第34話

「初めまして、ようこさん。私は神代唯。総理大臣をやっている者です」

「え?」

「総理をやっている者です」

「あ、はい」


うん……ちょっと情報を整理しよう。俺は朝起きて優雅にご飯を食べながらアニメを見ていた。

すると突然チャイムが鳴り、外に出ると総理とエンカウントした。

うん、何もわかんないな。俺朝ご飯食べてただけだし。

なんで総理が俺を訪ねて来たんだ?

心当たりは……もしかしてダンジョンの破壊かな。多分そうだよな。でも総理が来るなんて聞いてないんだけど。


「あの、外はあれなので、どうぞあがって下さい」

「ではお言葉に甘えて」


とりあえず家に上がってもらう事にした。流石に総理に外で話させるのはあれだし。


「どうぞ粗茶ですが」

「いえいえ、ありがとうございます」


お茶を置き、神代さんの対面に座る。

やばい、めちゃくちゃ緊張する。

そりゃ日本のトップと話すんだから緊張しないわけないんだけど。


「噂は予々かねがね聞いております。それとダンチューブでの配信も拝見しましたが、とても面白かったです」

「あ、ありがとうございます!」


なんだよ、めちゃくちゃ褒めてくるじゃん。それに物腰が柔らかで俺なんかに敬語使ってくれるし。

……これが大人の女性ってやつか。


「しゅんこさんたちは今どこに?」

「あの子達は今寝てます。昨日遅くまでアニメを見てたので」

「なるほど。私もアニメ好きなので夜遅くまで見れるのは羨ましいですね」


へぇ、神代さんってアニメ好きなのか。総理大臣はお堅いイメージしかないからとても意外だ。

聞く限り仕事で夜遅くまでは見れないのか……。

やっぱり総理大臣は忙しいんだなぁ。


「ちなみにようこさんは好きなアニメはありますか?」

「わ、私は結構なんでも見るし、魅力的なアニメばっかりなので決めきれません」

「ふふっ、私と同じですね」

「神代さんもなんですか?」

「日本は魅力的なアニメや漫画が多すぎますから」

「そうですよね! 選べませんよね!」


神代さん……アニメ好きだから話が合うし、親近感湧くなぁ。

それに物腰柔らかで丁寧と……これ異性からめちゃくちゃモテるんじゃないか?

釣り人さんといい神代さんといい、なんで俺の周りにはモテる人しかいないんだろうか。これで鈴さんもモテるんなら俺は劣等感で死ぬぞ。


「さて、このままアニメの話をするのもいいのですがそろそろ本題に入りましょう」

「はい」


アニメの話を中断し、真面目な話に入るようだ。まあある程度予想は付いてる。


「ご察しの通り、貴女が昨日行ったダンジョン破壊についてです」


やっぱりな。それしかないもんな。


「昨日大分県にあるダンジョンが破壊されました。幸い怪我人も出ず、今日の朝には復興していたので問題はありませんでした。ですがここで一つ問題が起きました。誰がダンジョンを破壊したのか、ということです」

「なるほど。それで私だと判明したと」

「はい。破壊されたダンジョンを観察した結果、貴女の魔力が残っているのを見つけまして。それを辿って来たわけです」

「魔力を……」


魔力を辿るって何?

俺辿れるほど魔力濃かったりする?


「正直言ってダンジョンを破壊できる存在を、国は看過できません。ですので貴女は私と契約をしてもらう事になりました」

「契約?」

「契約とは、いわば魂の契りです。結ばれた契約を破棄することはできず、必ず守らなければなりません。ようこさんに無断でこんなことを決めたのは申し訳ないのですが……。さすがに貴女の力を自由にすることはできなかったので」


なるほど。

結べばそれを破る事は絶対にできず、必ず守らなければならない契約か……。

それに俺には拒否権はないと。

まあ政府側からすれば俺の力は看過できないほど強力なものだから契約で縛る事によって安心したいんだろう。

もし俺が政府の人間だったらそうするだろうし。

ただ内容にもよるな。明らかに俺に不利な契約だったら絶対に結びたくないし。


「私達が用意した契約の内容は、私達がようこさんに最大限の自由と権力を与える代わりに、ようこさんは日本に危害を加えないというものです。ようこさんが納得できなければ契約の内容を変えてしまっても問題ありません。ただその場合私たちの意見も尊重してもらいますが」


俺に最大限の自由と権力を与えるから日本に危害を加えないでほしい、か……。

これ俺に得しかなくないか?

だって別に日本に危害を加える気なんて全くないから、ただ自由と権力を手に入れられるだけだしな。

配信をやっていく上でもし面倒ごとに巻き込まれればこの権力が働いてくれるだろうし、何かに縛られる事もなく自由にできるなんて願ってもないことだ。

これ以上を求めて神代さんに悪印象を持たれるのは怖いし、さっさと契約してしまおう。


「その内容で契約します」

「ありがとうございます。では早速始めましょう」


神代さんはそう言うと、魔術を発動した。


「我は日本総理大臣、神代唯。今ここに我が国の力となる者と契りを結ぼう。さぁ強き者よ、名を名乗れ」


何の意味があるのかわからない詠唱。でも不思議とそれがなくてはならない物だと認識してしまう。その問いかけの意味を考えるよりも先に、口は動いていた。


「狐坂ようこ」

「今ここに、汝と契約を結ぶ」


破れぬ誓いミスラ


その言葉が発された瞬間、室内は光で満たされた。眩い光が、俺の心臓へと収束されていく。光が意味を成し、俺の魂に何かを刻む。

不思議な感覚だ。

何かに縛られているようでいて、確かな自由がある。これが契約という物なのか。


「終わりました。ようこさん、本当にありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそあんなにいい契約を結ばせてもらって感謝してます!」

「ふふっ、それはよかった。もし何か気になることがあればなんでも聞いてください。私が答えられる物ならなんでも答えます」


むっ。

これはまたとないチャンスなのでは?

世界にダンジョンができる前から魔道具を作っていたらしい神代さんに何かをかける機会なんてそうそうないだろうし。

ここは今一番聞きたかったことを聞くべきだろうな。


「さっそくですが」

「はい」

「さっきの詠唱ってなんの意味があるんですか?」

「あー……」


え?

せっかくの質問がこれでいいのかって?

だって気になったんだから仕方ないだろ。


「詠唱は魔術などの魔力を元にする術の効果を上げる効果があります。言霊というやつですね。その術の効果と混乱する言葉や文を発することでその言葉に魔力が乗り、術を強化できるわけです」


なるほど!

まさかそんな効果があったとは。

てっきり神代さんの趣味かと思ったわ。

でも聞けてよかった。

詠唱なんかすれば配信も盛り上がるだろうし、ぜひ習得したい技術だ。


「さて、契約の話も済みましたし、貴女に与えられる権力について詳しく話しましょうか」

「あ、まだ聞いてませんでした」

「私達がようこさんに与えるのは、Aランクの上の階級。Sランク探索者の地位です」

「Sランク?」

「私は考えました。最近強い探索者が多くなり、Aランクが上限では探索者のレベルを正確に測れなくなっていると。そこで、もう一つ上の階級を用意する事にしたんです」

「それが、Sランク探索者ということですか」

「はい。ゲームなどであるじゃないですか。Aランクよりも強いランクのキャラ達が。それが参考になりました」


まさかのゲーム知識!?

まあ確かに俺もオタクだから納得できるけどさ、もうちょっと他になかったのか?

ほら、特級探索者とかさ。


「実はSランクか特級かですごく揉めまして。会議に会議を重ねた結果、無事Sランクに決定しました」

「あー、なるほど」


いや政府!?

なんでそんな事に会議を重ねてるんだ!?

まさか政府全体がオタクだったりするのか?

神代さんも当たり前のように話してるけどまさかオタク文化ってそんなに根付いてるのだろうか。

政府の闇を垣間見たぜ。

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