第33話 王子様だから


「萌子、お前まだ俺は返事してないよな?」


「そうだよね? だけど同棲するってそう言う事じゃ無いのかな? それとも司くんは誰でも同棲するのかな?」


「しない…」


「なら、結論は出ているでしょう?ほらほら…」


何だか負けたみたいで悔しい。


まぁ噂が流れた状態で一緒に帰る時点で、ある意味答えが出ている。


「ああっ、俺も好きだよ…これで良い?」


「ちょっと司くん、それは無いよ?」


「何処が? ちゃんと好きだって言ったろう?」


「普通はもう少し…そのね…萌子愛している! とか心を込めてくれても良いんじゃない?」


「萌子、愛している…これで良い?」


「『これで良い』が余計だし…」


「あのなぁ、萌子、俺は感情を表に出すのが凄く苦手なんだよ、だからこれで許してくれないか?」


「うんうん、それじゃ仕方が無い…それで手を打ってあげる」


「ありがとう」


なんだか、騙されたようで釈然としないがこれが萌子の性格なのだから仕方が無いのかも知れないな。


「それじゃ、私は実家に寄ってから帰るからね…」


実家? 今萌子は実家って言ったよな?


「萌子、実家って?」


「あはははっ言葉のあやだから心配しないで」


「そう、まぁ良いけど」


ちゃんと向き合ってみれば、萌子がどれだけ俺が好きかは解る。


『好き』という事は解っているが、何故此処迄好かれるのか解らない。


「それじゃ、私実家に行かないといけないから、4時位には帰るからね! あ.な.た」


「…まぁ良いや、それじゃ待っているから」


「うん、待っててね、あなた…」


どうやら、新婚ごっこはまだ続くようだ。


石砂高校バンザイだな。


他の高校だったら良くて停学。


悪ければ退学だ。


◆◆◆


家に帰ってきた。


今迄と違って、この家に一人で居るのが少し寂しく感じる。


「こんちわ! 金寿司です! お寿司の出前に参りました…はい特上4人前」


「えっ、家は頼んで無いですよ」


金寿司は高級寿司だ。


貧乏高校生の俺が頼むわけない。


「おかしいな、代金は湯浅さんから貰っているんだけど?」


「ああっ、それなら、こちらで間違いないですね…すみません」


「それじゃ」


金寿司の特上は3800円だ…余裕で1万円超えるじゃないか?


良く考えたら、萌子って東方の高級住宅街に住んでいるんだよな。


あの辺りの家は安くても3億円は下らない家ばかりだ。


やっぱり萌子はお嬢様なんだな。


「ただいまぁ~いやぁ、ペットの世話があって遅れてごめんね…あっもう届いたんだ」


そういう萌子の手にはビニール袋が握られていて、その中にはペットボトル入りのジュースやお菓子が入っていた。


「ペットの世話…大変だね、なんなら此処に連れて来ても良いよ…まぁ狭いけど」


「あっ、それなら大丈夫、親のペットだから、だけど世話を手伝う約束していたから、それだけは守らないといけないんだ…ほら、親が働いているからね」


「そうなのか、大変だな! だけど、このお寿司はどうしたんだ? 金寿司だから高いよな…大丈夫なのか?」


「それなら気にしないで良いよ! ほら、付き合った記念日だし」


「だけど、これ」


「お金も気にしないで良いからね!ほら私お嬢様だから、おほほほほほっ!」


「さいですか…」


まだ暮らして2日目だが、萌子が凄く面白い奴だと言う事に気がついた。


負けだ、俺の負け…


「しかし、司くんって本当に達観しているよね?」


確かに、その通りだ。


俺は少し冷めた所がある。


それは、この能力のせいだ。


人の真実を見抜くこの力のおかげで嫌な事も知ってしまう。


そのせいだ。


「そうだな…確かにそういう所は俺にはある…だけど、なんで萌子は俺を好きになってくれたんだ…」


俺の能力は、結果だけしか解らない。


萌子が俺を好きな事は解る。


だが、その理由が全く解らない。


「え~と、それは司くんが、萌子の王子様だからかな?」


「それってどう言う事?」


「教えてあげない…内緒、それよりお寿司食べよう…ほらコーラも買ってきたから」


「そうだね、ありがとうな」


「どう致しまして」


遠まわしに好きになってくれた理由を聞いてみたが『王子様だから』しか理由を教えて貰えなかった。

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