第36話
「弟子にしてくだされ!」
居間に戻るとしゅんこが神代さんに土下座してそう叫んでいた。
いや本当にどういう状況なんだ?
「あの、何があったんですか?」
「私にもわかりません。私が作った料理を食べたらこうなってしまいまして」
「なあしゅんこ、なんでこんな事してんだ?」
「姉上、儂は考えたのじゃ」
キリッとした顔でしゅんこがそう言う。おそらくしゅんこなりの考えがあるんだろうし、詳しく聞いてみるか。
「最近常々考えておったのじゃ。姉上がダンジョンに潜り金を稼いでおるのに、儂は何もせずぐうたら生活。それではいかん! 儂は姉上に拾われた身じゃ。じゃからせめて家事をして姉上の負担を減らそうと!」
「なるほど」
「じゃが生まれてこの方儂は家事なんぞした事がない。姉上に教えて貰うにしても、さらに負担をかけとうない」
「それで神代さんに教えてもらおうと?」
「うむ。神代殿の料理を一口食べた瞬間ビビッとしたのじゃ。これなら行ける!とな」
な、なるほど……。
つまり神代さんに家事を習いたいわけか。
うーん……これは厳しくないか?
だって神代さん総理だしな。いつも忙しいだろうにその上しゅんこに家事を教えるのは大変だろうし迷惑だ。
ここは姉として俺が断っておくべきだな。
「あの神代さんこれは」
「いいですよ」
「え?」
「む?」
「しゅんこさんに家事を教える件、引き受けましょう」
「本当か!?」
「え!?」
ちょっと神代さん人が良すぎない!?
そんな即答して良いもんじゃないでしょ!?
「あの、流石にこれはダメですよ。神代さんの迷惑になりますし」
「いえ、迷惑になんてなりませんよ。むしろ楽しそうですし」
「でも……」
「ではこの後一緒に配信しませんか? それでチャラにしましょう」
「……わかりました」
優しすぎて心配になるな。
仕事のことも考えて、神代さんをあまり頼りすぎないようにしないとな。この人なんでも引き受けちゃいそうでちょっと怖い。
「神代殿! ぜひ師匠と呼ばせてくれ!」
「ふっふっふ、いいでしょう。貴女を私の初めての弟子にしてあげます!」
「おー! 光栄じゃー!」
神代さんノリノリだな。
この後の配信のサムネ作って告知するか。
「神代さん、準備はいいですか?」
「もちろんです」
「じゃあ始めます」
:ワクワク
:ドキドキ
:シナシナ
:なんだこのコメ欄
:みんな楽しみなんだよ
:一人シナシナなやついますけど?
:特別なゲストって誰だろうな?
:釣り人さんじゃね?
:鈴ちゃんもありえる
:ワンチャン総理
:↑それは流石にないだろ
:総理来たら笑うわ
:総理暇じゃないんだからさ
「ようお前ら、新人ダンチューバーの狐坂ようこだ。今日は告知した通り特別なゲストを呼んだぞ」
「どうも、日本の総理兼しゅんこちゃんの師匠の神代唯です」
:総理来たー!
:神代さん!抱いて!
:ようこちゃんを!抱いて!
:マジで来ちゃった……
:しゅんこちゃんの師匠って、何があったんだ
:もしかして、総理×しゅんこってこと!?
:百合豚共は一旦落ち着け
「実はですね、しゅんこちゃんが私の料理を食べた際に随分感激したようでして。家事を教えてくれと頼まれてしまいました」
「神代さんの貴重な時間を使わせてしまって本当に申し訳ないです……」
「まあまあ、私達の仲じゃないですか。そんなの些事ですよ」
:総理の料理マジで美味そうだからなぁ
:総理が料理をする配信は飯テロすぎてやばいんよね
:てかなんか二人共距離近くね?
:それな
:なんか神代さんの声のトーンが上がってるな
:↑きっしょ、なんでわかるんだよ
:愛
:即答すな。余計怖いわ
「あ、コメントで指摘されてるけど俺達友達になったんだよ」
「はい。ようこさんには私のは、初めてを貰ってもらいました」
「ちょっと神代さん言いかたぁ!」
:は、初めてを!?
:な、ななななんですって!?
:キマシタワー!
:これはキマシタワー案件だ!
:ここにキマシタワーを建設する!
世風鈴:ようこちゃん……嘘だよね?
ダンライブ公式:面白くなってキタァ!
:あ、鈴ちゃんが脳破壊されてる
:てかダンライブ公式ってお前社長だろ!
:仕事しろ六条
ダンライブ公式:仕事?はっはー!やだね!このままサボり倒すんだよ!
:ダメだこいつ、早く秘書さんに伝えないと
ダンライブ公式:あ、ちょっと秘書ちゃん!?これは違うんだ!
:あ、終わったな
:働け六条
「ふふ、愉快な事になっていますね」
「すみません。こいつらすぐ暴走しちゃうんです」
「まあまあ、楽しければいいじゃないですか。それにみんな良い子なんですから」
:神代さん優しい……
:う……ママ
:オギャー!
:まずい神代さんのママミが強すぎてオギャラー達の本能が刺激されて……オギャー!
:神代さんがオギャラー達にめちゃくちゃ人気な理由わかった気がする
:↑それ以上行くな。戻れなくなるぞ
:オギャー!
:ママぁ!
:あーもうめちゃくちゃだよ
「よし、馬鹿な神主達は置いておいて企画の説明に入ろう」
「今日は何をするんですか?」
「ホラゲーをします」
「ホラゲーですか」
「ホラゲーです」
「もしやあのなんでも言うことを聞く配信の?」
「そうですね。ゲームはしゅんこ達が選んでくれましたから俺も内容は知りません」
「なるほど」
正直何が来るのかわからないのが余計怖いんだけど。あんまり怖くないのを選んでくれていると信じてるからな。
恐る恐るパソコンのデスク画面に増えていたゲームをクリックする。
ゲーム画面が開かれ、配信に赤鬼の文字が浮かび上がった。
「これは……」
「結構有名なゲームですね。200年前に流行ったホラーゲームをリメイクしたものです」
「なるほど」
これ、もしかしなくてもあれのリメイクだよな。
:赤鬼か
:これ絵柄はシンプルだけどめっちゃ怖いんだよなぁ
:200年前のは海外のホラーっぽかったけど赤鬼は日本のホラーも混ざってさらに怖くなったんだよ
:さてようこちゃん。早く悲鳴を聞かせておくれ
:悲鳴まだ?
:↑気が早い
「マジで? そんな怖いのか?」
「私も仕事のせいでやる時間がなかったので楽しみですね」
「神代さんはホラー大丈夫なんですか?」
「苦手ですね」
「苦手なんですか!? 意外です」
「皆さん誤解しているようですが私は別に全てが完璧というわけじゃありませんからね?」
:神代さんホラー苦手なの!?
:マジか
:意外だわ
:完璧超人だからホラー大丈夫だと思ってた
:なるほど。もしかしたら神代さんの悲鳴が聞けるのかもしれないというわけか
:ふーん……エッチじゃん
:悲鳴ソムリエがアップを始めました
:神代さんがしてきたことを振り返って完璧じゃないというのは無理があるって
「まあ今回私はプレイする側じゃないのでようこさんの反応を存分に楽しみたいと思います」
「ふっ、救いはどこにもないようだ」
「後で一緒にアニメ見るんですから頑張って下さい」
「はーい……」
さて、俺は無事に生き残ることができるんだろうか。
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