第19話

あれから約一時間後。私は狐坂姉妹二人と立派なお屋敷にいた。どうやら二人の自宅らしい。なぜ、こうなったのだろうか……。

地獄のジェットコースターを味わい、気絶した私はダンジョンの上層で目を覚ました。それから二人と一緒にダンジョンを出て、つけっぱなしだった配信を終えた。たしかそれで私は帰ろうとしたんだけど電車の時間がもう過ぎてたんだよね。

予定ではもっと早く帰ることになってたんだけど、バジリスクに追いかけ回されたからなぁ……。

そのことを話したら二人に泊まって行けと言われたんだ。ホテルでいいって言ったんだけど、ようこちゃんに———。


「チェックインの時間は過ぎてますしそのフラフラ状態で怪我したらどうするんですか」


———と正論をぶつけられた。私、これでも大人だよ?

それでじゃあ、マネージャーに頼めばいいんじゃんと思い電話を掛けたんだけど、もうお酒飲んでるから無理とか言ってきた。

帰ったら覚えておけよ!

はいまあそんな感じで泊まる事になったわけです。

でももうすでに私には限界が来ていた。

なぜかって?

普通の家とかマンションを想像してたのに連れてこられたのがめちゃくちゃ立派なお屋敷だったんだよ?

そりゃ疲れるでしょ。

それに加え仮面を外したようこちゃんの顔!

もう美しすぎて直視できないんだけど。それに素の口調!

男らしすぎない!?

それにオレっ娘だし。もぉおおお!

性癖にぶっ刺さってるんだけどーーー!!!!


「鈴さんどした? 俺の顔になんか付いてるか?」

「い、いえなんでも」


ぐぅ、声もかわええ……。

ようこちゃんの可愛さに思わず悶えてしまう。すると、しゅんこちゃんが七輪とトング、火ばさみを持ってきた。


「姉上、これでよいか?」

「お、ありがとしゅんこ。じゃあさっそく焼くか!」

「おう!」

「鈴さんもいっぱい食えよ!」

「え、いや私はいいよ」


さすがに助けてもらった上にご飯まで貰うのは駄目でしょ。

ここまでしてくれたのにタダ飯までたかるのはさすがにねぇ……。


「でも鈴さん、俺たちじゃこの量の肉食い切れないんだよ」


そう言ってようこちゃんが台所から持ってきたのは、とんでもない量のお肉だった。牛一頭は軽く超えるそれは、絶対に二人で食べられる量じゃない。


「これが後いくつもあってさ。駄目にさせたくないから食ってくれない?」


う、ようこちゃんの上目遣いやばい……。

こんなの、こんなの、食べるしかないじゃないか!


「わかった。私も食べる」

「よし! じゃあしゅんこ、鈴さん、じゃんじゃん焼いてくぞ! ご飯も炊き立てだ! どんどん食ってけ!」

「おう!」

「はい!」

「ブォフ!」

「ニャー!」


ん?なんか多くない?

え、なにこのちっちゃいドラゴンともふもふの子猫。めちゃくちゃ可愛いんだけど。お皿を咥えて期待した目で焼かれてるお肉見てる。食べたいんだろうか。


「お、これ焼けたな。一番最初だ、誰がいく?」

「ブォフ!!」

「ニャー!!」

「儂じゃ!!」


ようこちゃんの言葉にドラゴンと猫ちゃんとしゅんこちゃんが一斉に手を挙げた。

すごい、みんな涎垂らしてる。かわいい!


「むむ、どうやら譲れぬ戦いをせねばならんようじゃな」

「ブォフ」

「ニャー」


一人と二匹が剣呑な雰囲気を纏う。なんか、嫌な予感がする。


「勝負じゃお主ら、まずは人化せい!」


なに、じんか?

疑問に思ったのも束の間、ぽふんと二匹から姿が隠れてしまうほどの煙が出た。そして煙が晴れた所にいたのは、二人の美少女だった。

一人は吸い込まれてしまいそうな長い黒の髪と月のような金の瞳を持つ美少女。彼岸花の描かれた黒い着物を着ており、特徴的なのは頭から生えた二本の黒い角だ。

もう一人は雪のように白い髪を短く切り揃えた青い瞳を持つ猫耳の美少女。服装はもう一人とは正反対の、白虎が描かれた白の着物だ。

はい、なんでしょうこれは……。

もしかして人化ってそういうこと、だよね。うん、考えるのはやめよう。

というか、早くこの三人止めないとやばいんじゃないかな。なんかめちゃくちゃ殺し合いそうな雰囲気醸し出してるんだけど……。

よし、ここはこの家の主であるようこちゃんに頼もう!

お願いようこちゃん!


「( ゚д゚)ポカーン」


駄目だこりゃ!!

ようこちゃんお肉持ったまま固まってる!

可愛いなちくしょう!

もしかして知らなかったの!?

知らなかったんだね(確信)!

わかった、お姉ちゃんに任せて!


「あ、あの……」

「人化したな!よし、ここは人間達の勝負の方法でいこう。太古より数々の戦さを沈めてきた至高の勝負……じゃんけんじゃ!」

「絶対……負けない…」

「主のお肉をもらうのはウチだー!」

「( ゚д゚)ポカーン」


頼りないお姉ちゃんでごめんなさい……あの顔、撮っても怒られないかな?


「ではゆくぞ!じゃんけんぽん!」

「ぽん!」

「ぽん!」

「フハハハハ!儂の勝ちじゃー!」


勝負は見ての通り、しゅんこちゃんが勝った。


「さぁ姉上、その肉を儂の皿に!」

「んぁ?……はい」


ポカン顔から目覚めたようこちゃんがしゅんこちゃんのお皿にお肉を乗せる。お肉を受け取ったしゅんこちゃんは、すぐさま箸で掴み口に入れた。


「うまぁ♡」

「うぐっ!!」

「鈴さん!?」


はぁ、はぁ、危なかった。なんとか致命傷だけで済んだ。下手したら浄化されて死ぬとこだったよ。

幼女の満面の笑み、危険すぎる!


「はぁ……とりあえず、肉焼くか」


ようこちゃんがすごく疲れたような顔してる。予想外なことが起きすぎてオーバーヒートしちゃったみたい。

でもようこちゃん、多分それ周りの人がようこちゃんを見た時の反応と同じだからね。


「焼けた。一枚は俺が食うとして鈴さん、どうぞ」

「……ありがとう」


私ももうこうなったら遠慮なく食べるよ。

そして私はそのままお肉をいっぱい食べた。お肉はすごくおいしかった。焼いただけなのに肉の旨みが凝縮してて、噛めば噛むほど味が出て、気付けば皿が空になっていた。

そこからお風呂を借りて体を洗った。なんで温泉になってるんだろうね?

私わかんなーい。


「はい、鈴さんはここね。布団二つしかなかったから、俺はしゅんこと寝るよ」


神様ありがとう。私を天国に連れて来てくれて。

顔を真っ赤にしたしゅんこちゃんと、何にもわかってなさそうな二人を見届けながら、私は布団に入った。

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