第29話

神主達の欲望に底はなかった。俺は様々な要望を受け、この身を賭してその要望を遂行してきた。

そしてなぜか俺は今メイド服を着せられていた。あの訳のわからない喧嘩の後、様々な命令が続いた故の結果だ。

メイド服を着て欲しいとか言った奴……絶対許さねえ。


「くく、姉上、なぜスカートを抑えておるのじゃ? それに顔も真っ赤ではないか。メイドはメイドらしく堂々とするべきじゃぞ?」

「しゅんこ……お前覚えとけよ……」


:おかわわわわわ!!

:やべぇ、ようこちゃんのメイド姿やべえ

:恥ずかしがってんのが尚よし

世風鈴:かわいいかわいいかわいいかわいい!!

釣り人:眼福

:めちゃくちゃ奉仕させてえ

:一体どこの奉仕なのですかねぇ……

:もちろんしゅんこちゃんのだけど?

:↑うん、これは百合豚


「よし姉上、要望にあった萌え萌えきゅんじゃ」

「え……そ、それもするのか?」

「もちろんじゃ」


すごくいい笑顔でしゅんこは俺に笑いかけた。いつからこの子はこんな悪魔になったんだ……。

もし俺がこのまま萌え萌えキュンしたら、神主達は喜んでくれるだろう。

だが確実に俺の心が死ぬ。羞恥心で死んでしまう。

でも、約束を破ればみんな離れていってしまう。やるしか、ないのか……。


「皆の者、画面の前に供物を用意だ」

「さあ、姉上」


:準備オッケー

:ようこちゃん

:頼んだぞ……

世風鈴:ようこちゃん……

釣り人:ようこ、やろう


「も……」

「も?」

「萌え萌え、キュン……」


瞬間、音が消えた。

コメント欄は完全に停止し、俺の前にいる三人も全員がピクリとも動かない。鳥の鳴く声が室内に響き、手でハートを作っていた俺は羞恥心に耐えきれず、静かに顔を覆った。

俺の男の尊厳は何処へ……。


:もう、悔いはない

:いい人生だった……

:ありがとう、病気治った気がする

:浄化されちゃった

世風鈴:ただただ、尊い

釣り人:ようこ、私のメイドにならない?


「姉上、次はあーんじゃな」

「おい待てしゅんこ、それは要望に入ってなかったはずだぞ」

「いやいや、儂も姉上のリスナーじゃからな。姉上に言うことを聞かせる権利は、儂にもあるということじゃ」

「え、そんな……」

「そう残念がるでない。十万以上の要望の中に儂の要望が一つ入るだけじゃ」

「それならいい、のか?」


釣り人:相変わらずチョロい

世風鈴:私もお願いしたら聞いてくれるかな?

:ようこちゃん……

:圧倒的なチョロさ、流石チョロインようこちゃんだ

:さすがようこ、一瞬にして丸め込まれた!そこにシビれないし憧れない!!

:お願いだから悪い人に騙されないでね

:特に上の二人


「俺、チョロくないぞ?」

「チョロいじゃろ」

「チョロいね」

「うむ、チョロい!」


銀花とネロまで……。こいつら俺のことなんだと思ってるんだ。さすがの俺もそんなにチョロいと言われるほどチョロくないぞ。


「さてそんなことは置いておいてほら姉上、その美味そうなオムライスを儂に食べさせるのじゃ」


しゅんこがスプーンをこちらに渡してくる。

まぁ、食べさせることくらいは別にいいさ。前世でも妹がいたりしたし、小さい子に食べさせるのは慣れてる。


「はい、あーん」

「ん!……むふぅ〜! うまい!!」

「そりゃよかった」


しゅんこの満面の笑みにあれも思わず頬が緩む。


:あ、姉妹百合尊い

:俺は壁俺は壁俺は壁俺は壁俺は壁俺は壁俺は壁

:ようこちゃんの優しい顔最高

:そうか、ようこちゃんは俺のお姉ちゃんだったのか

:お姉ちゃん!

:ようこお姉ちゃん!

世風鈴:お姉ちゃん私にもあーんして!

:鈴ステイ

:もしもし、警察ですか?妹を名乗る不審者がいるんですが……はい、世風鈴といいます

世風鈴:なんでぇ!?


「む、姉上は儂のじゃぞ!」


突然しゅんこが俺に抱き付いてきた。どうしたんだいったい……。

俺は誰のものでもないんだけどなぁ。


「ほらしゅんこ、抱き付いてたら食べさせられないだろ。ちゃんと前を向いて食べような」

「む、それもそうか」

「ほら、あーん」

「んー、うまうま」

「しゅんちゃんばっかりずるい! うちにも!」

「この我に供物を与える許可を出そう」

「順番な」


:ずっと見てたいな、この光景

:楽園はここにあったのか

:ようこお姉ちゃん概念はもっと流行らせるべき

:私もようこお姉ちゃんとイチャイチャしたいよぉ

:たしかこれって要望を叶えてくれる企画だよな?ようこちゃん、俺達のお姉ちゃんになってくれ!


「あー、流石に姉は無理かな。今の俺は、しゅんこだけのお姉ちゃんだから」

「あ、姉上……(キュン♡)」


:い、イケメンすぎる

:こりゃ諦めるしかないな

:代わりにお願いすること考えるか

:定期的にメイド服で配信してもろて

:↑これだ!

:ついでにメイド配信時は神主達の事を常にご主人様呼びってのはどうよ

:↑最高か?


「なんか、俺の知らない所で話が進んでるんだが」

「ほう、これが毎週味わえるのか。最高じゃな」

「周期まで決められた」

「どうせ叶えるのじゃからいいじゃろ」

「もうちょっと考える時間が欲しかった」


:ようこちゃんはチョロいからすぐに了承してくれるからね

:考えても仕方ないさ

:結果は変わらない

釣り人:残当

:やっぱりチョロいからね


「むぅ、俺はそんなチョロくないぞ」


:まーた無自覚か

:しゅんこちゃんや、この子どうにかなりませんかねぇ


「無理じゃな。姉上の無自覚は治せん」

「無自覚じゃないが?」

「そういうとこじゃぞ」

「え?」




それから俺は様々な要望を受けまくり、身を粉にして配信を終わらせた。

はぁ、はぁ、危なかった。

スク水着て欲しいとか言われたら時は死ぬかと思った。スク水を作ってなかったのが功を奏したぜ。あんなんダンジョンで絶対に着ないからな、作るわけがないんだよ。

………押入れ見られなくて助かった。

それはそれとして、今日も無事配信を終わらせた訳だが、うん、特に困ることとか無かったな。

もし俺がダンライブに入ったとして、何か変わるのだろうか。

これは前世のVtuberを参考にしたらわかりやすいかもな。

まず今の俺の立場はVtuberでいうところの個人勢にあたる。そしてダンライブに所属するとなれば企業勢になる訳だ。

このままでいった場合、要は個人勢のままでいった場合課題となるものは、ダンチューバー同士の繋がりとか、他の人とのコラボとかだな。

下手したらそのコラボによってこちらが煮え湯を飲まされる可能性がある。また、何かあった時の場合に後ろ盾とかないから面倒臭くなる。

炎上なんかしたら火消しするだけでもすごい労力をかける必要があるし、炎上なんてものの経験がない俺では、火消しに時間が掛かったりして上手くできない可能性が高い。

逆に企業勢になった時のデメリットとして挙げられるのは個人勢程の活動の自由度がなく、企画などにも参加させられ窮屈な思いをするかもしれないという事。

今のような自由な活動ができないのは痛いな。嫌な事をさせられる可能性もあるし、入ってみなければわからないけど、注意するべきだ。

さてどうしたものか。正直どちらにもメリットがある。活動の自由か繋がりかを選択しなければならない。

そもそも、俺がダンチューバーを始めたのはお金を稼ぐためだ。将来に向けてお金を稼いで、何かあった時の場合に備えるため。

だから選択するならよりお金が取れて、俺が楽しめる方がいい。

だとしたら……やっぱりこっちかな。

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