第27話 心の中


女の子が、何を差し置いても『家出』したい理由。


それは、なんだ?


少なくとも、その理由は萌子にとって、凄く重要な事で『体を売って』まで家を飛び出す。


それ程の理由だ。


これで受け入れない訳にはいかない。


流石に1人の少女が身を持ち崩す姿は見たくはない。


幸い、俺は1人暮らしだから、問題はない。


だが理由位は知りたい。


遠まわしに理由を聞こうとしても、その度に萌子は真剣な顔になり、目が泳ぎ泣きそうな顔になる。


お婆ちゃんに言われて『人間観察』の目をある程度は磨いたつもりだけど、何も解らない。


だが、一つだけ気になる事がある。


それは言いにくいが『体についてだ』


例え冗談でも、これから同棲する相手に、押し倒して良いなんて言うだろうか?


これではまるで、萌子がそう言う経験がある。


そう感じてならない。


だが、萌子が彼氏を作った。


そんな話は聞いた事は無い。


だったら…


幾つか想像がつくが、それはどれもこれも、嫌な想像しかつかない。


『ごめんな』


そう心で謝り、俺は今まで絶対に女の子には使わない。


そう決めていた事に能力をつかった。


『湯浅萌子は男性経験がある』


すぐに頭の中に『ある』という答えが浮かんだ。


やった事を少し、かなり後悔した。


もう、萌子や親しい相手には…使うのをやめよう。


そう思った。


多分、萌子は俺が思っている以上に、悪い状況にいるのかも知れない。


普通に考えて、体を許す程の関係なら恋人、彼氏の筈だ。


その状況なら、俺の所になんて来ないで、恋人の家に行くはずだ。


それが、俺の家に来たって事は、そういう相手が居ないって事だ。


俺と萌子は…そんなに深い関係じゃない、だがそれでも『俺を頼るしかなかった』


そういう事だよな…


◆◆◆


「司くん、ご飯がもうすぐ出来るよ」


屈託のない笑顔でフライパンを振るいながら萌子は答える。


萌子は今回の家出の際に、米や食器、着替え等、最低線必要な物は持って来ていた。


そして、勝手に台所で食事をつくり始めた。


「随分と用意が良いな」


「うん、まぁ家出して困らない程度にはね…あはははっ」


これ確信犯だよな!


漫画喫茶に行くなら、フライパンは持って出ない。


「萌子、お前最初から俺の所に来る予定だったろう?」


「あはははっ、解っちゃった?」


そう言いながら小動物の様な表情で、俺を潤んだ瞳で見て来る萌子は…凄く可愛く思えた。


「此処迄、されて解らない奴は多分居ない…」


俺が此処にいて良いって言ったら、萌子はスーツケースから色々な物を片端から取り出していった。


いきなり歯ブラシが突っ込んであるコップに並べる様に歯ブラシを入れ、俺の茶碗をぶち壊し、お揃いの色違いの茶碗を並べ、俺の箸を捨て夫婦箸に入れ替えた。


それだけじゃなく、トイレには生理用品を置き…俺のタンスに萌子は服やら下着も入れていった。


これで解らない奴は絶対に居ない!


「そうかな?」


「そうだよ!」


「にしし、当たり前だよね?! まぁ許可してくれたんだし! 良いじゃん! それよりご飯できたから食べよう…冷めちゃうよ!」


「そうだな…」


ちゃぶ台の上にはチャーハンとスープがそれぞれ2つ並べられている。


萌子なりの恩返しのつもり、なのかな?


「どう?!」


「美味しい!」


「そりゃ、私だって女の子なんだから、これ位は出来るよ」


「そうだな」


「ああっ! 女の子に料理をして貰って、それだけなのかな?」


「うん、美味しい、ありがとう!」


「しかし、司くんって、本当に反応が薄いよね! なんだか、女の子とやたら距離を取らない? 結構美形だし、人気があるのに勿体なく無い?」


それは、俺の能力やこの目のせいだ…だが、その事は余り言いたく無いな。


「萌子にも事情がある様に、俺にも事情はある! だから、簡単にしか話さないけど…それで良いか?」


「うん、うん、それで良いよ」


俺はチャーハンをパクつきながら、自分の事情について話し始めた。


「この目って、好きな人と嫌いな人と大きく別れるよな?」


「確かに、違うとは言わないよ! 獣みたいで気味が悪いって言う子も居るよね? 私は物凄く好きだけど…神秘的でキラキラしてて、何時までも見ていたい位…偶に、怪しく光るのも凄く好きだよ」


「萌子がそうなのは解るけど?!大きく分けてこの目は『嫌いな人』『好きだけど関わりたくない人』『好きな人』この3種類に分かれるんだよ…そして『好きだけど関わりたくない人』を嫌いな人に入れると嫌いな人の方が多くなる」


「そうなの?! 宝石みたいに綺麗なのに!だけど『好きだけど関わりたくないって』って意味が解らない」


まぁな、俺が勘違いしていた位だからな。


「簡単に言えば『アニメや漫画のキャラクターみたいで素敵』だけど彼氏にするのは『嫌』そんな感じだよ! なんだか、俺に似た様な目の美少年の始末屋のアニメや、同じような目を持っている『金色の夜』なんて美少女キャラクターがいるんだって!だから、カッコ良い…そう思っている反面…実際に見たら、違和感から嫌う…そう言う感じだな、上手く言えんけど? だから、好きって中にはそう言う観賞用として…そういう奴も多い。だから友達なんかには成れないよ」


「そうなんだ? あははっ、私も観賞用にしているけど…良いの?」


「萌子のは、まぁ『人として見てくれての鑑賞』だから嫌じゃ無いよ!好みの女の子だったら見てしまう…それと同じだろう」


「…まぁね」


どうした?


なぜ、顔色が変わるんだよ…


「まぁ、そんな訳で、俺の事が好きって言っている奴も結構、俺の事を嫌っている奴は結構多いんだよ…だから決してモテていない」


「そうかな?」


「少なくともオタク系や地味なタイプは皆、そうだよ」


「だけど、司くんはなんで、そんな事が解かるの?」


やばっ…


「陰口を言っているのを聞いた事があるからな」


「そうなんだ、それは辛かったね?!」


「まぁな」


「それじゃ、私が慰めてあげようか?」


「え~と…なに?!」


「あはははっ、体使って慰めて…あ.げ.る」


「おい…」


「ほうら…良い子、良い子って…あはははっ」


「なんでいきなり頭を撫でるんだよ!」


「あはははっ『手だって体だよ』司くん、今別の事考えたでしょう? エッチだなぁ~」


「煩いな…もう良い、風呂行くよ」


「司くん…お風呂ってまさか一緒に入るの? エッチだよ…まぁ良いけどさぁ~」


「あのな…俺の家にはお風呂は無い! 奥の右側の扉は只の物置だ…だから銭湯に行くんだよ、銭湯!」


「なんだ、銭湯か? そんなのあったっけ?」


「この辺りは恵まれていて2か所ある、菊野湯と日清湯、普通のお風呂ならどちらも同じ、だけど日清湯はオプションでサウナがあるんだ。尤もサウナを使うと別料金で500円追加だけどな」


「へぇ~それなら司くんとの初お風呂だから、サウナつきの方に行こうか?奢るから」


「あの、萌子、先に行って置くが混浴じゃなく、男女別だよ」


「違うの?」


「違う」


「なら、近い方で良いや」


「それじゃ菊野湯で良いよな…支度したら行こう」


「うん…え~と司くん…なんで私を見つめて来るの?」


「いつも、萌子に見つめられて恥ずかしいんだ! お返しだよ」


「そう、なら私も…」


萌子を見つめながら、頭に思いを描く。


『萌子が俺を化け物みたいに思っていないか』


『思っていない』


すぐに答えが思い浮かんだ。


そしてこれはもう『見ない』と誓っていた事がある。


だが、萌子には使いたかった。


『萌子は俺の事が好きなのか?』


能力を使いこれを使った時に、何回傷ついたか解らない。


だが、萌子の笑顔、行動が嘘だとは思いたくない。


だけど、少し怖い。


『萌子は司が異常な程好き』


なんだ、萌子は本当に俺の事が好きなんだ…心配して損した。


なら良いや…認めよう。


「萌子、それじゃ銭湯に行こうか?」


「うん…司くん…その手」


「手を繋ごうかと思って、嫌だった」


「嫌じゃ無いよ」


嬉しそうに萌子は俺の手を握ってきた。








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