第31話

釣り人さんとダンジョンを行くこと数分、俺はまた汗だくになっていた。

そりゃ溶岩が流れる所歩いてたらそうなるんだが、そろそろ汗の不快感が限界だ。

マジで風呂にダイブしたい。

そんな俺の気持ちに気付いたのか、釣り人さんがこっちを向いた。


「ようこ、汗が不快なら溶岩に入ればいい」

「いや流石に死にますよ」

「大丈夫。見てて」

「え? ちょ、釣り人さん!?」


釣り人さんは荷物を置くとダッシュで溶岩に向かって行った。そしてそのまま綺麗なフォームで溶岩に飛び込んだ。


「つ、釣り人さーん!!」

「ん、温かい」


えぇーーーー!?

な、なんで溶岩にダイブして温かいで済んでんだ!?


「この溶岩はダンジョンの魔力でできたものだから、魔力を纏えば効かない」

「そうなんだ……。じゃあ私も」


俺は意を決して溶岩に飛び込んだ。

普通、溶岩に呼び込んだら溶けるものだが、なぜか俺は溶けることはなく、なんなら温かいというだけで済んでいた。

うん、なんでだろうな。さすがにこれは俺もおかしいってわかるぞ。


「これで汗を洗い流せる」

「………あの釣り人さん、溶岩が効かないのはいいんですけど、なんか肌まで溶岩が届いていなくて、なんなら溶岩の温かさとダンジョンの暑さで汗の量が増えてすごいことになってます」

「あ……うっかり。今のようこは魔力で鎧を作ってるようなもの。だからマグマを弾いて肌まで届かないんだった」

「マジですか? あの、どうにかなりません? 汗の量がすごいんです。これじゃあ帰る時には服がびしゃびしゃに!」

「落ち着いて。魔力を体の中に留めたら大丈夫。それなら体の強度も上がってマグマも効かないし、魔力が漏れないから汗も流せる」

「な、なるほど! さっそくやってみます!」


俺は釣り人さんに言われた通り、魔力を体の中に押し留めてみた。

んー……あんまりうまくいかないな。

押し留めるのはいいんだけどどうしても魔力が漏れてしまう。

………そうだ!

血管に魔力を流せばいいんだ!

確かアニメでやってたよな。血管に力を巡らせてパワーを上げるの。それを魔力でやればいいだけだ。

そういうことだろ、釣り人さん!

釣り人さんも頷いてくれている気がする!

よし、イメージはできた。

早速やるぜ!!

俺は魔力を血管に流していく。俺の目論見通りそれは上手くいき、漏れ出ていた魔力が完全に俺の体の中に留まった。

ハッハッハ、俺のかっ————ジュッ


「あ……」

「え?」


俺が魔力を体に留めるのに成功したのと同時に、何かが焼けて溶ける音がした。

ま、まさか……。

最悪の結果が頭を過ぎる。そんなはずはない。そう信じたい。でも、現実は残酷だった。


「服が……溶けた」


そう、焼け溶けたのは、俺の服だったのだ。

体に纏わりつく、溶岩の感触。

へぇ……溶岩って結構サラサラしてるんだ。また一つ新しいことを知れたな、ハハハ。


「………どうしよう。これじゃあ俺が溶岩から出られない!」


まずいまずいまずいまずいまずい!!

このまま出てもし人にでも見つかったら痴女認定されて通報されてしまう!


「大丈夫。通報されるのは私だから」

「大丈夫じゃない!! 早く服を着ないと!」

「落ち着いて。私の荷物の中に溶岩でも溶けない服があるから」

「本当ですか釣り人さん!?」


さすが釣り人さん!

こんなこともあろうかと準備してたんだ!

やっぱり頼りになるぜ!


「はい」

「ありがとうござ……は?」


釣り人さんから着替えを受け取った俺はそれを見て絶句してしまった。


「これしか、ないんですか?」

「ごめん。これしかない」

「そうですか……」


正直言って、これを着るのにはすごく抵抗がある。

でもだからと言って、このままでは完全に変態として逮捕されてしまうかもしれない。

腹を括らなきゃな。ここで迷っていたら駄目だ。

結局着なきゃここから出られないんだから、着るしかない。


「……ごめん」

「いえ、大丈夫です。気にしてませんから。でもできたらその、あまり見ないでくれると助かります」

「わかった」


俺は、釣り人さんに手渡された服を着た。

体にフィットし薄く水を弾く生地。学校で見慣れ、前世では絶対に着ることがなかったであろうこの服。

そう、スクール水着、略してスク水。

なんの因果なのか、俺はスク水を着ていた。すごいな、ここまでメンタルをゴリゴリ削られる服を着たのは初めてだ。


「ようこ、大丈夫?」

「はい大丈夫です。これならいつでも水泳に参加できそうです」

「全然大丈夫じゃない……」


さあて、さっさとダンジョンクリアして普通の服着るぞー。溶岩配置したやつぶっ殺して俺の服の恨みを晴らしてやる。


「ようこ……本当に大丈夫?」

「大丈夫ですよ。このスク水溶けないですし着心地もいいですし。ちょっと胸が苦しいですけど……!?」


な、なんか今ものすごい殺気を感じた。

ど、どこからだ?

辺りを見回してみるが魔物の姿は一つもなく、ただ溶岩が流れているだけだ。

気のせい、だったのか?


「どうしたの?」

「いえ、なんか殺気を感じたような……」

「気のせい」

「そうですか?」


先ほど感じた殺気はもう感じないし、ここには俺と釣り人さん以外の生物の気配はないから、本当に気のせいなんだろう。


「そんなことより、早く進もう」

「……そうですね」


まあ考えても仕方ないしな。さっさと進んでダンジョンをクリアしよう。



数分後、俺は釣り人さんと溶岩の中を泳ぎながら進んでいた。

魔力の運用の仕方を変えたおかげで汗をかいても溶岩でも流れていくのでめちゃくちゃ快適だ。

溶岩も俺からしたら温水プールのようなものなので、大変気持ちがいい。

溶岩の中にある魔物達の攻撃も体自体が強くなっているおかげで効かないから一方的に千切ってはなげを繰り返しているだけで勝てる。

ここまで楽なダンジョン攻略も他にないよな。

そんな油断をしていたからだろうか。

気付いたら俺達は溶岩の滝から真っ逆さまに落ちていた。

まさか滝になってるとは思わなかった。泳いでたら溶岩なくなって来て、あっそろそろ終わりかなって思ったらこれだよ。迂闊だったなぁ。

しかも滝から落ちた時深層のボス部屋の扉見えたし。どうしようか。

それはそれとして、この滝どこまで続いてんだ?

一向に滝口が来ないぞ?

どうなってんだ?っと下を向いたのがいけなかった。俺は顔面から地面に激突した。

こ、怖かった。

まさか下見たらそのまま地面だったなんて……。

幸い痛みはない。ただ俺自体が魔力の影響で硬すぎて地面にぶっ刺さったせいで周りの様子がわからない。釣り人さん大丈夫かな……。

そんなことを考えていると、突然体が地面から引き抜かれた。


「聖剣ようこ、ゲットだぜ」

「誰が剣ですか誰が」

「ん、妖刀?」

「刀でもないですよ」


釣り人さんに離してもらい地に足を付ける。さてと、ここはどこだ?

さっき深層のボスの扉見たから、もしかして深淵か?

だとすると気を付けたほうがいいかもな。一応俺は深層でも無双できるけど、万が一があると怖いし。


「ここ、多分深淵」

「やっぱりですか」

「だから大きな魚が釣れる」

「そうはならんでしょ」


さて、初めての深淵かぁ。

通用するかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る