第18話 教え子達との絆

それは彼女にとって決して忘れるはずの無い少女の声だった。


その声は大切な教え子の一人真智のものだった。

真智は、彼女が教える高校の彼女が担任を務めるクラスに在籍しており、

真智が部長をしている科学部の顧問は彼女がしていた。

真智は優秀で明るくて可愛らしい少女だった。彼女は真智を大切に思っていた。

でも、真智も幻想だった。


「先生〜、私達は本当に存在するんです〜!」

四葉の声が続いた。

彼女も教え子の一人だった。

四葉は、真智と同じクラス同じ科学部で、

天才的な頭脳と奇妙な行動をする少女だった。彼女は四葉とアホな科学実験をしたり、

時には19万6883次元の世界を冒険したりしたことを覚えていた。

でも、四葉も幻想だった。


「先生、あたいらは先生を忘れないぜ!」

宙の声が加わった。

宙も教え子の一人だった。

宙は、真智と四葉と同じクラス科学部で、

下品な性癖を持つ少女だった。

彼女は宙と死後の世界を冒険したことを思い出した。

でも、宙も幻想だった。


彼女は手に持っていたナイフを見つめた。

それを自分の胸に突き刺すだけで、

すべてが終わる。


でも、それをすると、

彼女達教え子と過ごした楽しかった記憶も消えてしまう。


彼女は涙がこぼれるのを感じた。


「私達は先生が大好きなんです!」

三人が一斉に叫んだ。


その声には力がこもっていた。


谷先生は彼女達の迫力に押され、

ついナイフを手から滑らせてしまった。


あっ!


え!?


……


とっさの事に誰もが静かになった。


部屋はまるでスローモーションの様に研ぎ澄まされた。



次の瞬間だった。


トーーーン……。


フローリングを跳ねる硬い音が一つ、

一室に響き渡った。



彼女は三人に抱きしめられた。


彼女達教え子の温かさと匂いがした。


彼女は決断していた。

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