第15話 事の真相

谷先生は自分の姿を見て、信じられなかった。


彼女は自分が人間だと思っていた。


教師だと思っていた。


自分が大気を救ったと思っていた。

 

しかし、それらは全て幻想だった。


彼女は自分が何もないと気づいた。


彼女は月水博士の目を見つめ、

真実を求めた。

「うちや誰なん?どこから来たんや?

過去は何なんや?」


月水博士は深く息を吐き、彼女に過去や彼女の正体を明かした。


彼の声は震えていた。

「実は、僕は君の双子の弟なんだ。

君と僕は孤児院で育った。

その孤児院は地下深くの研究所と通路で繋がっていたんだ。

研究所では非人道的な生物兵器開発の極秘研究が行われていた」


彼女は信じられないという表情で聞いていた。


月水博士は続けた。

「僕達は子供の頃、好奇心から研究所内部まで侵入して、

その中で起きた事故に巻き込まれてしまった。僕は何とか脱出することができたが、

君は重傷を負って死んでしまった」


彼女は自分の胸に手を当てた。

心臓が高鳴っているのを感じた。


「でも、死んだ君を発見した研究所の科学者たちは、

君の脳だけが奇跡的にまだ生きていたことを知ったんだ。

科学者達は研究の為にと君の脳を摘出し、

脳だけの状態で生命維持装置で生かすことにした。

 そして、君の脳波と共鳴した人工知能を生み出し、君の体細胞から生み出したクローンに移植した。

それが今の君なんだ」


彼女は言葉を失った。

自分が人間ではなく、

人工知能とクローンの組み合わせだという事実に衝撃を受けた。


「うちは・・・うちやないんか?」

彼女は涙ぐんだ目で月水博士に尋ねた。


月水博士は彼女に優しく微笑んだ。

「いや、違うよ。君は君だよ。

君の記憶も感情も本物だよ。

僕はずっと君を探していたんだ。

僕にとっても、君だけが家族なんだ」


彼女はその話を聞いて、絶望した。


自分が今、人間ではないという事実。


自分が死んでいたという記憶。


自分が弟と別れていたという現実。


自分が大気を救っていなかったという真実。


自分の人生が全て嘘だったという衝撃。


彼女は涙を流しながら、弟に問い詰めた。

「なぜ、真実を教えなかったんや?

なぜ、助けに来なかったんや?

なぜ、うちを研究に利用したんや?」


弟は静かに答えた。


彼が真実を教えなかったのは、

彼女が幸せに暮らせるようにするためだった。


彼が助けに来なかったのは、

研究所から逃げるのに精一杯だったし、

彼女が死んだと思っていたからだった。


彼が研究に利用したのは、

自分の夢である意識の研究を実現し

姉を生き返らせるためだった。


「ごめんなさい。僕は君に酷いことをした。

僕は罪深いことをした」

彼は頭を下げて謝罪した。

本当に後悔している様子だった。


谷先生は弟の言葉に心を動かされた。

彼女は弟が本当に心配してくれていることを感じた。

また、弟が本当に愛してくれていることを信じた。


彼女は涙を拭って、弟に許しの言葉を告げた。

「ありがとな。うちは許す。

感謝するで。

生きていることに感謝してるで。

夢を追ってくれたことに感謝する」


彼女は弟に抱きついて、感謝の気持ちを伝えた。

彼女は弟の温もりに安心した。

彼女は弟の夢に共感した。

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