第34話【閑話】アキ最後の願い
儂は孫が心配だった。
儂の失敗から失わせてしまった司の目。
お稲荷様の仲介で、閻魔様の力を借りて目をもらい受ける事が出来たが、あの子は儂が思った以上に、お稲荷様に愛されていたようだった。
貰い受けた目は『人の目』にあらず、神通力のある『お狐様』の目だった。
今思えば、小さい頃から稲荷神社で遊び、儂の影響からか偶に手を合わせていた。
最近はそんな子も少ないから、愛される要素はあった。
だが、神通力まで授かると思っていなかった。
『困った』
司が愛されていなければ、そもそも目なんて貰えない。
だが困った。
祭っておいてなんじゃが、獣の神様は頭が良くない。
人間の神は運命を付け足す事が出来るが獣の神様は付け足す事が出来ず…他の運を削って付け足す。
例えば『金持ちになりたい』そう願い、獣の神が願いを叶えたら、他の運が削られる。
お金持ちになっても、恋愛運が削られ、生涯独り身なんて事もあるし、寿命が削られたら、若くして死んでしまう。
つまり、何か願いを叶えたら、その分何かしら削られる。
それが獣の神様の特徴なんじゃ。
某有名外食チェーンは『蛇石』に願掛けをして一大チェーンを築いた。
だが、家族は離散状態、今度は家族円満を願ったら、家族仲は良くなったが、お店は赤字続きで倒産した。
この辺りは業界では有名な話じゃ。
だから、閻魔様を絡めて儂が好物を生涯食べない事で釣り合いを取ろうとしたが…視力の他に神通力まで貰ってしまった。
『その分のしわ寄せが司に来る』
そう思った儂は、司をよく見る様にしていた。
司は何を失ったのだろうか…
それが、心配で見ていた。
司が無くした物…それは恐らく『他人からの愛情』だ。
恐らく、あの能力と引き換えに『恋愛運』『家族運』そういった愛情を失ったのかも知れぬ。
その証拠に、あの日から父親も母親も、司に対する愛情が減っていっている気がする。
確かに、儂と付き合う司を嫌っておったが母親には司に対する愛情は間違いなくあった。
だが、今は明らかに『忌み嫌う目で司を見ている』し息子も、自分とも無関係な顔で司を見ておる。
明らかに『司は愛を失った』
幼馴染の陽子ちゃんも『司と結婚するんだ』そう言っていたのに…どんどん愛情が掠れて来ている気がする。
このままじゃ、もし司を愛してくれる存在が居ても…すぐに愛情が薄れていき別れる…そんな未来しか司には無い。
『愛情運』が無いと人は繋ぎ留められない。
司…済まんかったな。
◆◆◆
儂は1人夜中の稲荷神社にお参りにきた。
儂が祈り望んだのは人生で2回目。
獣の神様に物事を頼むには代償が必要じゃ。
司の目の時には『代償』を指定したが、代償1つで2つの物を貰った…だから、ああなった。
祈るなら、事細かに、祈らないといけない。
天狐様も獣の神様じゃからな。
「天狐様、どうか、東狐アキの願いを聞いて下され…我が命を捧げます…だから…我が孫司に良縁を下され! 司を生涯愛し…1人にしない良き妻を…良縁を…」
『アキよ…お前やその孫が、いつも我をお参りしてくれ崇めてくれた…我はあの存在を気に入ったからこそ、力の一部を授けたのだ…あの者に、良縁を授ける事を約束しよう…才のある娘との縁、約束した…安心するが良い』
「ありがとうございます」
『うむ…』
これで司は安心じゃ。
◆◆◆
それから暫くしてアキは死んだ。
それはこの願掛けが原因なのかどうか解らない。
その死に顔は安らかだった…
だが、アキは…間違ったのかも知れない。
狐と言えば化かすのが上手い獣。
天狐は神に尤も近い存在だが…その天狐から見て『才のある娘』とはどんな存在なのだろうか?
妲己、玉藻の前 絶世の美女に化けていたのは九尾の狐、歴史に名のある悪女だ。
他にも 美女に化けた狐に誑かされる話は山ほどある…
恐らく、天狐が選ぶ基準が『人間の基準』の訳が無い。
アキは誤ったのかも知れない。
例えば…『三浦陽子』彼女は本来なら、司が好きで、結婚したいとまで言っていた。
もし『彼女を伴侶にして欲しい』そう願えば、案外普通に司は生きられたかも知れない。
『伴侶を天狐に任せた』
それがどんな結果になるのか…
それはもう、誰にも解らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます