第38話

「赤鬼もクリアしたし、今日はここで終わるぞ。ご視聴ありがとうございました」


神代さんを寝かせたまま、配信を終わらせる。

さて、この後どうしようかな。まずは俺にしがみ付いたら神代さんをどうにかしないといけないんだけど、離してくれないんだよなぁ。


「神代さん、おきてくださーい」


揺さぶっても起きない。どうしようこれ。


「神代さん、神代さーん!……あ」


試しに強く揺さぶれば、神代さんの付けていた仮面が落ちてしまった。


……これ、怒られるんじゃ?


恐る恐る神代さんを見て、俺は絶句した。

なんて事はない。

そこに神代さんの顔があり、その女神のような顔に見惚れてしまっただけだ。

今世の俺は美少女だと自負しているが、それと比べるのが烏滸がましいほど、神代さんの顔は美しかった。

ここまで顔が整っている人なんて、前世を含め見た事がない。


「んぅ……」


そうやって見惚れていると、不意に神代さんの目が開かれた。

深紅の瞳はまるで宝石のようで、目を離す事ができない。

本当に、綺麗だ……。


「綺麗……」

「っ!?」


美しい顔が朱に染まり、目が見開かれる。

見るからに動揺している。俺も自分が何を言ったのかいまいちわかっていない。だがこれだけは言える。

この人は本当に——


「かわいい」

「!?!?!?」


あれ、俺なんか言ったか?

神代さんの顔がみるみるうちに赤くなっていく。その顔もめちゃくちゃ可愛いんだからずるい。


「あ、あのようこさん? 突然どうしたんですか?」

「……すみません。神代さんが可愛くてつい」

「っ!?」


神代さんが俺から顔を逸らし、照れたのを隠そうとする。と、そこで床に転がった仮面に気付いたようだ。

次の瞬間、目にも止まらない速さで仮面を付けてしまった。


「あぁ……」


残念だ。もっと見たかったのに。


「……私の素顔を見たのは、ようこさんが初めてです」

「そ、そうですか」


突然真剣身を帯びた神代さんに、こちらもできる真面目に対応する。まあ俺が真面目じゃない時なんてないんだけど。


「200年間、誰にも素顔を見せた事はありませんでした」

「はい」

「だから責任を取ってもらいます」


責任だと……!?

一体どんな形で取らされるんだ……?


「ようこさん、私の——」

「姉上、師匠入るぞー!」


部屋の戸が開けられ、しゅんこが入ってきた。俺達が配信している間、しゅんこは神代さんに教えられた家事をしていたんだがどうやら終わったようだ。

タイミングは悪いけどな。


「む、話の途中じゃったか?」

「いえ、構いません。ようこさん、この話はまた今度ということで」

「あっ、はい」


結局話は有耶無耶に終わってしまった。神代さんが何を言おうとしたのわからない。ただ、俺の今後を左右する事だということは、何となくわかった。


「うまい!」

「姉上にそう言ってもらえて嬉しいのじゃ。師匠、どうじゃ?」

「及第点ですね」

「やったのじゃー!」


配信部屋から出てきた俺達は、しゅんこの使った料理に舌鼓を打っていた。

しゅんこがご飯を作るのはこれが初めてだが、すでに俺の作ったものより美味い。神代さんが直々に教えたのもあるだろうが、俺よりも料理の才能があるのだろう。

普通に店出せるぞこれ。


「この美味さなら毎日食いたいな」

「うぇっ!? あ、姉上が望むならな!毎日作るぞ?」

「いいのか!? やった!」


なぜか顔の赤いしゅんこを尻目に、俺は鯖の照り焼きを食べる。そしてご飯を掻き込み幸せになる。これが毎日味わえるなんて最高だ。


「……後で襲われても知りませんからね」

「え、何か言いました?」

「いえ、なにも」


何か誤魔化された気がするが……まあいいか。

てかなんで神代さんは仮面付けたまま食えるんだ?

器用すぎるだろ。アニメの世界じゃないんだからさ。


「くっくっく、この供物大変美味だ。褒めて使わそう」

「しゅんこちゃんが料理上手くなってくれたおかげでもっと楽しくなるね!」


二人もそうやって褒めたたえる。

それはそうとネロはなんで未だに眼帯外さないんだ?

普通に食うのに邪魔だし日常生活で片目だけなんて疲れるだけだろうに。

それに銀花。お前なんで髪に青のメッシュ入れてるの?

俺聞いてないんだけど?


「さて、私はそろそろお暇します。……本当に残念ですが」


昼食を食べ終わると、神代さんが立ち上がりながらそう言った。

やはり総理は忙しいんだろう。ものすごく行きたくなさそうだが、ここはきちんと送り出してあげなければ。

心なしかその背中に哀愁が漂っている感じがするが、気のせいだろう。


「神代さん、今日はありがとうございました」

「いえ、私は自分の仕事をして遊んだだけですから。初めての友達ができた私の方こそお礼したいです」

「はは、総理のお礼が想像できないので遠慮しときます」

「大したことではありませんよ。結婚相手を紹介するくらいです」

「なるほど。俺はまだ結婚願望とかはないので大丈夫です」

「そうですか。………おそらくそれが芽生える前に既成事実を作られる可能性が高いですけどね」

「どうしたのじゃ師匠」

「いえなにも。では皆さん、またお会いしましょう」


神代さんはそう言い残し、光に包まれて消えてしまった。

え、なにそれ!?

神代さんは最後まで謎多き人物だった。











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頭痛に苛まれ文字数が少なくなっております。

次回からは普通の文字数に戻りますので今後ともよろしくお願いします。


追記

個人的に無自覚女たらしTS少女は圧倒的な攻めでメス堕ちさせられるのがすこです。

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