第14話
中層への入り口を通り抜ける。そこにはこれまでとなんら変わりのない景色が続いていた。
「んー、なんか変わりました?」
「なんも変わっとらんな」
:いや変わったから
:普通中層に入ったらちょっと息苦しくなる
:空気の重みが全然違う
:最初入った時は息苦しくてすぐ出たわ
:なんでこの二人は平気なんですかねー
:ようこちゃんは仮面でわからんがしゅんこちゃん顔色変わってねえわ
:そりゃああのやばいダンジョンのマスターだからな。納得できる
:しゅんこちゃんは一応魔物みたいだし納得できる。ただようこ、お前はダメだ
:ようこちゃんが人間じゃないと言われても納得できる
:というかあの顔面でしゅんこちゃんみたいにケモ耳生えてきたらと思うと魔物でもいいと思ってきた
「皆さん何言ってるんですか……。あ、来ましたね」
中層に入って少し歩いると、こちらに突進してくる魔物が一匹現れた。どうやら牛の魔物のようだ。
牛の魔物というとしゅんこのダンジョンに居たあの人の体と牛の頭の魔物を思い浮かべるが、今回は完全な牛のようだ。
たしかしゅんこの所の牛はものすごく美味かったな。油が乗っているがくどくはなく、ただ焼いただけなのに熟成された肉のような柔らかさと香りがあった。
この牛は、どんな味がするんだろうか……。
「じゅるり……」
「姉上? どうしたのじゃ?」
「いえ、あの牛さんはどんな味がするのかなぁと思いまして」
「……確かに、儂のダンジョンの牛は絶品じゃったからのぅ。他のダンジョンの牛がどんな味なのか、儂も興味が出てきた」
:逃げろ、クレイジーキャトル!
:まずい、完全に獲物を認識した肉食獣の目だ
:クレイジーキャトル、Bランクの魔物。とても気性が荒く、人間を見つけると突進してくる。だがその肉は絶品と言われている……肉が絶品、か
:中層では割と強い魔物なんだがな。相手が悪すぎる
:ていうかミノタウロス食ったの!?
:素材だけじゃなくて肉も回収してたのその為か
:確かようこちゃんの好物は鶏肉だよな。めっちゃ狩られてたコカトリスってまさか……
:↑もう胃の中です
:まずい、ようこちゃんに食いしん坊キャラが追加されてしまう
:何も問題はない!
「しゅんこちゃん、今日のご飯は焼肉です」
「じゅるり……ならばここの牛は根絶じゃな」
:あ、オワタ
俺としゅんこは牛を狩り続けた。食べる部位を消し飛ばさないように慎重に、だが素早く。階層を跨ぎ壁を壊し、牛をこのダンジョンから絶滅させる勢いで狩り続けた。
牛を追い求め走っていると、ボス部屋に着いてしまった。
「あれ、もうボス部屋ですか?」
「むぅ……まだ狩り足りんぞ」
:うわぁ……
:もう百匹は狩ってるんだよなぁ……
:クレイジーキャトルが出てきたら一瞬で首刈り取られててもう草も生えん
:虫のように殺されていくクレイジーキャトル達に涙を禁じ得ない
:しかも死体を無言でなんかよくわからん袋に入れるから怖かった
:あの袋すごいよな、めちゃくちゃ素材入ってた
:ようこちゃん、あの袋って何?
「袋? あぁ、アイテム袋の事ですか。これはダンジョンに行く前にしゅんこちゃんに貰ったもので、無限にアイテムを入れられる代物みたいですね」
「儂はダンジョンマスターじゃからな。宝箱で出るアイテムは全て作り出せるぞ」
:え
:は?
:無限に入れられる!?
:おいそれ何億円だよ!?
:確か一般的な倉庫一つ分の容量のアイテム袋が5億円で落札されたから……
:無限なんて5億以上は絶対にあるしもしかしたら100億位あるのでは……?
:問題はそれをしゅんこちゃんが量産できること
:宝箱の中身を全部作れるってチートもいいとこだろ……
:あのダンジョンの難易度ならエリクサーとかもありそうだな
:↑普通にあるでしょ
なんかコメントの流れが早いな。なにがあったんだ?
普通に妹からのプレゼントを見せただけなのに……解せぬ。
さて、まぁそれは置いといて、行こうか。
俺としゅんこはボス部屋の扉を開ける。そして、その中にいたのは巨大で赤い……牛だった。
:あ、オワタ
そこからは一瞬だった。俺としゅんこの神懸った連携により牛は巨大な肉ブロックへと姿を変えた。ぐへへ、今夜の焼肉が楽しみだぜ……。
さて、どうしようかな。
俺は下層の入り口を見ながら考える。
結構攻略とかしたが、俺はまだ探索者初心者だ。小説とかで下層は中層などとは別格と呼ばれている。そんな所に俺みたいな初心者が行っていいものか……。
「んー……」
「姉上、どうしたのじゃ?」
「いえ下層に行くかどうか悩んでいまして」
「なるほど下層か……。姉上、この程度のダンジョンなら下層でも問題ないのではないか?」
「そうですかねぇ……。皆さんはどう思いますか?」
:問題ないでしょ
:上層と中層をデコピンでクリアした人がなにを躊躇ってんの
:ようこちゃんなら普通に行けるから自信持って!
:下層でも無双する未来が見える見える
「皆さんも行ってほしいみたいですし、行きましょうか。でも危なくなっならすぐ戻りましょう」
「了解じゃ!」
よし、用心しながら行くか!
俺としゅんこは下層に続く扉を開け、下層に踏み入れた。
うわひっろー。
下層は中層などとは比べ物にならないほどの広さがある洞窟だった。でかい岩の柱が何本も立っており天井を支えている。
ここが下層か。心なしか、空気が澄んでいる気がする。やっぱり洞窟の中だからだろうか。冷んやりしていて気持ちいい。
「空気が綺麗ですねー」
「そうじゃなー」
:あれ?おかしいな
:普通下層に入ると息苦しくて戦闘力低かったら数秒でダウンするんだが……
:ようこちゃん?君なんで魔物でもないのにそんなリラックスしてるの?
:ようこ、魔物説
:↑結構濃厚だぞ
:ないと言い切れないのが怖い
「もう、みなさん何言ってるんですか。下層が息苦しい? そんなわけないじゃないですか」
なんか、俺が魔物の妖狐ってことバレそうになってるんだけど……。
いや別におかしな事でもないだろ。洞窟の空気は冷たくて綺麗に決まってるじゃないか。ダンジョンでもそれは多分変わんないと思うんだけどなあ……。
「ここは洞窟の中なんですよ、空気は綺麗なんです」
:その前にここはダンジョンなんだが
:空気どうこうの問題じゃないって
:※ダンジョンの下層は瘴気(魔物やダンジョンの元)が充満しているため戦闘力の低い人間には毒です
:なら空気が綺麗とか宣ってるこの幼女の戦闘力はいくつなんだ……
:↑測定不能だよ
:ワロタ
「姉上、魔物が来たぞ」
お?
もう来たのか、早いな。
俺たちの前に現れた、下層最初の魔物は鹿だった。もちろん普通の鹿などではなく、その角に炎を纏った馬鹿でかい鹿だ。
「鹿肉って興味ありません?」
「そうじゃなぁ。どんな味がするのじゃろう」
:あ
:まずい
:クレイジーキャトルの二の舞になってしまう
:逃げるんだ、勝てるわけがない
:それでもこのフレイムディアは勇敢に立ち向かう
:まさに魔王に挑む勇者そのもの
:果たしてフレイムディアは勝てるのか……
:次回、フレイムディア死す
:デュ……言わないぞ
:ちっ
:ノリ悪いぜ
「えい」
「勇者は魔王の手刀により、切り伏せられたのじゃった」
「この子は鍋ですね!」
:血も涙もねぇ
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