します。検診の時間で…」

「グレイプニル」

 男性看護師の首を絶対不壊の錠で首を捉える!


「貴女は潜入暗殺に向かないわ…殺気が滲み出ている」

「死ね!獄炎の塔!!」

陽光の反射サンライト・リフレクス


 手前に結晶結界を張り、小花さんとママ達を庇うが、男の周囲はスキルで反射した熱量が強すぎて半壊した。

 私達もろともママ達を殺すつもりだったのか。

「月詠、貴女すぐ強くなりそうね」

「ママ達が戻ったら…また小説好きの本オタクに戻りたいです」




 その翌日、【社】からの連絡で最初の神と思われる者の目撃証言が合ったので、小花さんにママ達を任せて【社】に病室の警護もお願いし、アナザーバースへ旅立った。

 勿論優秀なコロちゃんも一緒だ。



 目的地はカムドアースの双子山の南の森。

 ここは比較的レベルが低い敵が多いが、双子山にはドラゴンがいるそうで希に狩場になるとの事だ。


 その中で異形の神らしきものを見たという目撃者がいたのだ。

 そばにある大きな街を拠点として捜索するも、森が広いのでなかなか見つからない。

 ゲームみたいにマーキング球とかないのかな?

 お昼ご飯をコロちゃんと食べて、再度捜索にかかる。

 時折現れるモンスターが襲ってくるが対して強くないので、私の経験値にさせて貰ってる。


 あと、竜が来たと聞いて気持ち吃驚したが、思ったよりミニサイズで更に吃驚した。

 そのミニサイズが豪快にドラゴンブレスを吐いて食べられそうなモンスターを持って帰って三度吃驚した。

 サイズ感で測れない強さ・プライスレス。



 そのドラゴンブレスが幸いしたのか、追い込まれたモンスター達の中にいた!

 見た目は花魁おいらん…尻尾が九つ…化け狐がモチーフか!


「待ちなさい!」

 優雅に歩いていた花魁がゆっくりとこちらを睨めつける。

「お主は……その魂の色…そうか、来ると思っていたぞ?だが…人風情が神を屠れると思うかえ!?」

 尻尾の一本が高速で襲いかかるが、片翼の翼で弾き返す!

「ほぉう、侮ったか。次は全力で殺す」

 尻尾が九つ、全てが違う軌道で襲ってきた!


   『結晶障壁の展開速度上昇』

   『敵攻撃軌道の計算速度上昇』


 周囲に甲高い音を響かせながら、九尾全てをガードした。

 今のは…キセキさん…!


 間髪入れず、起動を変えた九尾が何度も襲ってくるが、片翼と結晶で全てガードしきった。


「ふうん。やるねぇ…そして小生意気」

 煙管きせるの煙をくゆらせる花魁おいらん

「少しは出来るみたいだけど…これならどうだい!」

 口からドラゴンブレスも顔負けの蒼い炎を吐きかけるが、コロちゃんが同等かそれ以上の炎を吐き抵抗する!

 炎は拮抗きっこうしていたかの様に見えたが、最終的にコロちゃんの炎が押し、花魁に若干炎が燃え移り燃焼している。

 着物の裾にコロちゃんの炎が燃え移り、怒りを隠せない花魁!


「これならどうかえ?」

 九尾の狐の姿に変わり、再び炎と九尾の攻撃を放ち、本体は正面から突進してくる!

 九つの尾は弾かれるとすぐにパターンを変えて襲ってくる!

 業火で視界が悪いが、九尾は全て受けきっている!

 と、姿を見ると尻尾切りされていて本体がいない!


「甘いねぇ!」

 背後から本体が襲ってきた!


「…そこしか隙を作ってなかったの。誘い込まれたな?」

 九尾がその言葉を聞き、距離を取ろうとするが…

「レージング」

 周囲から鎖が伸びて空間に縫いとめる能力!

「ドローミ」

 更に強力な鎖で空間に固定される。

「グレイプニル」

 首に脱出不可避の拘束をストライフから射出し、首に掛ける。


「まて…わらわはまだ何もしておらぬぞ!?何もしてない者を討つのか!?」

「『』と付けた奴は必ず何かをする。分かってるの」


「くっそおおおおおおおおおこの婢女はしためがぁぁぁぁ!!!」

「ブック」


 次元の狭間から一冊の本を取り出す。

 索引を開き本を名付ける。

「ブック・オブ・ライアー」


「やめろおおおおおおおおお」

嘘つきには針千本サウザンド・ニードルワーク


 空間に固定され動けなくなった九尾の狐は全身に針が刺さり息絶えた。

 その魂は、何故か私の両手にもやの様にぼぉっと光って吸い込まれた。

「コロちゃん、キセキさん、有難う」

「ににん!」


   『気に病むな、君の力だ』


 さて、最初の一柱ひとはしら、神を両手に封じた。

 これを返せばママ達も少し楽に……?





「小花さんただいま」

「おかえり、忘れ物?」

一柱ひとはしら倒してきた」

「嘘でしょ!?月詠凄いわね…」

 ベッドの間で二人の両手を握る。

 やり方が合ってるか分からないけど直感でこうだと悟った。


 掌から白いものが出てきて、二人の頭に入っていく。

 入り終えてから二人の様子を見ていると、今まで微動だにしなかった二人が少しだけ反応が戻った。

 矢張り全て封じ切らないと駄目なパターンなのか!


「小花さん、希望が見えました…やります!」

「私は月読が心配で仕方ないけど…貴方はやると決めたらやる子だもんね」

 小花さんが呆れた顔で微笑んで、頭を撫でてくれた。





 翌日も病室を訪れママ達の顔を見に行く。

 ドアを開けると、寝ているママ達の顏を見る二つの人影が見えた。

 年の頃は私と同じ位だが、顔は……ママ達!

「来た!月花!!」

「ふぉぉぉぉ!可愛すぎる!!!」

「これが私達の子かにゃ!?もー愛らしさがほとばしってるにゃ!!」


「えっと…Wで頬ずりしてますが、貴女達がママ達の生み出した神ですか?」

「ああ、そうだ。われが死と破壊の神オーディン」

「と、別れ際にオーディンが寂しくて泣いたから着いていった式部ちゃんにゃ♪あらー!コロちゃん久しぶりにゃ!」

「にににん!」

「恥ずかしいからバラすなよー!」

「年齢的な外見は私と同じ位だけど…本当にママ達だ…驚いた…」


「本当に精神が抜かれているにゃ」

「ああ、この十余年色々見てきたが、不愉快極まりない…また神を生み出すつもりか…」

「娘よ…名前は何という?刺客は来たか?」

鹿鳴月詠ろくめいつくよみです。一度来ました」


「式部、一度休暇を取るぞ。我らの本体を脅かす者に報いを下さねばならん」

「わかったにゃ!って訳で本体は暫く私が護るから、安心して旅して来ていいにゃ!」


「心強いです…ママ達をお願いします」


 バタバタと騒がしい中、小花さんも来てオーディン達にまた同じ説明をしてもらって、とややこしい状態が続いた。


「そら、早速のお出ましだ」

 オーディンが窓から飛び出すと、傭兵らしき男が屋上からロープを伝って窓の外まで来ていた。

 刀を突きつけて脅してみるも、空いている手で銃撃してきた!

 しかし、彼女の名も無き刀の封印解除シールリリースの力である闘気で全て弾丸が止まる!

「式部!捕まえて情報を履かせる!」

「了解にゃ!」


 ロープを切って何も出来なくさせてから結晶結界で檻を構築し閉じ込めた!

 刀で檻の隙間から重火器全てを斬って使えなくする。


「ほーんと、あの二人まんまだわ」

「ですよね、流石分身です」

 私と小花さんで呆れる様な嬉しい様な複雑な顔をする。


 同い年位なのに熟達した年季を感じるので吃驚するが、髪をかき上げる仕草や見た目はまんま若いママ達なので違和感を感じざるを得ない。


 その後【社】のSPに引き渡し、情報を引き出してもらう事にした。

 オーディン達が尋問に回るより、ママ達のボディガードに回ってもらう方が頼りになるからだ。



 ママ…早く目覚めて欲しい!


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