第32話 知れわたる
「この厚揚げ美味しいわ、お豆腐のお味噌汁も…うん絶品」
「そりゃどうも」
確かに美味しいと思うが、それは素材が良いだけだ。
スーパーと違い、ちゃんとした豆腐屋さんの豆腐は凄く美味い。
『豆屋』さんはお婆ちゃんが好んでいたお店で、俺の数少ない贅沢で今でもこの豆腐を食べている。
厚揚げはただ焼いて、チューブの生姜を絞って醤油を掛けただけ、味噌汁も出汁入り味噌を使ったものだ。
「え~料理褒めたのに、その反応?」
「いや、これは凄く簡単な物だから…褒められてもな、だったら今日の夕食は真面な物作ってやるよ」
「うわぁぁ、本当? 凄く楽しみ!」
「ほら、もう余り時間が無いぞ、食べたら行くぞ」
「うん」
誰かとご飯を食べたり、会話する生活がこんなに楽しいとは思わなかったな、困った。
気のせいか萌子がかなり可愛く思える。
これが孤独からなのか、それとも『好き』になったのか解らない。
それとも違う何かなのか…
◆◆◆
「おい、これは不味いんじゃないか?」
「別に腕を組む位良いじゃない? うちの高校は恋愛自由だし、うん問題ない!」
「いや、その前に、まだ付き合ってないし…」
「えーーっ! もう同棲しているのに?」
「お前、まさかこれが目当てとか言わないよな!」
「さぁ~どうだろう?」
今更だな。
もうどうでも良いや。
「もう、良いよ…ただ、あんまり言うなよ!」
「え~どうしようかな?」
結構なたまだよな…
我が石砂高校は、男女交際も何も問題ない。
何しろ、先輩の中には妊娠して通学している人もいるし、既にパパになっている先輩もいる。
『基本、裁判にでもならない限り罰さない』
これが石砂高校のモットーだ。
だから、問題が無いと言えば問題はない。
しっかりと規定を満たせばだ。
まるで大学の様に単位があり、テストで赤点をとればしっかり単位をくれない。
尤も授業にしっかり出席をしていれば『出席点』も加算される。
だから、『頭が良くテストでしっかり点数を出すから、授業に参加しない』『頭脳に自信が無いから授業にしっかり参加する』そういう生徒に大きく別れる。
だから、妊娠するような生徒やパパになっている生徒の多くは、意外にも成績優秀な者が多い。
「もう勝手にしてくれ」
呆れ顔で俺は萌子に伝えた。
「うん、解ったよ!」
きっと、解ってない。
萌子の性格からして、まぁバレるのは時間の問題だろう。
俺と違って友達が多いからな。
◆◆◆
「司、萌子と付き合っているんだって?」
流石に早すぎだろう…
次の休み時間にはかなり周りに知られていて、陽子が俺に聞いてきた。
いや、俺返事はしていないよ…同棲はしているけど?!
う~ん、凄く困った。
返事こそしてないが、多分俺も萌子の事が好きだ。
今現在も同棲している様なものだ。
付き合っていない状態で同棲…それこそ可笑しい。
「まぁな…」
否定するのも可笑しいよな。
「そうなんだ、解った、それじゃあね」
なんだか、余所余所しい。
元から、俺なんか好きでなかったんだから関係ないだろうに…
只の幼馴染なんだから…
まぁ陽子は陽子で恐らく好きな奴がいるんだろうから関係ないか。
しかし、萌子の奴、もう言いふらしているのか…
まぁ、俺の事が好き…『萌子は司が異常な程好き』なんだから仕方が無いな…
うん?『異常な程好き』?
『異常な程』ってどう言う事なんだ?
まぁ良いか…『好き』には変わらない…萌子は変わっているから、きっとその事だ。
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