第3話 Depth of Love
翌日。
昨日まで休みだったウチの家の敷地内にあるカフェが今日からまた開く。
開店時間を過ぎた頃に裏からお店に入る。
「あら、月詠!どうしたの?こんな時間に…学校は?」
カウンターで自分のコーヒーをドリップしている黒髪の美人は店長の
主婦さんでここの店長を任されている。
「実は……」
「はぁっ!?あの二人が撃たれて病院から行方不明!?」
「はい…怪我は治したんですが手掛かりがゼロなんです」
「あの二人は確かに強いけど、何も使えない状態で行方不明なのは気掛かりだねぇ…」
「お店の方は鈴音さんに任せっきりでいいですか?」
「お店は趣味の範囲内だし混まないから大丈夫だけど…月花と式部が黙って消えるとかあり得ない…連れ去られたと考える方が自然だねぇ…」
鈴音さんがコーヒーを入れてくれて、お客様のいない店内で戴く。
私のコーヒーの飲み方は牛乳に砂糖一つだ。
「……美味しい」
「だろ?式部からがっつり教わったからね」
「でも、鈴音さんの完璧ではないコーヒーも好き…」
「褒められてるのか
「あ、これアクラドシアとガルワルディアで素材貰って、作ってもらった状態異常を治す薬なのでママ達が帰って来たら飲ませて下さい」
「あんたもう既にそこまで行ってきたのかい!流石、あの二人の娘だねぇ…戦闘中に粉薬は飲めないから丸薬にするよ」
「そうか。言われてみればそうですよね」
「オブラートで包めば大丈夫だよ!まぁ、とりあえず【社】と警察にはこの薬の件も含めてもう一度言っておくから月詠は日常生活をしっかり過ごして、手掛かりが出たら調べに行く。それでいいんじゃないかな?」
「…はい…」
部屋に戻り、ベッドに座って考える。
ご飯を美味しく食べて、趣味の本に夢中になれるのはママ達が居てくれてこそだったんだな、と親の有難味を痛感する。
心配そうに膝の上に乗ってきたコロちゃんの頭を撫でる。
そうだ、ユーザー・インターフェースって何だろう?
突然目の前にRPGの様な大きなステータス画面が開く!
「わぁ、自分の情報が見られるのか…」
月詠 鹿鳴
Lv14
【装備品】
名も無き刀
ブック
ストライフ
コロちゃん
【熟練度】
刀熟練度 68/100
結晶術熟練度 80/100
本熟練度 90/100
【アビリティ】
結晶術
【スキル】
何か読み上げると切りがないがコロちゃんが装備品に数えられてるのは、やはり攻撃力のお陰か?
このユーザーインターフェース、あちこち動かせて詳細も確認出来るのでたまに視るようにしよう。
ピンポン
…来客?
一階に降り、最大限警戒しながらドアを開ける…
「こんにちは」
「小花さん!」
「聞いたわよ、大事になってるなら早く言いなさい!」
「ごめんなさい…気が焦って」
「そういう時こそ美味しいご飯!あの二人の消息がはっきりするまで泊まり込むからね?」
「お店は大丈夫?」
「ケーキマニアの旦那と娘に任せてるから大丈夫!さぁご飯にするわよ」
こういう時、身内の気遣いが有り難い。
泣いている暇なんかない!
感情も落ち着いて、小花さんとコロちゃんと三人でご飯を食べる。
「不審者が乗り込んで今回の事態になったので、小花さんが在宅中に何かあったらクローゼットに殺傷能力の高い物から殺傷能力が低い物まで幅広くあるので、万が一の時は使って下さい」
「選択肢は殺傷オンリーなのね」
「ママ達、どっちの世界にいるんだろう」
「転送装置がかなり特殊な物だから、普通に考えて現代…けど彼女達と縁が深かったのはアナザーバース…6:4で現代かなって思ってる」
「僅差…でも転送装置の問題さえクリアすればアナザーバースの可能性が高い」
「転送装置は【社】にしか作れない…納品先は把握してる筈だからそこから怪しい人が浮上してくれるといいんだけどね…」
「今日はもう遅いし学校にお休みの連絡入れなさい。家の事は私がしておくから、スキルショップでも見てきたら?アナザーバースは危険な所だし、月花達を追う手掛かりになるスキルもあるかもよ?」
「はい!」
奈良駅前まで向かう。
駅前ビル丸々一つを借り切ってスキルショップは経営しており、物々しいレベルの警戒も備えられている。
スキルは基本カタログ販売で、選んだものをカウンターで1:1で受け渡し販売をされる。
本好きと、妄想癖で色々と試行錯誤してしまい結局三時間も居てしまったが、自衛手段等を少々買った。
今まではいざという時に母を守る為最低限しかスキルを持ってなかったが…状況が変わった為仕方がない。
「ににん!」
「…私そんなに眉間に皺を寄せてた?気をつけなくちゃ…」
コロちゃんの言ってる事は簡単な事だけ表情から分かる。
その時、スマホの通知音がメールの到着を知らせる!
メールの発信者は…【
開封すると、どうやら病室から転移スキルで拉致されてアナザーバースに連れて行かれたのが判り、場所はセント・トゥーランド…昔ママ達が戦った激戦地である事が分かった。
宗教国家であり、その昔、終焉の危機をママ達
現在は正教と言われる、昔からの宗教の人達が布教の為に住んでいるとの事だが、昔とは比べ物にならない位荒んでいるらしい。
「小花さん、手掛かりが見つかったから行ってくる!」
「そう…気をつけて行くのよ?貴女を大切に思っているのはママだけじゃないんだからね?」
と、小花さんが抱きしめてくれたので、勇気をもらう!
下の階に降り、月花ママの防弾防塵コート、セーフティブーツ、バックパックを借りる。
「コロちゃん行くよ!」
「ににっ!」
「ダイヴ・イン」
座標を指定して、出た先はガルワルディア!
先日土生姜らしきものを頂いた街だ。
メールによるとそこから北北西にあるサン・ヴァラドという港町から船で三日、魔法公国リトルフェミアから更に南南西…
そんな時間取ってられない!
コロちゃんをポケットに入れて飛行結晶で飛ぶ!
途中休憩を挟みながら高速で飛ぶと一日でセント・トゥーランドに着いた。
このアビリティは攻・防・飛行と本当に助かる!
上から見ると丸く円形の巨大な街…まるでモン・サン・ミシェルを彷彿とさせる様な趣だが…よく見ると外壁で警備している人ががスナイパーライフルを装備していて物騒だ。
街の中も物騒に見えてきた。
取り敢えず撃たれない様に離れてから地面に降り立ち、正規の手順に則って入国し、ポータルクリスタルには触れる事が出来た。
街の中は…正直宗教国家のイメージから少し外れ、薄汚れ、ゴミも転がっており、人々は目が多少虚ろだ。
取り敢えず、情報収集がてらにご飯を食べ、街をぐるっと回ってみよう。
大きな街だけど、流石に某ネズミのテーマパークみたいに一日で回りきれない事は無いだろう。
食事が出来る料亭に入り、看板メニューらしき『神のみぞ知るシチュー』とパンを頼んだ。
美味しそうなシチューが出てきたので一安心し、それとなく女将さんに街の事を聞いてみる。
「あー…昔は神が降臨されて、我々を祝福してくれたんだけどね。前の司教様が不正を働いて成敗されてからは、神の降臨も無くなってね…しかも宗派が分かれちまって経験な信徒は皆『見放された』と凹んじまってるのさ」
「…色々あったんですね…それはそうとシチューもパンもとても美味しいです!」
「ありがと!おかわり無料だから言ってね?少量でもいいよ!」
「有難う御座います!」
―――夜迄時間を潰し、
スナイパーはこの時間も監視してると見て間違いない。
昼間ぐるぐると街を回った限り、スナイパーが見張る様な重要な地点はなかったからだ。
なら何故スナイパーなのか?
勿論外からの敵にという事もあるかもしれないが、この宿の女将さん曰く、17年前の司教の反乱以降、大型モンスターの接近は無いという…
なら、内側!
恐らく中心の塔を守る為に向けられている。
音を立てる事なく塔へ近寄り、不可視の姿のまま通路の窓から侵入する。
塔の一室から賑やかな声がするので扉が開くまで待ち、開いた瞬間部屋に滑り込んだ。
案の定、男達が酒を飲みながら騒いでおり、スナイパーライフルの他に銃、剣等を装備しているあからさまに必要以上の装備をした警備兵だった。
「こう暇だと酒が進んじまうよなぁ!」
『あっはっはっはっ!!』
「しかしよぉ、早くあの水に浸かった女二人で遊ばせてくれねぇかなぁ!」
女二人…まさか…
「だよなぁ!どーせデータ吸い出し?か何かが終わったらいらねぇんだし、早く使わせて欲しいもんだぜ」
少し待ち、出ていった男が帰っきてから、壁を背にしたまま突然
「なっ!てめぇ!」
「どこから入った!?」
男達が武器を手に取るが…
「王狼の命令だ……」
―――静かになった部屋の扉を出て、それっぽい部屋を片っ端から見て回る!
たまに二人位警備兵が出てくるが、名も無き刀で峰打ちにした!
こういうセオリーでは、塔の最上階か最下層のどちらか…現代ならば通常は屋上に給水塔が設置されてたりするのだが…
データ吸い出しというなら人目に付かない研究施設、施設を増設するならば先を見据えて地下に作る!
風のように通行人をすりぬけ、最下層一番奥の扉を飛びならが思いっきり袈裟斬りで扉を壊した!
……間違ってたら笑顔で謝ろう…
だが、そんな杞憂は無く、扉を突き破ると大きな研究施設になっていて、走って奥まで見に行くと……
いた!!!
ママが二人共!!!
液体に浸かり、頭部や身体にパイプが繋がれている!
「誰だ貴様は…大いなる研究の邪魔になるから帰って頂こう」
白衣の男が呟くと、後ろからすり抜けてきた警備兵が三十人位入ってきた!
「返してもらおう、その二人を!」
「ふっ、そうか!娘もいるとは聞いていたが君の事か!折角だ、君のデータももらおう」
両手を叩くと警備兵が更に増えた!
酒の臭がするのでさっき部屋でだらけていた奴らだ!
「我は【
名も無き刀ですり抜けながら、ママ達の入っている容器を斬る!!
中の液体が流れ出しながら二人が倒れてくるので受け止める!
良かった…体温はある…
「…貴様!なんて事をしてくれる!警備兵!小娘を殺せ!」
激しい銃撃音と共に警備兵が次々と倒れて、残った白衣の男に銃口の全てが向けられた!
「どういう事だ!私はここの最高責任者だぞ!」
「今は
「王が令する、その男を独房に繋いでおけ」
全員白衣の男を拘束して出ていったのでママ達を抱え、ダイヴアウトしようとした瞬間、何かが飛んできてコロちゃんが爪で弾いてくれる!
「その女は連れて行かれたら困るんだ…」
「新手?!」
用心棒らしき女が現れた!
「済まないが、それはいるんだ。お前もここで利用されて殉死しろ!」
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