第12話

次の日、俺達はダンジョンにいた。もちろん、配信のためだ。今いるのはしゅんこのダンジョンとは違う、街にあるダンジョンだ。

もうしゅんこのダンジョンは攻略してあるし、他のダンジョンに行くしかない訳だ。

今はいつもの16時ごろ。やはりいい時間帯のこともあり、何人も人が出入りしているが、気配を消しているので気付かれていない。

身バレは怖いし、大勢の人前で目立つのは画面越しじゃないと慣れない。学校とかでの演説とか本当に無理だわ。

だから、身バレなんかには細心の注意を払っていこう。

それじゃ、始めるか。


「どうもみなさんこんにちは! 新人ダンチューバーの狐坂ようこです! そして!」

「こんにちはじゃ、皆の衆。今日から配信に出ることになった狐坂しゅんこじゃ。よろしくな」


:きちゃああああああ!!!

:待ってたぜ、俺の生きがい

:お、しゅんこちゃん今日から参加か!

:やったーーー!!

:またお姉ちゃんようこが見られるのか

:ようこちゃんがお姉ちゃんしてるシーンめっちゃ人気だからな

:百合を、百合を見せてくれ!

:濃厚な百合がみたいのじゃーー

:まーた百合豚が湧いてんな

:奴らは出荷しといて、今日はダンジョン違うんだな

:ほんとだ、ここ東京の新宿のダンジョンじゃん

:あ、あの有名な

:大丈夫? 厄介な奴とかが凸りに来たりしない?


「みなさん気付きましたか? そう、ここは東京の新宿にある大きなダンジョンです。あ、凸なんかは大丈夫です。私達は基本気配を消しているので誰にも見つかりません。ほら、周りのみんなも私たちのことを認識すらしていないでしょう?」


:たしかに

:なら大丈夫か

:安心安心

:誰にも気付かれないんだからそりゃあバレないわな

:うん、みんなツッコもうか

:いやだってようこちゃんならそれぐらいできてもおかしくないし

:できて当然みたいなとこある

:毒されすぎなんだよなぁ……


「今日はいつも通りダンジョン攻略です。では入りましょう」


そう言いながら、ダンジョンに入る。

ダンジョンに入り、初めに見た景色は洞窟の中だった。事前に調べた限り、どうやらこのダンジョンは洞窟型で、めちゃくちゃ下まであるらしい。

なんか上層、中層、下層、深層、深淵と難易度が分かれているんだとか。この難易度は10階層ごとに分かれているみたいだ。

まぁ俺は初心者みたいなものだし、いけても中層までかな。


「初めてのダンジョンなので、罠とかに注意していきましょう!」

「儂も他の者のダンジョンは初めてじゃし、張り切って行くぞ!」


:注意して行くのはいいけど張り切っちゃダメ

:この二人が張り切ったらダンジョン崩壊するて

:張り切りダメ、絶対


「皆さん何を慌ててるんですか。私達が暴れた程度でダンジョンが崩壊するはずがありません!」

「そうじゃそうじゃ、里の出来損ないの儂でもダンジョンを作れたのじゃぞ? 儂より歴が長い者が作るダンジョンが、儂程度が暴れたところで崩壊する訳なかろう。………姉上は知らんが」

「しゅんこちゃん?」


:wwww

:裏切ったwww

:妹に裏切られる姉

:信用がないwww

:実際ようこちゃんマジでバケモンだからな!

:しゅんこちゃんも大概なんだよなぁ……

:こいつら、自分の強さ自覚してねぇ……

:まぁまぁ、ようこちゃんが常識を自覚したらなんでも言うことを聞いてくれるみたいだから


「だからなんで私が非常識みたいになってるんですかーー!!!」

「おいお主ら、姉上はいいとして儂は違うからな!」

「しゅんこちゃん? 全然良くないですよ?」


はぁ、なんでしゅんこにも信用されてないんだ……。まぁいいや。どんどん進んで行こう。しばらくリスナーと会話をして歩いていると、前方に敵が現れた。

それは半透明の体を持つ、液体が硬いか定かではない、生物なのかもわからない魔物、スライムだ。

ゲームでは序盤に出てくる魔物ザコ筆頭なのだが、この世界ではどうなんだろうか。


「えい」


飛び掛かってきた所をデコピンで迎え撃つ。所詮スライムだ、俺の敵ではない!

案の定、スライムは俺のデコピンに耐えられるはずもなく、消滅した。


:ス、スライムーーー!!!

:お前、いい奴だったよ

:お前は良く頑張った……ただ、相手が悪すぎただんだ

:スライムの勇姿に敬礼!

:( ̄^ ̄)ゞ

:( ̄^ ̄)ゞ

:( ̄^ ̄)ゞ

:いや、スライムただ飛び出しただけなんですが……

:あのようこちゃんに果敢に挑んだんだぞ?

:勇者と言わずしてなんと言うのか!

:あいつは逃げなかった、それだけでもあいつは強いんだ

:いや逃げるもなにも消滅してるんだが


「スライム、お主は良く頑張った………」

「しゅんこちゃん、神主さんたちの真似なんてしなくていいんですよ?」


そんな感じで、どんどん敵を倒して進んでいく。

なんかデコピンだけで事足りるからあんま戦ってる感じしないな。まぁしゅんこのダンジョンでも同じだったんだが……。

俺も探索者として結構ダンジョンに潜ったことだし、そろそろ手応えのある敵に出会いたい。


:全部デコピンで瞬殺しててワロタ

:そりゃあSランクの魔物を一撃で倒すようこちゃんのデコピンだから威力も桁違いだよな

:もうデコピンだけでいいんじゃないですか……


なんか、俺ばっかり倒してるのもあれだな……。全部デコピン一発で終わるし、配信的にもそれでは見栄えしない。

あ、そうだ!


「しゅんこちゃん、代わりましょう!」

「ぬ? いきなりどうしたのじゃ姉上」

「いや私だけが倒すのはどうかなと思いまして……」

「なるほど……よくわからんが、わかった、交代しよう!」


そう、しゅんこに任せればいいんだ!

しゅんこは俺より実力は下だから、もっといい戦いができるかもしれない。期待してるぞ、しゅんこ!

あ、早速敵が来た!

ゴブリンか、最初の相手としてはもってこいだな!


「頼みましたよ、しゅんこちゃん!」

「ふっふっふ、姉上からの頼みじゃ、本気で行くぞ!」


:え

:急展開

:ようこちゃんつまんないからって妹に丸投げはダメだろ!

:それでしゅんこちゃんはしゅんこちゃんで張り切ってるし!


しゅんこは妖力をありったけ込めて拳大の火の玉を作り出す。そしてそれを、ゴブリンに向けて放った!

火の玉は放たれた瞬間一気に巨大化し、ゴブリンを焼失させ、それだけに留まらず洞窟の壁をぶち抜き、どんどん進んでいく。

ある程度まで進むと、火の玉は爆発して辺り一帯を灰にした。


:………

:………

:ゴブリンに使う威力じゃねぇ……

:あれドラゴンでも溶けるな

:ダンジョンの壁って壊れるんだな………

:しゅんこ、お前もか!!

:ダンジョン破壊よくない

:一階層灰になったぞ

:ゴブリンは灰も残ってないよ


「どうじゃ? 姉上上出来じゃろう」

「ちゃんと探索者に配慮したんですね、えらいです!」


あの爆発で一階層は灰になったが、俺たち以外の探索者もあの爆発により死ぬことはなかった。それは当然、しゅんこが探索者が爆発に巻き込まれないよう妖力で守ったからだ。

昨日俺はしゅんこに妖力について詳しく聞いた。

妖力はラノベとかでよく言う魔力のようなものらしい。俺はそれを前まで無意識に使って耳なんかを隠していたのだが、しゅんこの話を聞いて頭で理解したことで、妖力を知覚できるようになった。

これで俺もしゅんこが言ってた妖力を使う術、妖術が使えるようになったぜ!

それは今は関係ないか。

しゅんこの放った妖術が探索者に影響を与えなかったのはそんな理由だ。


「さて、どんどん行きましょう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る