二章
第16話
「なんじゃ?」
「わかりませんが、一般人が迷い込んだのかもしれません。助けに行きましょう!」
俺としゅんこは悲鳴のした方へと走り出した。壁をぶち壊し、魔物を蹴散らして最短距離で向かう。俺達が移動する音が下層に響くが、構わず突き進む。
最短距離で進んでいたからか、20秒程でそこに着くことができた。
そこには、倒れ込む女性と、それを捕食しようとするトカゲの魔物がいた。俺はしゅんこが女性を守る結界を張ったのを確認し、トカゲ目掛けて蹴りを放つ。トカゲはその一撃で頭部が粉々になり、息絶えた。
:うわぁ……
:一撃かよ……
:てかこいつバジリスクだよな?
:あー、あの石化の魔眼使ってくるクソ魔物
:俺のトラウマが粉々に……
:あれ?この助けた子もしかして鈴ちゃん!?
トカゲが絶命したのを確認し、女性に話しかける。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
なぜか呆然とした様子の女性を観察する。ドレスアーマーのような装備を身に纏ったピンク色の長髪の女性。すごく配信映えしそうな格好なのだが、今は傷だらけで血に濡れている。
深い傷はないようだが……あ、足が石化してるな。さっきのは石化を使う魔物だったのか?
早々に屠ってよかった。あのままだったら俺も石化してたかもしれないし。いや思い返せば道中にたくさん居たし狩ったから何かのトラップか?
まあ原因を考えるのは後にして、まずは石化を解かないと。
……石化ってどうやって解くんだ?
いや俺石化の解き方なんて知らないんだけど。流石に切り離すのは駄目だろうし……。
むぅ……わからん。そうだ、ここはしゅんこの力を借りよう。ダンジョンを運営していたしゅんこならなんとかできるはずだ。
「しゅんこちゃん、石化を解きたいのですが私にはできそうにありません。しゅんこちゃんできます?」
「うむ、できるぞ。確かこの辺に……あったあった。これじゃ!」
そう言いながらしゅんこが鞄から取り出したのは、一つのフラスコだった。そのフラスコの中には紅色の液体が入っている。
なんだそれ? え、それもしかして掛けるの?
そんなん掛けたら悪化しない?
大丈夫?
俺の心配なんて露知らずなのか、しゅんこはフラスコの蓋を開け、中の液体を女性の石化した足にぶちまけた。
するとみるみる足の石化は解けていく。また、それに限らず体中の怪我が癒えていき、数秒後には傷一つない状態になっていた。
な、なんだこれ……。数が一瞬で治るなんてまるでゲームに出てくるポーションじゃないか。
「よし、解けたぞ!」
どうやらもう大丈夫なようだ。惚けた様子の女性に代わって、さっきの液体のことについて聞いてみよう。
「しゅんこちゃん、さっきの液体ってなんなんですか?」
「む、姉上は知らんのか。先ほどのはポーションと言って飲む、または傷口に掛ければ傷や病、状態異常を癒すことができるのじゃ」
「なるほど……そんなものがあるとは」
「姉上は使ったことはないのか?」
「はい。傷を負ったことも病に罹ったことも状態異常になったこともありませんので」
「まぁ姉上はそうなんじゃろうなぁ……」
:いや俺達もあんなの初めて見たんだけど
:何さっきのポーション……あんな赤いの見たことないんだけど
:足が一瞬で治ったぞ。どんだけ位高いんだ……
:ポーションの効力すげぇ……
:うわぁ、ポーションすげえ
:お前らポーションばっかりに注目してるけど、ようこちゃんの傷を負ったことない発言と現在進行形で助けてる相手が大人気ダンチューバーでしかも配信中ってのにはどういうお気持ちで?
:↑やめろ、あまりにもあんまりな内容で脳が理解するのを拒否ってるんだ
:俺は何も知らない……ようこちゃんが怪我したことないなんて知らないし大人気ダンチューバーの鈴ちゃんを助けたことなんて何にも知らない
「さて、無事助けられたことですし、今日の探索はこの辺にしておきましょうか」
「そうじゃな。いくら初心者ダンジョンじゃとしても下層より下は危ないかもしれんしの」
よし、帰宅決定。さっさと帰って風呂入ってご飯食べよう。今日の晩御飯は焼肉だからな。すごく楽しみだ。
さて、俺達は帰ることになったけど、この女性はどうするんだろ。一応探索者みたいだけど言い方は失礼だがあまり強くないし。それに怪我したんだし帰った方がいいと思うんだけど。
てか、さっきからずっと惚けてるし……大丈夫か?
「貴女はどうするのですか?」
「っ、すみません。助けていただいたにも関わらずお礼もなしで……」
「いえ、当然のことをしただけですので、お礼は結構です。それよりもこのままダンジョンに残りますか? 私達は帰るのでもし帰るのなら送り届けますが」
「わ、私も帰ります。ですが助けてもらった上にそこまでしていただくのは……」
「遠慮はよいぞ。帰るついでじゃしな」
「で、でも……」
むぅ……なかなか同意してくれないな。別に迷惑じゃないし、もっと頼ってくれてもいいんだけど……。
怪我もしたんだし、おそらく血もたくさん流したんだろう。立ってもフラフラしてるし、明らかに血が足りてない。顔色も悪いぞ。
それになんか、放っておけないんだよなぁ……。
放っておいたらそのまま死んじゃうような危うさを感じる。
どこまでも頑張って、他人を頼らない。全部自己完結しそうな、そんな感じがする。
このタイプは、自分の限界を見極められないタイプだ。その証拠に、今も無理をしているのに大丈夫だと言って俺たちを頼らない。
よし、もう強制連行だな。
そうと決まれば早い。助けた女性を抱えて、しゅんこに向き直る。
「さて、行きましょうか」
「……うむ、そうじゃな」
俺の言いたいことが伝わったのか、しゅんこは一度頷き同意してくれた。ふふ、これが姉妹の力だ!
「え、あの、え?」
「今日のご飯は焼肉です。楽しみですね」
「そうじゃな、ここに来る途中漫画というものを読んでみたが、そこに描かれていた焼肉は本当に美味そうじゃった。期待大じゃ!」
「え、なんで私断ったのにお姫様抱っこで連行されてるの?」
「あ、そういえば名乗っていませんでしたね。私は狐坂ようこです」
「儂は狐坂しゅんこじゃ」
「あ、私は
へぇー、鈴さんって言うのか。外見通り、可愛い名前だな。
俺はそんなことを思いながら、ダンジョンを上がって行く。
しゅんこのダンジョンはクリアしたら扉が出てきてそのまま帰れたから良かったけど、ここは上がらないといけない。
正直言って、面倒くさくて仕方ない。もう走ろうかな。うん、いいよな。走っても。
「しゅんこちゃん、走りませんか?」
「奇遇じゃな。儂も先程から退屈で仕方なかったところじゃ」
「え?」
ふっ、さすが我が妹。気が合うじゃないか。そうだよな、やっぱり走った方がいいよな。
「しゅこちゃん、行きますよ」
「おう!」
「え、待って待って待って!!」
なんか聞こえたがもう遅い。俺達はすでに走り出していた。
壁をぶち抜き、魔物を轢いて、走り抜ける。風が気持ちいいぜーー!
「うわぁあああああ!!!!」
:もうめちゃくちゃだよ
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