第23話

ダンジョンの奥に向かうこと30分。俺は早くも絶望していた。

敵が強すぎるとか、罠に詰んだとかではない。敵が弱すぎて俺の異常さがどんどん浮き彫りになっていくんだ。


「今の魔物はAランクのナイトメア・ウィッチ」


こんな風に、俺が倒した魔物のランクと名前を釣り人さんが言ってくれるんだけど、そのどれもが俺の予想していたランクよりも遥かに高かった。

最初に倒したビッグ・タートルとかいうただのでかい亀がBランクと言われた時の衝撃は凄まじかった。それから倒す魔物が全部Bランク超えなんだから笑えない。

やっぱり、信じられないなぁ。

だって弱すぎるし。一撃で死ぬのがBやAランクとか信じられるわけない。ゲームとかで出てくる中ボス的なやつらだぞ?

普通もっと強いはずだろ……。


「君が異常すぎるだけ」

「思考が読まれた!?」

「頭が単純すぎる」

「今馬鹿にしました!?」

「してない。私がするわけない」

「そ、そうですよね。釣り人さん優しいですし……」

「……チョロ」

「!?!?!?」

「耳いいね」

「ちょ、チョロくないです!」


:ようこちゃんが振り回されてるだと!?

:あの常に周りを振り回して困惑させるようこちゃんが!?

:釣り人さん何者なんだ……

:まさか総理か!?

:ようこちゃんに勝てるのはその人くらいだけど身長が違う……

:総理はもっと背高いしな

:総理が身長変えてもなんら違和感を覚えんのだが

:あの総理ならやりそう……

:総理「一体いつから、私がロリじゃないと錯覚していた?」

:ロリ総理は良き

:総理はロリだった!?


なんか総理幼女説が出始めたんだけど。流石にそれはないと思いたいけどなんか今回の件で自分を信じられなくなってる。本当にロリなんじゃ……?


「次、深層」

「あの、流石に深層はまだ早いんじゃ……」

「大丈夫。君ならいける」

「でも……」

「万が一の時は私がいるから。それに、今の自分の限界を知るのも大事」

「うぅ……い、行きます」


気遣いが、優しさが、つらい!!

釣り人さん違うんです。別に深層に行くこと自体に不安はないんです。多分この程度なら深層も余裕だろうな、と思います。

だけど!!ここで無双したら、俺はリスナー達に好き勝手されてしまう!!

俺の異常さが完全に証明されて、言い逃れできなくなってしまうんです!

まずい、このままでは本当にまずい。


「ここが深層。このダンジョンの最奥」

「うわぁ、本当に地底湖なんですね」


悩んでいる間に深層に着いてしまった。このダンジョンは上層、中層、下層、深層が全部で一層ずつの四階層で構成されている。

その代わり一層一層がめちゃくちゃ広いので、難易度的には他のダンジョンと変わらない。いや上層では魔物は出ないから普通に難易度は低めなのか?

魔物は中層から出てくる。中層からは上層にある洞窟から行くので、必然的に深層まで全て洞窟になる。

それで深層に着いたわけだけど、そこには馬鹿でかい地底湖が広がっていた。

光る鉱石があるのかなんなのか階層全体が淡く光っていて、幻想的な景色になっている。


:綺麗だ

:幻想的すぎる

:あぁ、最高だ

:余談だがなんでようこちゃん仮面外しままなんだろうな

:さっき釣り人さんがせっかく可愛い顔してるのにもったいないって言ってただろ

:完全に堕としに来てますね

:ようこ×釣り人あるか?

:しゅんこちゃんが黙ってないぞ

:ようしゅんもいいよなぁ


「ここでは地底湖から魔物が出てくる。奥に行けば行くほど出る頻度が上がるから、どんどん行こう」

「あの、釣りはいいんですか?」

「私が釣りをしたいのはボス部屋だから問題ない」

「そ、そうですか」


俺達は地底湖の横にある細い道を進んで行く。少し進んだところで、地底湖から魔物が飛び出してきた。鮫を巨大化させたようなその魔物は、大きな口を開けてこちらに突っ込んでくる。

俺はそれに対して、真正面から殴ることで対処した。

今日気付いたんだが、どうやら俺が力を込めて殴ると、何もないところでも衝撃が飛んで行くらしいのだ。

パン!!

と、まるで銃声のような音が響き、次の瞬間には鮫の頭がひしゃげていた。


「飛ぶ拳、便利」

「私もまさかできるとは思いませんでした……」

「ちなみに今のはデッドアンドブラッド。戦闘力1600のSランクの魔物」

「S!?」


今のがSランク!?

弱すぎるだろ!


「君が強すぎるだけ」

「なんで当然のように思考を読んでるんですか!?」

「君がわかりやすすぎるのが悪い」


そ、そんなにわかりやすいかな……。

いやでも流石に弱すぎるだろ。あと戦闘力ってなんだよ。コメントでも何回か目にしたけどなにそれ。ドラゴン◯ール?


「それ以上はいけない」

「だからなんで読めるんですか!」

「ちなみに戦闘力はその魔物の魔力を測定してその魔物がどの程度の強さか予測したもの」

「へぇ」


:へぇ

:初めて知った

:戦闘力ってそうなのか

:なるほど魔力で測定してるのか

:ほーん

:で、釣り人さんがようこちゃんの思考を読んでる仕組みは?

:ようこちゃんがわかりやすいから

:確かに表情コロコロ変わるけどさすがに考えてることはわからんから!


「ある程度の強さがあれば相手の戦闘力を一目見ただけでわかるようになる」

「そうなんですか……すごいですね」

「君ならこれくらいできる」


:これくらい……?

:そういえば釣り人さんスカウター使ってなかったな

:もしかして見るだけでわかる?

:ていうかようこちゃんと普通に深層歩いてるのおかしくないか

:あの、釣り人さんの近くを通った魔物内蔵と血だけ残して消えてたんですが

:君のような勘のいいガキは嫌いだよ


え、釣り人さんそんなことしてたの?

俺が先行する形になってるからまったく知らなかったんだけど。確かになんかめっちゃ動いてる気配あってなにかなーとは思ってたけど。

ほんと何してたんだろ。


「あの、後ろで何してたんですか?」

「魔物を解体して収納してた」

「貴方も大概なのでは……?」

「どうだろうね」


ぐ、顔が隠れてて表情がわからない!

もう俺が異常ということを否定できなくなってしまった。非常に心苦しいが、一人で逝く訳にはいかない!

釣り人さんごめん、俺と心中してくれ!!


「そうです釣り人さん、私と場所変わりましょう」

「……自分の強さ、少しは自覚した?」

「しました!なので変わりましょう!!」

「わかった」


:ようこちゃんなら何かわかるかな

:なんでようこちゃん自分から変わったんだろう

:何してるか気になっただけでしょ

:ようこちゃんに限って変なこと考えんしな

:ようこちゃんはいい子だし


心が、痛い!!

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