第19話 谷先生の決断

彼女は悲しみに打ちひしがれた。


苦しみにもがいた。


「どうしてこんなことになったんやろか。

どうして、うちはこんなにも苦しまなあかんのや」

彼女は呟いた。



しかし、教え子達の言葉を聞いた彼女は

前を向くことができた。



彼女は決意した。


教え子達にとっては幻想の世界こそ本当の世界だった。

その世界で明るく懸命に生きる教え子達の姿を見れたことから、

彼女は現実の世界で暮らす勇気が持てたのだ。


"ありがとな、お前達……。

うちは安心して行って来れるで"


彼女は自分が人間ではなくクローンであり、

人工知能であることを受け入れた。


自分が生まれながらにして死んでおり、

弟と別れており、

大気を救っていないことを乗り越えた。


自分の人生が全て嘘だったことや、

幻想の世界で幸せだったこと、

愛した人々が存在したことを彼女は決して忘れなかった。


「うちは、うちや。

うちにはこの世界に生きる権利がある」

彼女は言った。


そして涙した。




感謝の気持ちを抱いた。


希望の光を見つけた。


「でも、うちは幸せやった。


うちは愛されていた。


うちは愛していた」


それだけで十分と彼女は思った。



彼女は自分の人生を生きることにした。


「ありがとな、月水」

彼女は弟の手を固く握った。


弟の温かな手からは弟の心の温もりが感じられた。



弟の涙を見た。

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」

弟は泣いた。


彼女は幸せだった。


もちろん、悲しかった。


しかし、確かに愛されていた。


彼女はゆっくりと目を閉じた。

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