第27話

安アパートの一室、一人の少女が配信を開始した。


「国民の皆さん安アパートからこんにちは。日本総理大臣の神代唯かみしろゆいです。今回も週に一回の総理配信やっていきます」


一つに結ばれた美しい白の髪、何のデザインもされていないのっぺりとした仮面。スーツを着た女は、画面に向かって語りかける。


:きたー!

:総理!総理!

:待ってた

:このダウナーなハスキーボイス、本当に中毒になる

:待ってたぜ、この時をヨォ!


「ご存知ない方にご説明しますと、私はこの週に一回の配信で国民の皆さんの質問や意見、相談などに回答していきます。気になる事などがあれば何でも聞いてください。ではまず一つ目」


:さて、何が来るのやら

:主にダンジョン関連、政治関連、総理関連が多いよな

:たまーに人生相談なんかも来たりするな

:↑国をまとめる人に相談に乗ってもらえる機会だからな。そりゃあ聞くわ


「ではまず一つ目。『総理の好きな食べ物はなんですか』ですね。好きな食べ物はハンバーグです。これ結構聞かれるのでいつも同じ答えで返しているのですが、あまり知られてないんですよね」


:ハンバーグうまいよなぁ

:チーズインハンバーグ大好き

:あれ、そんな頻繁に言ってたっけ?

:結構聞かれる(五年周期)

:おい


「あれ、そんなに間隔空いてましたっけ……。そろそろ私も歳ですかね」


:二百歳が何を今更……

:あ

:やべぇ

:終わったな


「ライン超えましたね。喧嘩なら受けますよ?」


:ごめん、俺死んだ

:ご冥福をお祈りします

:元気でな

:安心して逝け


「さてふざけるのもこれくらいにして、二つ目いきましょう。『総理の戦闘力っていくつですか?』最近になって増えてきた質問ですね。実は私もよくわかってないんですよね。何故か私が測ると全て0になりますから。後で調べておきましょう」


一つ一つの質問に丁寧に答えていく。そして1時間ほど経った時、一つの質問に神代は言葉を詰まらせる。


「ふむ、『総理はダンジョンをどんな物と捉えていますか』ですか。そうですね、ダンジョンが他の世界から来たって言うのは結構知られてるじゃないですか」


:え

:ん!?

:え、なにそれ

:ふぇ?

:そんなの知らない

:噂は聞いたことあるけど……え、それって本当なの?

:別の世界!?

:やべえ爆弾投下されたなぁ


「あれ、知られてませんでしたか。では説明しましょう。そうですね、まず世界についてです。実は世界は無数に存在しています。世界にも種類があります。まあ私が勝手に分けて呼んでるだけですが」


:え?

:あのちょっと待っ


淡々と神代が話す。だがその内容はとてもではないが聞き流せないほどの情報を有している。みんな一度は頭の中で整理したかった。


「一つ目は並行世界。要はこの世界と同じような世界ですね。この世界は私達が住む世界に隣接していたりします。例えるなら木の枝のような感じです。一本の木に同じような世界が枝のように無数に広がっているのです」


:なるほどな

:並行世界か

:じゃあ俺達と似た世界線もあるってこと?

:似た世界だからそういうことだろ


「二つ目は異世界。これは根本から異なる世界です。例えるなら他の木ですね。こちらの世界のルールが一切通じない世界です」


:やっぱり異世界ってあるの!?

:前までは転生ものが流行ってたがマジであるのか…

:これで自殺とかする奴が増えんか心配


「ご安心を。死者は全員輪廻の輪に戻りますので。さて本題です」


:ちょっと待って!?

:なに輪廻の輪って!?

:軽くどでかい爆弾落とすのやめてー!


「結論から言いますと、ダンジョンは異世界から来たものです。魔法や魔物、魔石など。ダンジョンが来てからこの世界になかったものが溢れました。なぜダンジョンがこの世界に来たのか、どうやって来たのか。そこはまだわかっていません。ですがダンジョンには私達の知らない神秘が眠っていることは確かです」


:なんかあんま理解できないけど、すごいロマンがあるのはわかった

:神秘かぁ……夢が広がる

:ロマンだなぁ


「これらを加味して私はダンジョンをパンドラの箱と捉えます」


:え?

:なんで?

:なぜに開けてはいけない箱?


「確かにダンジョンは私達に多くのものを与えてくれました。おかげで魔道具作成の技術も上がり、人類はまた一歩進みました。これだけ見ればダンジョンは祝福のようなものでしょう。ですがダンジョンは同時に多くの被害を出しました。いくつもの国が滅び、数多の人が死にました。ダンジョンのせいに違いありません」


:そうだよな、ダンジョンもいいことばかりではないし

:探索者も何人も死んでるしなぁ

:自己責任とは言え、やっぱりダンジョンは危険だ


「ここで私が立てた仮説を伝えましょう。これはあくまで私個人の見解で、ただの想像です。聞き流してくれて結構です」


神代唯は一呼吸置いて、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「ダンジョンは、なぜこの世界に来たのか。それはこの世界の人間の魂を、異世界の住民の養分にするため。これが私の立てた仮説です。順を追って説明しますね。まず、私達には魂があります。魂は肉体が滅ぶと輪廻の輪に帰り転生を待つ。ですがダンジョンが出来てから、明らかに世界の魂の量が減りました」


:どゆこと?

:魂があるのか……

:へぇ、死んだらみんな転生するんだ

:え、魂の量減ったの?


「ダンジョンが出来てから魂が減った。その事実を知った私は実際にダンジョンに潜り、調査をしました。その結果、ダンジョンの魔物や罠に殺された者は全て魂がなくなっていることがわかりました。この事からダンジョンは、どこかに魂を送っていると推測できます」


:えぇ!?

:ダンジョンで死んだら魂無くなるの!?

:やっば、尚更死ねないじゃん

:んー、でも死ななかったらいいだけでしょ?

:↑確かに死ななかったらそれだけでいいし、魂も回収されないから問題じゃないよな


「皆さんわかってますね。そう、魂を回収されたくなければ死ななければいい。単純明快で、的を射た答えです。ですが事態はそこまで簡単ではありません。実際に私達はもう、ダンジョンと切っても切り離せない関係になっているのですから」


:どういうこと?

:切っても切り離せない?

:え、そんな関係になってんの?


「自覚できないのも仕方ないです。だって私達からしたらそれは祝福以外の何者でもないのですから」


:あ!

:まさか……

:え、まじ?

:何か気づいたの?


「勘付いている方もいらっしゃいますね。そう、私達はもうすでに罠に捕えられてます。魔道具という、人類を成長させてくれた罠に」


:魔道具!?

:え、魔道具になんかあった!?


「いえ、魔道具自体は問題ではありません。問題なのは私達が魔道具に頼り切りな生活をしている事です」


:あーね

:なるほど

:え、それがなんで悪いの?


「皆さん想像してみてください。もし魔道具がなくなったら、世界はどうなるのかを」


:そりゃあみんな魔道具ありきでやってるから普通に滅ぶな

:滅ばないにしてもヤバいことになるのは確か

:うん、普通にまずいね


「はい、まずいです。魔道具がなくなればおそらくスタンピードの比じゃないほどの、それを上回るほどの被害が出るでしょう。そしてそれが、ダンジョンの狙いです」


:やばぁ

:ダンジョンの?

:なぜにダンジョン?


「皆さん、世界は何を元にして魔道具を作っていますか?」


:魔道具の元……

:魔石か!


「そうです。魔石です。魔道具の材料は魔石。その魔石が取れるのはダンジョン以外にない。そして魔道具がなくなれば世界が危ない。必然的に人はダンジョンに入り魔石を調達しようとします。結果その大勢が死に、魂を奪われる。つまりダンジョンは、魔石を餌に私達を破滅へ誘う罠だったというわけです」


:うわぁ

:やっっっば

:これもしやもう結構手遅れ?

:いや日本は科学力も発達したし大丈夫だけど他国は……

:これダンジョンに潜らないほうが良くない?

:↑でもダンジョン無しで魔道具作るのなんて無理だし今までダンジョンに頼ってきたのをそう簡単にやめれるとは思えない

:深刻すぎる問題だ


「皆さん、落ち着いてください。もう一度言いますがこれはあくまで私の仮説であって、真実かどうかは確証できません。信じるも信じないも己の判断です。もしかしたら本当かも知れないし違うかもしれない。一つの視点で物事を決めるのではなく、色々な考えを持ちましょう」


:そうだよな……

:うん、総理の言う通りか

:一つのことに囚われちゃいけないか

:また良いこと聞いた


「さて、次の質問に行きましょう。尺の都合もありますし、テンポ良く、切り替えていきましょうか」


その後も配信は続いた。

人類がダンジョンの秘密を解き明かすのは、案外遠い未来ではないのかも知れない。

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