第11話

ご飯を食べ終えた俺は、しゅんこと向き直っていた。


「それで姉上、どういうことなのじゃ?」

「実は……」


俺は突然この世界に転生し、気付いたらこの姿だったことをしゅんこに伝えた。男だったことは黙っておく。色々と面倒だからな。

……だったらしゅんこの前では口調を変えた方がいいのかもしれないが、里の長とやらと同じになるのは嫌なのでこのままでいいだろう。俺はしゅんこに嘘をつきたく無いからな。


「なるほど。転生なんぞ聞いたこともないが、そんなこともあるんじゃな……」

「信じてくれるのか?」

「いやじゃって儂外のことほとんど知らんからそんなことも普通にあるもんかと……違うのか?」

「いや、俺という事例があるから否定できないな」


しゅんこは世の中のことを知らないんだな。人間の常識を、俺が教えていかないと。なんたって今の俺はお姉ちゃんだからな!

……あれ?

今思ったが俺は元男だよな?

お姉ちゃんって……。

なんか、男の威厳がもう完全にない気がするんだが……。

そ、そんなことは……ないと言い切れない!?

まずい、これはまずい。

このままでは精神も女の子になってしまう!!


「姉上」

「なんだ?」


俺が勝手にピンチに陥っていると、しゅんこが話しかけてきた。


「これから、どうするのじゃ?」


不安げに聞いてくるしゅんこ。それもそうだ。しゅんこは人間の生活なんて何も知らない。そんな状況で引きづり出されたんだから、これからどうなるのか不安にもなる。

連れ出したのは俺だし、責任は取る。俺が死ぬまでしゅんこの面倒を見ることくらい、簡単だからな。


「とりあえず配信をしながらのダンジョン攻略だな。しゅんこのダンジョンはもう攻略したから、別のダンジョンに行くことになる」

「なぁ姉上、配信とはなんじゃ?」

「配信は、まぁカメラを使う劇みたいなものだ。見てくれているお客さんに楽しんで貰えるようにする。そして自分も楽しむ。それが配信」

「劇? カメラ?」


あ、劇もカメラも知らなかったか。うーんでも配信がなんなのか説明するのは難しいんだよな。うん、もうここは流れでいいか。


「まぁやってみればわかるさ。基本的にダンジョンを攻略するだけだから」

「なるほど。承知した」


わかってくれたようで何よりだ。あ、そろそろ風呂の時間だ。元男なのにお風呂は大丈夫なのか、と言われるだろうがまぁ人は慣れるものだ。

最初は俺も戸惑ったが、もう慣れた。


「しゅんこ、どっちが先に風呂に入る?」

「フロ? フロとはなんじゃ?」

「え」


まさか、風呂を知らないとでも言うのか!?

そんな、まさか……。いやでも、しゅんこの表情を見る限り本気で知らないみたいだ。

どうしたものか……これじゃあ先に入る方を決められないし、一緒に入るのもなぁ……。別に俺は見られても大丈夫だし、子供に欲情はしない。

でもしゅんこは見られるのが恥ずかしいかも知れないからな。だからこれは最終手段としておこう。

とりあえず風呂の説明はしよう。


「なるほど、水浴びと似たようなものか。じゃがしゃんぷー?は本当に知らんな。……そうじゃ!」


俺の説明を聞き終えたしゅんこは、何か思いついたかのように声を上げる。キラキラとした目でこちらを見てくるので、とりあえず聞いてみる。


「どうかしたか?」

「姉上と一緒に入ればいいのじゃ!」


ん?


「それならば儂は学びながら入れるし姉上も儂を待たなくて済む。どうじゃ? いい案じゃろ?」


いやまあ、いい案ではあるんだが、恥ずかしいとかないのか?

んー………でも自分から提案してきたってことは恥ずかしさはないってことだよな。じゃあ問題はないか。


「そうだな。じゃあ一緒に入るか」


二人で着替えを持ち、俺達は浴場へ向かった。

俺の家の浴場は大きい。旅館の温泉くらいの大きさがある。じつは本当に温泉なんだがな。これは魔法で地下に源泉を作り、そこから湯を引いてきたんだ。だから正真正銘温泉と言える。


「ここで服を脱ぐんだ」

「しょ、承知した」


なんかしゅんこの反応が変だな。もしかして初めての風呂に興奮を隠せない感じか?

可愛いやつだ。

脱衣所で服を脱ぎ終え、中に入っていく。そこには、温泉旅館と遜色のない程の温泉があった。造形にかなり力を入れた自信作だ。ちゃんとシャワーなんかの設備もあるしサウナもある。うん、夢のような浴場だな!

早速かけ湯をして温泉に入る。ふぁ〜、と自然と声が出るが気にしない。やっぱり温泉はいい。


「熱っ!」


しゅんこも俺の真似をしてかけ湯をしたのだが、どうやら少し熱いらしい。妖狐でも熱湯はダメなのか。俺は大丈夫なのに……あぁ、水浴びしかしてこなかったからか。

俺とは違いゆっくりと警戒しながらお湯に浸かっていき、完全に浸かるとトロンとした表情をするしゅんこを見る。どうやら気に入ってくれたようだ。


「しゅんこ、温泉はどうだ?」

「うむ、疲れが温かい水に溶けていくようじゃ。もうここから出たくない」

「さすがにのぼせるから駄目だぞ」


他愛もない会話をしながら温泉を堪能する。それから体を洗い合ったりして浴場を出た。体を洗い合う時にしゅんこがドギマギしていたがやはり恥ずかしかったのだろうか。

うん、でも妹と入れてお姉ちゃんは満足だぞ。ちなみにネロと銀花も一緒に入った。銀花の毛並みは濡れていても最高だった。

やはりモフモフはいい。俺にもめちゃくちゃ肌触りのいい九本の尻尾があるから時々堪能している。これぞ欲望の自産自消だな。

馬鹿なことを考えながら布団を敷く。そう、俺は布団派だ。前世ではベッドで寝ていたが、今世では布団で寝ている。ベッドじゃ尻尾が入りきらないんだ。

デカいのを作ればいいと言われればそうなんだが、やはり大きければそれだけスペースを取る。だったら収納も楽で万が一客が泊まりに来た時でも対応できる布団の方がいいわけだ。

そんなわけで二人分の布団を敷く。作っておいてよかったぜ。ちなみに今の服装は浴衣だ。普通のパジャマとかだと尻尾が出せないからな。やっぱりこれがいい。

二人で布団に入り、電気を消す。

真っ暗になり、二人と二匹の呼吸の音が和室に響く。


「姉上…」

「ん?」

「おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


久しぶりの人の温もりを感じながら、俺は目を閉じた。

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