第37話

「ミ゛ャ゛ア゛ーー!! やめろ、来るなー! 俺のそばに近寄るなぁ゛ーー!!」


操作しているキャラが死に、ゲームオーバーの文字が表示される。これでもう14回目だ。


「うぅ……また死んだ……」

「ドンマイですようこさん」


:ナイス悲鳴

:悲鳴助かる

:14回目の悲鳴……良きかな

:猫みたいだぜ

:猫やな

:ようこちゃんと猫……閃いた

:通報した

:おいやめろ!


「はぁ、はぁ。まだ続けるんですか?」

「まだ始めて一時間も経っていませんよ。それよりようこさん。テレビの大画面でプレイするのやめません?」

「お断りします。友達なら一緒に地獄を味わってくれますよね?」

「……ひん」


:ようこちゃんがいきなり馬鹿でかいテレビに繋げ始めた時は笑った

:総理を地獄に付き合わせるのなんてようこちゃんくらいだよ

:総理の反応も味わえるからようこちゃんナイス

:そんな神代さん反応してたか?

:赤鬼出てきた時にビクッてしてた

:見ろ、ようこちゃんの服の裾掴んでるだろ?

:あってぇてぇ


「え?」


コメントで神代さんが俺の服の裾を掴んでいるという情報が入り、見てみると本当に掴んでいた。


「……」


あ、バレたのに気付いたのか急いで戻したな。なんかそっぽ向いてるし。


「神代さん……」

「何ですか?」

「今…」

「私は何もしていませんよ?」


神代さん……それで乗り切れると思ってるんですか?


:総理……

:流石に無理がありますよ

:なんか付き合いたてのカップルな感じするな

:ようこ×総理、あると思います

:いやいやしゅんこ×総理も捨てがたい

:百合豚は出荷よー

:(´・ω・`)そんなー


「ようこさん、早く進めましょう」

「そうですね……あの、そんな掴まなくても大丈夫ですから」

「つ、掴んでなんかいませんが?」

「震えてますよ?」

「そ、そんなことないです」


ゲームを進めていくんだけど、なんか総理を見てると落ち着いてきた。

これあれだ。自分より取り乱している人見ると逆に落ち着くって奴だ。

ふっふっふ、どうやら俺はホラーゲームを克服したらしい。このまま神代さんの反応楽しみながら進めてやるぜ!


「うわぁああああ!! 突然出てくんじゃねぇえええ!!!」

「ひっ……」


突然出てきた赤鬼から逃げながら、部屋に入りクローゼットを開けその中に隠れる。ふぅ、一安心だ。


:間一髪か

:てか総理ようこちゃんの驚いた声に驚いてるよ

:なんか小動物じみてて可愛い

:小動物ママか……

:ママ

:オギャ、オギャギャ

:オギャラー達がアップを始めました

:幼稚園にでも詰めとけ

:オギャー!


流れるコメント欄を尻目に、ゲームに集中する。

さて、ここからどうしようか。クローゼットから出るのはありえないよな。まだ足音聞こえるし。

まだ出るのは待つか。


ペタッ、ペタッ


素足で歩く音が、クローゼット越しに響く。


ペタッ、ペタッ


遠かったり近付いたり、こちらを探している様子が伝わってくる。


ギーッ、バタン。


扉が閉まる音が聞こえた。

……もう出てもいいかな?

クローゼットの扉を開け、外を確認する。

うん、どうやら居ないみたいだ。

なんだ、結講簡単に撒けるじゃないか。

そう思いながら部屋の中のものを物色し、手掛かりも得たところで扉を開ける。


その瞬間出てくる、赤鬼の顔。


「ミ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ひぐっ……!」


画面にデカデカと映るゲームオーバーの文字。これで15回目だ。


:んーー、いい悲鳴♡

:うへへへ

:たまんねぇなぁ、美少女が怖がる姿はよぉ!

:たぎる

:なんだよここ、世紀末かよ

:しっ、悲鳴ソムリエに聞かれたら酷い目にあうから思ってもそんなこと言っちゃダメだよ

:悲鳴ソムリエはもうちょい自重しろ

:それここのロリコン、百合豚、親衛隊にも言ってやれ

:おいちょっと待て、親衛隊ってなんだ

世風鈴:知らぬが仏ってやつだよ

:総理がようこちゃんの腕がっつり掴んでるのもいいしようこちゃんはようこちゃんで総理をホールドしてるのもいい

:そんなお前に朗報だ。数分前総理とようこちゃんの夢小説が投稿された

:↑ありがとう!

:神作の予感

:百合豚がアップを始めました

:いいチャーシューになりそうだな

:Σ(゚д゚lll)


「ラーメンっていいですよね……」

「何の脈略もなくどうしたんですか?」

「いえ、コメント欄で皆さんが話してましたので」

「神代さん、現実逃避しても目の前のホラーは変わりませんよ?」

「今私の目の前にいるのはようこさんだけですけどね」

「あっ、すみません。抱き付いちゃって」

「別にいいですけど、あまり他の女の子にしてはいけませんよ?」

「大丈夫です。今の所神代さんにしかしてませんから」

「そうですか……」


:(*´∀`*)

:( ´ ▽ ` )

:_:(´ཀ`」 ∠):

:(//∇//)

:\(//∇//)\

:(≧∇≦)

:顔文字だけなのにうるさいなこいつら

:てぇてぇ

:ようこちゃんって女たらしだよな

:ホストの才能あるよ

世風鈴:ぐぬぬ……

:鈴ちゃんステイ

ダンライブ公式:我が生涯に一片の悔いなし‼︎

:社長は働け


「ラーメンを食べるにしてもこの後ですね」

「ようこさん、頑張ってください。残念ながらまだ序盤です」

「謎解きは手伝ってくださいね」

「いいでしょう」


神代さんに手伝ってもらいながら、ゲームを進めていく。謎解きは神代さんの協力もあり早く終わったのだが、逃げる時に捕まったりしたおかげで結構時間がかかってしまった。

だがその甲斐あって後は最後の部屋に向かうだけだ。長かった。本当に長かった。

この地獄ももうすぐ終わる。


「頑張ってくださいようこさん、もうすぐです」

「任せてください!」

「頼みま……ヒッ」

「どうし……」


神代さんの小さな悲鳴を聞き、テレビ画面を凝視する。そして気付く。

廊下の奥に配置されている大きな窓を。それに映っているのは主人公である俺と、その後ろの部屋からこちらを見つめる赤鬼の姿。


後ろを向いたら、やられる。


俺はキャラを走らせ、目的の部屋に向かう。俺が勘付いたのに気付いたのか、赤鬼がこちらに向かってダッシュする姿が鏡越しに見える。


「逃げないとやられる逃げないとやられる!」

「走るんですようこさん!その廊下を曲がって二番目の部屋です!」

「うぉおおおお!!」


廊下を曲がり、二番目の部屋を目指す。短い距離だが、とても長く感じるその奥から。

どこからやってきたのか複数の赤鬼が姿を現す。そいつらは俺の姿を視認した瞬間醜い叫び声を上げながら襲いかかって来た。


詰みか?

いや、冷静になれ。

奴らと俺との距離は開いている。ここで止まることこそ詰みだ。

走れ。走れば地獄は終わる。


俺は過去一番の集中力で、目的の部屋の扉を開け、中に入った。


浮かび上がるゲームクリアの文字。


それと共に聞こえてくるエンディングは、地獄の終末を俺に教えてくれた。


「やった」


声が溢れる。

それと同時に、胸の中が達成感に満たされた。


「やったぁああああーーー!!」


:うぉおおおお!!

:やった!やりやがった!

:おつかれー!!

:すごいぞようこちゃーん!

世風鈴:ようこちゃんおめでとー!!

:おつかれー!

:よくやった!

:ナイスー!

ダンライブ公式:お疲れ様!

:ようこちゃんおつかれー!


「やった、やりましたよ神代さん!」


一緒に地獄に付き合ってくれた戦友に向き合う。


「あれ?」


だが俺の腕にしがみ付いた戦友は、一言も発しなかった。


「神代さん!?」


呼び掛けてもぴくりとも動かない。これはもしや……


「き、気絶してる」


戦友である神代さんは、どうやら俺を置いて旅立ってしまったらしい。

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