第33話

ダンジョンが崩壊していく様を、俺はただ眺めることしかできなかった。

おそらくダンジョンが崩壊したのは、俺の攻撃が原因だろう。

どうしよう。

これ絶対怒られるやつだよな。

てかダンジョン破壊しておいて怒られるだけで済むかな。

最悪捕まったり……。

捕まる?

これ捕まるやつ?

そうだよな。これだけの事して捕まらないわけないよな。

ごめんしゅんこ。お姉ちゃんは家に帰る前に刑務所に入ることになるかもしれない。

そしたら神主達も離れていくことになるのか?

それは……やだなぁ。

どうしよう。

どうしたらいい?

わからない。今の俺じゃどうにもできない。

詰みだ。

どうしよう。

どうしようどうしようどうしよう!?

このままじゃ捕まる!

逃げるか?

いや逃げたらもっとやばいだろ!

でもこのままじゃ捕まる!

一体、どうしたらいいんだ……。


「うぅ……」

「ようこ、どうしたの?」

「釣り人さん。今日までありがとうございました。釣り人さんは巻き込まれただけだと言っておくので」

「ようこ……捕まりはしないから安心して」

「………え?」


捕まらない?

マジ?

いや流石にそれはありえなくないか?


「いや、私はダンジョン壊しちゃったんですよ!?」

「ダンジョンは壊れても再生するから。それに死者も出なかったし、問題ない」

「そうなんですか……よかった」

「でも調べられはするし、今後壊さないように気を付けて」

「はい。気を付けます」


よかったぁ。

本当によかったぁ。

危うく犯罪者になるとこだった。

ん?

というか、なんで釣り人さんは大丈夫って断言できるんだ?

それにダンジョンが壊れても再生するって、実際に起きないと確認なんてできないし。

もしかして誰かが過去に壊したのか?

誰がそんな馬鹿なことを……。


「あの、前にダンジョンを壊した人がいるんですか?」

「今の総理」

「なるほど……」


総理さんごめんなさい!

つい出来心なんです!

お願い許して!

求められたら靴くらい舐めますので!

どうか!

よし、謝罪は終えた。調べはあるらしいけど今日はもう帰ってもいいだろう。


「それはそれとして。ようこ、これ」

「はい?」


突然釣り人さんがどこから取り出したのかわからないコートを渡してきた。

え、なにこれ?


「服。さすがに外でそれはまずい」

「あ……」


そういや俺今スク水じゃん……。

自覚した途端めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。幸い周りには誰もいない。ただダンジョンが崩壊したのでその音を聞きつけてだんだんこっちに何人もの人が来ている気配がする。

早くコートを着てしまおう。


「……ごめん、靴は持ってきてなかった」

「いえ、コートだけでも助かりました。ありがとうございます」

「流石に裸足で歩かせるわけにはいかない。少しの間だから、我慢して」

「え?」


なぜかまた釣り人さんにお姫様抱っこされてしまった。

え、もしかして俺を裸足で歩かせないためにわざわざ?

ちょっと紳士的すぎやしないか?

俺惚れちゃうぞ?


「あ、あの……さすがにこれは目立つって言うか、なんというか……」

「気配を消せるから、大丈夫」

「そ、そうですか」


そうだろうなぁ……。釣り人さんならそりゃあできるだろうな。

正直めちゃくちゃ恥ずかしいが、善意を素直に受け取らないのはどうかと思うし、甘んじて受け入れよう。



道中何事もなく、俺は無事家に着くことができた。結局釣り人さんに家まで送ってもらった。まさかお姫様抱っこで電車に乗るなんて思わなかった。俺の家のある山は結構田舎の方なので、電車内の人が少なかったのが救いだ。

まあ結局お姫様抱っこで家まで送ってもらったわけだ。ちなみにそれを見たしゅんこは「姉上から離れろこの変態がー!」と釣り人さんに襲い掛かって無事わからされた。

釣り人さんが変態なら世の中の奴ら全員変態になるだろうに。まったく、釣り人さんに謝る俺の身にもなって欲しい。

俺を家まで送った後、釣り人さんは帰って行ってしまった。手段はあれだがここまで送ってもらった恩があるし、ご飯をご馳走しようかと思ったんだけど、やんらわりと断られてしまった。


「君達の時間を奪うわけにはいかないから」


との事らしい。

いやイケメンかよ。本当に最初から最後までイケメンだな。

後去り際に「代わりに次から敬語は無しにして」と言われた。精進できるよう頑張ります。

まあ今日は色々あった。

おかげでいつもより風呂が気持ちよく感じる。やっぱり風呂はいいなぁ。

この体になって尻尾や耳も洗わなくいけなくなったのがちょっと面倒だけど。

転生前はまさか妖狐になるなんて思わなかったな。

それで正体を隠してダンチューバーになるなんて。

妖狐……そうだよな。今の俺は妖狐だ。

ふと思った。

もし俺が妖狐だという事を神主達が知ったら、彼等はどういう選択をするのだろうか。

構わず俺を見続けてくれるのか、それとも俺を見限るのか。それとも、俺を傷付ける存在になるのか。

どうなるかは想像できない。

ただ、この日常を失うのは嫌だと強く思う。

気ままにダンジョンを攻略して、神主達と戯れて。しゅんこと遊んで、釣り人さんや鈴さんと交流する。

もし俺が妖狐だということが露見し、この日常が壊れるなら、俺はずっと事実を隠したままで生きていくしかないだろう。

事実を隠すのは心苦しい。ただ、一人になるのは嫌だ。失うのは怖い。

一人ぼっちは、もう懲り懲りなんだ。



——ピンポーン

ダンジョンを破壊した日の翌朝、使われなさ過ぎて存在価値が薄くなっていた家のチャイムが鳴らされた。

誰だ?

こんな朝早くに。

宅急便か?

いやでも頼んだ覚えもなければここは山の上だ。宅急便が来るのは流石に無理だろう。

じゃあ本当に誰だ?

この家を知っているとしたら、鈴さんか?

それとも釣り人さん?

疑問と共に、俺は家の門を開けた。

門の前に居たのは、見覚えのある人だった。でも直接会った事はなくて、これが初対面だ。

一つ結びにされた純白の髪に、山の中とは思えないスーツ姿。そして、特徴的ななんのデザインもない仮面。

よくテレビとかに出ている、この国で最も自由で、探索者じゃないのに英雄と言われる唯一の人。


「初めまして、ようこさん。私は神代唯かみしろゆい。総理大臣をやっている者です」


日本のトップが、そこに居た。

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