第22話
釣り人さんが用意してくれた椅子に座り、俺は
「うん、いい感じ」
そう言って釣り人さんは俺に皿を手渡し、その上に食べやすいようにカットされた焼きたての鰤を置いてくれる。
「召し上がれ」
「いただきます!!」
仮面を外し、焼きたての鰤に齧り付く。
瞬間、口の中を脂の甘みが支配した。熱々の漏れ出てくる脂はそれはそれは甘く、何も付けていないはずなのに、十分な旨みがある。
「気に入ってくれたようでなにより。醤油つける?ご飯いる?」
「つけます!いります!」
醤油を垂らし、食べる。そしてご飯をかき込む!
「……」
うわぁ………。
:ようこちゃん
:こんな笑顔で
:お前ら、大丈夫か?死んで、ないか?
:問題ない。致命傷だ
:危うく浄化されるところだったぜ
:あまりの破壊力にコメントめっちゃ遅くなってて草
:そりゃあんなのを見せられたらな……
:いい人生だった
「大丈夫?」
「すみません、美味しすぎて言葉が出ませんでした」
「気持ちはわかる」
釣り人さんも俺に共感してくれた。あ、冷静に考えたらなんで俺見ず知らずの人のご飯貰ってるんだ?
誘われて躊躇いもせず行ってしまった。いや失礼すぎるだろ!
「す、すみません。ご飯いただいてしまって……」
「別にいい。誘ったのは私だし、美味しそうに食べてくれるから私も嬉しい」
この人は神か?仏か?
あんなに失礼なことしたのに許してくれてフォローまでしてくれるとか……。
俺が女なら惚れてるぞ。きっと数々の女の子を落としてきたに違いない。
フード被ってグラサンかけてるから顔はわからないけど、声聞く限り結構若い女性だ。小柄みたいだし、絶対男にもモテる。
性格神な女の子なんてモテないはずもないしな。
「あの、貴女はなんでダンジョンで釣りしてたんですか?」
俺は気になっていたことを聞いてみた。ダンジョンは魔物などが徘徊していて釣りなんてまともにできないと思ったからだ。
「趣味」
「趣味ですか」
「釣りは息抜きにちょうどいい。君は?」
「私は配信のためです!」
「配信者なんだ」
「はい!」
そうだ、ここは配信者らしく宣伝しようかな。いやでもそれはちょっと自意識過剰なんじゃ……?
最近また登録者が増えて100万人超えたし、収益化も申請してもうすぐできると思うけど、それでも自分から言いに行くのはなんか違うような……。
うぅ、どうすれば……。
「名前は?」
「え?」
「活動してる時の名前。私も見たいから、教えて」
え、何この人……イケメンすぎない?
多分俺が言い出せないのを察してくれてまたフォローしてくれたんでしょ?
こんなん惚れるって!!
俺今惚れかけたぞ!?
「狐坂ようこです」
「あぁ、今話題の」
「そうなんですか?」
「何回かトレンド占めてた」
「へぇ……」
:もしや自覚ない?
:この無自覚め……
:無自覚主人公の才能あると思うよ
:自分の強さにも魅力にも気付いていないしな
:ガチ恋勢いっぱいいるんだからな!
:見守り勢もな!
無自覚……無自覚かぁ。なんかこいつら俺が強いってめちゃくちゃ言ってくるんだよなぁ。俺ってまだ一応初心者だし、あんまり強くないと思うんだけど。
正直今まで鈴さんと釣り人さん以外の探索者に会ったことないし、客観的に自分がどれくらい強いのかよくわかってないんだよな。
あ、そうだ。釣り人さんに聞いてみようかな。釣り人さんは鈴さんに続く俺が出会った二人目の探索者だし、感じる強さも今まで見かけた探索者や、相対した魔物の中でも一番強い。
きっと俺がどの程度の強さかわかるはず。
「釣り人さん」
「ん?」
「あの、突然こんなことを聞くのはアレなんですけど、私って探索者の中でどれくらい強いんですか?」
:!?
:え!?
:ようこちゃんが、自分の強さを他者に聞いただと!?
:奇跡だ!
「一番かな」
釣り人さんは特に悩むこともなくそう答えた。当然、俺は困惑する。
「え?」
「ようこは探索者の中で一番強い。探索者ライセンスを見たらわかると思う。あれは討伐した魔物によってランクが勝手に上がるから」
言われた通りに探索者ライセンスを見てみる。あれ、探索者ライセンスってこんな色だったか?
俺の記憶では白だったのになんか金色なんだけど。しゅんこから貰ったアイテム袋にずっと入れてたから最近見てなかったんだがなぁ。
入れる前は白のままでランク計算中とか書いてたけどもしかして計算が終わった結果がこれなのか?
「なんか金色なんですけど」
「金色はAランクの証。冒険者証は偽装できないから、少なくともようこはトップクラスの実力がある」
「そうなんですか……」
なんか、信じられないんだけど。確かになんかリスナーにも鈴さんにもめちゃくちゃ驚かれたから違和感は感じてたんだけど、まさか俺がAランク冒険者だったとは……。
「ようこの配信の切り抜きを見たけど、魔物はSランクの魔物がたくさん居たから、実際はAランクよりずっと上」
「さ、さすがにそれは嘘ですよね?」
「私は嘘をつかない」
釣り人さんはいたって真剣な様子だ。嘘ではないと、確信できる。
だが、とてもではないが信じられない。
確かに俺は人間じゃなくて妖狐だ。しゅんこ曰く妖狐は尻尾の数が多いほど強くなるらしく妖狐の里の長でも6本程しかないらしく、9本もある俺は異常らしい。
それでも、やはり実感が湧かない。
凡人だった俺が最強の存在に転生するなんてこと、当然信じられないし。それにリスナー達との約束で俺が異常だったらなんでも一つ言うことを聞くという約束をしたから絶対に信じたくない!!
「信じられない?」
「えっと、はい……」
「じゃあ私とここを攻略しよう。魔物のランクとか、教えられる」
「いや私の都合に付き合わせるのは……」
「気にしないで。ここの最下層は地底湖みたいになってるからそこで釣りがしたいだけ。あくまで私のお願い」
「うぅ、わかりました……」
俺が異常だということを確定させないために配信をやめて帰ろうと思ってたんだけど善意100%の優しい声でそんなことを言われて、断れるわけないじゃないか……。
「よし、行こう」
釣り人さんは手早く椅子などをリュックに仕舞い、歩き出した。
俺もそれに続いて、ダンジョンの奥へと歩き出した。
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