第43話 陽子SIDE 気になる噂


私は萌子について司にどう話して良いか迷っている。


萌子の見た目は眼鏡を掛けて三つ編みをしている時は、そうだね、図書館が似合う地味な女の子という感じかな。


そして、三つ編みを解くとウェーブ掛った感じの髪になり、眼鏡を外すとちょっと怪しい感じの美少女になる。


それが私の知っている湯浅萌子…まぁ友達ではあるのかも知れない。


昔は親友だと思っていた時期はある。


だけど、萌子には危ない所が沢山あった。


勿論、今の高校の時じゃない…


中学時代の萌子は今の姿とはかけ離れていて、派手な遊び人だった、そんな噂を聞いた事がある。


何となく違和感は最初からあったわ。


萌子は『何となく自分のイメージを作っているんじゃないか?』


そう言う違和感を思った事があった。


『考え方が少し可笑しい』そんな所が結構あったから…


別に誰かがイジメられたわけじゃないけど、イジメについてクラスの女子数人で話していた時の事だけど…


萌子は「虐めは弱いから虐められるの…弱い人間が悪いのよ」そう言いだした事があった。


私が「弱い子だから虐めて良いって訳じゃないよ」そう言ったら…


「弱い人間なんて居ないって、強いと思っている奴も金属バットで後頭部を殴れば死ぬんだよ…きゃははは」


そう言いだしたんだ。


これを聞いて、その時は、皆冗談だと思っていたけど、似た様な事を度々言うから私は、少し怖くなり、嫌気がさして距離をとる事にした。


萌子は司が好きみたいで、司の周りにはいつもいる。


だから、完全に友達をやめる事は難しいかも知れない。


偶に可笑しくなるけど、基本萌子は悪い人間じゃなく、萌子が可笑しな話をするのも個性という事で皆は認識するようになったけど、どうしても私はそう思えなかった。


元から、容姿が良く社交的な性格だったので『偶に悪質な冗談を言うが愉快な子』そう皆は思っているみたいなんだけど、なんとなく私は違和感を感じる。


◆◆◆


これは偶然なんだけど、暫くして、美津子の友達の友達が、萌子の友達だった。


美津子とは疎遠になったけど、友達ではあったのか、萌子の危なさを知って私に教えてくれた。


「『湯浅萌子』が危ない存在だから近づかない方が良いよ」そう私に電話をくれた。


私はどうしても、その内容が詳しく知りたくて、久しぶりに美津子と喫茶店ルールで会う約束をした。


美津子は私が詳しい話を聞きたいと言う事を重く見てくれたのかも知れない。


会う約束した日に喫茶店に萌子の友達を連れてきてくれた。


人を見かけで判断しちゃいけないけど、明らかに『不良です』そんな雰囲気をしていた。


「初めまして、私が三浦…」


「あっ、自己紹介要らないから、あんたの傍に萌子が居るんだろう? 悪いけど関わりたくないから、私は名前も名乗らない…ただ美津子の友達だって言うから萌子がどんな奴かだけ教えてやろうと思って来ただけだから!」


「そう…ですか…」


どう見ても危ない人間が、萌子を怖がっている。


一瞬そう思ったが勘違いだよね…


「ああっ…まずこれを見て欲しんだけど!」


そう言うと、美津子の友達はスマホの写真を見せてきた。


写真には肌を黒く焼いて、茶髪というか金髪にしていて、パンツが丸見えのミニスカートを履き、ヒョウ柄のハイレグのパンツが丸出しの女の子が映っていた。メイクも派手で、簡単に言うなら『下品』『不潔』『遊び人』それが頭に思い浮かぶ感じの人物だ。


「それがどうかしたの?」


「これが中学時代の萌子…見た目からして凄いだろう?」


どう見ても、今の清楚な萌子からは想像がつかない。


こういう言い方は悪いが『ばっちい』そう思えた。


「確かに…え~と」


「遠慮しないで良いって!不良っぽい、危ない奴じゃないか?そう思ったんだろう? まぁ私と同じで…」


「…スイマセン」


「普通の不良位なら、危ない奴なんて私は言わないよ! 萌子はまず、売春をしている! しかも、理由は解らないけどかなり昔からね…」


「売春?!」


「ああっ、それも最低、最悪の売春でさぁ、金さえ払えば基本的に断らない!ホテルに行くのも面倒くさがって、その辺の公衆便所で、ゴムも使わず、生でやってやがったのさぁ」


「それ、本当ですか?」


今の萌子からは信じられないし、雑誌で見た売春はホテルに行ってシャワー位は浴びていた気がする。


「しかも、彼奴、一応はお嬢様なのに、頭が可笑しいんじゃないか? 本当にそう思ったよ!萌子の凄いのは、性病に掛かった相手でも生で売りをしていてね、更に自分が性病に掛かっていても平気で生で売りをしていたんだ!その頃の彼奴は凄く不潔で、男とした後シャワーも浴びないから、傍を通っただけで凄く臭かったよ!どんな匂いかは察してくれ」


「あの、それは誰かにやらされていたとかじゃ無いんですか? 萌子が被害者で誰かに脅されていたとか?しかも、そんな状態で買う人が居たのですか?」


自ら進んで、そんな不潔で地獄の様な生活をしているなんて思えない。


「普通はそう思うだろう? だから、先輩に言われて萌子の事を調べたんだよ、だけどそんな事は無かった!何人かで外で見張りしたり尾行したから間違い無いよ! まぁ中学生が生でやらせてくれる、その評判で、不潔でも買う男は多かったみたいだよ!流石に性病は知らないで買っていたと思うけど」


「だけど、それだけじゃ、ただ売春をしているだけで、貴方が危ない!そう思う事は無いんじゃないですか?…買った人間はお気の毒ですが! そもそも未成年を買うような人間碌でも無い人だと思います!」


「確かにそうだけど?かなりの人間と関りがあったのか百人単位の人間に性病が広まったんだよ! 男は自業自得かも知れないが、彼氏や旦那に移された女性は溜まったもんじゃ無いと思わない?」


確かにそうだ。


「それって色々と問題に成らなかったんですか?」


「成らなかったよ、中学生を買ったなんてバレたら警察沙汰になるからね、男は誰も訴えられない。女に性病を移したのは男だから萌子は加害者じゃないから」


「凄い話ですね。だけど、その言い方は悪いけど、貴方は不良に見えるけど? そっちで何かしたりしなかったんですか?」


「したよ…その結果がこれ」


そう言って彼女は太腿と歯を見せて来た。


太腿には傷があり、歯は入れ歯をしていて外して見せた。


「それ、萌子が…」


「ああっ、彼奴は強いんじゃない、怖いんだよ!平気で人を刺すし、顔面を普通にバットで殴れる、そして、狡猾なんだ!」


「それにしたって、不良って人数を集められるんじゃないですか? 数人でリンチとか聞いた事あるんですが、萌子は1人なんですよね!」


「ああっ、この怪我をした時に私は先輩と一緒に10人でとり囲んで焼きを入れようとしていたんだけど、萌子の奴、そうなるのかを知っていたのか、先輩の妹を攫っていたんだ!そしてこう言った。『あんたの妹、今攫っているんだよね?私に逆らったら男に犯させて動画を撮って配信するから…明日からチャイルドポルノスターだね』って、動画まで見せて来て、先輩も含み私達はもう無抵抗になるしかなかったよ!その結果がこれだ!これでも私は良い方なんだよ」


太腿を刺されて、前歯が無くなった状態が良い方?


「それで良い方…」


「ああっ、先輩は『妹の代わりに抱かれたら、妹は助けてあげる』そう言われて萌子について行ったんだ!萌子の奴、客に連絡してホテルに客を次々に呼んで、3日間休みなく、20人以上の男に犯させたそうだよ!おかげでイケイケの先輩だったのに、今じゃ男性恐怖症になって精神科にカウンセリングに通っているし、近くを男性が通るたびに体が震えて動けなくなるんだよ」


「そんな、そこ迄なの萌子は…」


「ああっ、偶に先輩にお見舞いに行くんだけど、萌子が犯される先輩に言ったそうなんだ『貴方のこれはまだ地獄じゃないよ? 直ぐに解放されるんだからね…私が過ごしていた地獄はこんなもんじゃなかったから』って」


「それ本当ですか?」


「信じる、信じないは自由だよ! 私達のテリトリーは此処から遠いし、どこかで萌子に会っても、絶対に関わらない。ただ、知り合いの友人が萌子の毒牙に掛かるのは目覚めが悪いから『警告』だけしただけだから! それにこれは昔の萌子の話だから、今は違うかも知れない! だけど、あんた真面な学生なんだろう? 関わらない方が良いと私は思う! あの萌子が変わったとは私は思えないからね」


「そうですか、教えていただきありがとうございました。」


「ああっ、それじゃ私は行くから、此処はおごりで良いよね?」


「勿論です、態々ありがとうございました」


恐らく萌子が怖いのだろう、彼女の手は良く震えていた。


それでも、態々話してくれた彼女は優しい人なのかも知れない。


◆◆◆


「美津子その、ありがとう!」


「別に良いよ…色々あったけど私達友達でしょう? 今になれば、あの時の私は可笑しかった…酷い事してゴメン!」


「良いよ、昔の事だもん! 私だって、そう言われたら、謝るしか無いよ、怪我をさせてゴメン! 」


「それじゃ、お互い様って事で良いよね?」


「勿論、なんだか、今日は話に付き合って貰ってありがとう」


「良いよ、だけど、今私も聞いて驚いたけど? その萌子って司くんの事が好きなんでしょう?」


「間違いないわ」


「それで、司くんとは付き合っているのかな?」


「そうなのかも知れないし、解らない」


「そう…もう一度聞くけど? 陽子は司くんの事『姉弟』みたいに思っているけど『男女』として好きな訳じゃ無いんだよね?」


「多分」


「多分になっちゃったか…困ったなぁ~ 男女として好きじゃないなら距離を置けば、そうアドバイスをするつもりだったんだけど、困ったな~」


「なんで!」


「司くんってさぁ、多分魔性の男なんだよ…だからね…その」


「私の事を気にしないで良いから話して」


「そういう意味じゃ無いけど、私司くんの事、異常な程好きだったじゃない? その好きが可笑しいんだよね…独占したくなったんだ」


「独占?」


「うん、司くんを自分だけの物にしたい、そんな気持ちで気が狂うんじゃないか、そう思った」


「そこまで好きだったの!だけど、それなら、なんで…今は彼氏がいるんでしょう?」


「多分、気のせいだと思うけど『愛』じゃなく『欲』という感じかな、不思議と距離を置いたら、何故かそれはおさまって、どうしても『欲しい』その欲望が無くなったのよ…だから司くんの魅力は魔性だと思う」


「そう…」


「まぁ、陽子は幼馴染だし、私みたいに流されそうにないから大丈夫だよ!その頑張って、それしか言えないよ」



「そうだね、ありがとう」


「ただ、話をしてあげただけだから気にしなくて良いよ…それじゃあね」


美津子も帰っていった。


幼馴染ってなんなのかな?


最近、解らなくなってきたよ。


萌子が改心して司と付き合っているなら、それで良い。


でも違うなら…あれっ私はどうするんだろう?





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