第4話
あの配信から次の日、俺はパソコンの前で固まっていた。
再生数60万、チャンネル登録者数20万という数字があった。
なんだこれ? もしかしてバズったのか?
俺ただ配信しただけだよな?
なのになんでバズってんだ?
バズった理由が俺にはわからない。でも、この軌道に乗るしかないと思った。
さっそく今から配信だ!
はい、ということで来ました!
昨日と同じダンジョンです!
なぜ同じなのかって?
いやだって他のダンジョンの場所なんて知らないし。
よし、告知も昨日済ませていたし、それじゃあさっそく配信開始だ!
「皆さんこんにちは、新人ダンチューバーの狐坂ようこです。今回も昨日と同じダンジョンに来ました」
:こんちは
:こんにちはー!
:こんきつねー
:うっす
うお、同接2万か。平日なのになんでこんないんだよ。
あ、そうか。この世界には探索者の人が多いからダンジョン攻略の合間とかに見てくれる人も多いのか。なら納得だな。決して無職とかそんなのじゃないだろ。
:昨日と同じダンジョンか
:あの地獄ダンジョン
:ようこに会うために死んでも行きたいが比喩でもなく死ぬので絶対に行きたくないダンジョン
:ようこに会うためにはあの地獄を乗り越える必要があるんだ
「皆さん大袈裟ですよ。あれくらいが地獄なわけないじゃないですか。私でも攻略できたんですよ、初心者用ダンジョンに決まってます!」
:あんな初心者ダンジョンがあってたまるか!
:サンダーウルフに怯えている俺達は初心者未満だった?
:まじか、俺ら初心者未満だったのか……
:俺達が攻略してるダンジョンなんて初心者ダンジョン未満のカスダンジョンだったんだな
:おいお前ら正気に戻れ!
:ようこちゃん俺と結婚してくれ!
:ちょっと待てようこちゃんと結婚するのは俺だ!
:いや俺だ!
:いえ私よ!
:いやワイや!
:また変なのが湧いてきた!
おぉう、コメント欄がカオスになってきた。でもこれぐらい盛り上がってた方がいいよな。よし、じゃあこのテンションのまま行ってみよう!
「それでは中に入ります!」
俺はダンジョンの扉を開けた。
扉の先には昨日と同じ迷宮の地下に行く通路が………なかった。通路なんて、ましてや迷宮なんて存在しなかった。
広がっていたのは幾千本と立っている植物だけ。木の他にも背の高い植物が何本も入り混じり、それを掻き分けた形で道がある。
どこだここ?
え、昨日と同じダンジョンだよな?
一度出て確認する。うん、間違ってない。もう一度入ってみる。うん、木がいっぱいだ。
私でも戸惑っているんだ、リスナーもきっと戸惑っているだろう。
とりあえず一言。
「………なんですかこれ?」
:え……
:なんで、昨日は迷宮だったよな?
:どうして森になってるんですかねぇ?
:困惑してるようこちゃんかわゆす
:いやほんとこれどうなってんだ?
:ダンジョンが一夜にして変わった?
:ようこちゃんなんか知らん?
「いえ、私は何も。昨日は家に帰ってひたすらネロを愛でてましたから」
「ブォフ?」
呼ばれたと勘違いしたのか、
昨日は一緒に遊んで絆を深めたんだよなぁ。俺が作ったご飯もいっぱい食べてくれたし。一緒に寝てくれたし。一緒にお風呂にも入った。この絆が壊れることなんて絶対にない!
そうだ、ネロと絆を深めたことをリスナーに伝えておこう。きっと褒めてくれるはず!
「昨日ネロとは一緒にご飯食べたりお風呂に入ったり寝たりしたんです。この子すごくいっぱい食べるんですよ」
:は?
:お?
:ん?
:………
:………
:おいネロそこ変われ!
:ようこちゃんとご飯、お風呂、添い寝……羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい!
:しかも今ようこちゃんの緋袴の中から出てきたよな
:そこ変われ!!!
:これが、ペットの特権だとでも言うのか!?
:じゃあ俺たちもペットになれば……!
:ようこちゃんの犬にしてください!
:ワン!
「あ、あれ? どうしたんですか、みなさん」
:ネロ絶対許さねぇ
:ようこちゃんの裸を見たその罪、はらさでおくべきか!
よくわからないが、なぜかネロが叩かれてる。どうして? あの発言に何か間違いがあったのか?
でも本当の事だし。
………悩んでても仕方ないか。まずは止めないと。
「みなさん落ち着いてください」
:これが落ち着けるか!
:ネロ絶対殺す!
:殺す
:ちょ、それは言い過ぎ……
:落ち着けお前ら
「………あ"?」
:………
:ひぇっ!
:言わんこっちゃない!
:ガタガタ
:やべぇマジギレだ!
「何がそんなに気に入らないかわかりませんが、ネロは女の子なんですから、殺すとか言って怖がらせたらいけませんよ?」
:はい!
:申し訳ありませんでした!!
:……ん? 女の子?
「はい、女の子です。お風呂で洗っている時に確認しました」
:………ということは、てぇてぇ?
:キマシタワー?
:なるほど
:この度は本当に申し訳ありませんでした。百合を枯らすような数々の発言、腹を切っても詫びきれません
「え、急にどうしたんですか? 百合?」
:ネロを男だと思っていました
:誠に申し訳ありませんでした
:ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「ま、まぁいいです。とりあえず中に入りましょう。まずはそこからですからね!」
コメント欄が謝罪でいっぱいになってしまったので切り替えるためにダンジョンに入る。
………勢いで入っちゃったけど、大丈夫だよな?
ま、まぁ所詮初心者ダンジョンが少し変わっただけだろうし、問題ないか。
「みなさん、もう謝罪はいいです。楽しく行きましょう。見てください、新しい魔物です」
:うお、もう入ってたのか
:謝るのに夢中で気付かんかったわ
:木がいっぱいだぁ
:うわーなんかでっかい魔物がいるーお父さんあれなんて言うの?
:あれはね、ミノタウロスと言って牛の顔と人間の体を持つSランクの魔物だよ
:……………
:………いや待てなんでSランクの魔物が普通に湧いてんだよ!
:………世界滅ぶんかな?
「皆さん何言ってるんですか。ここは初心者ダンジョンですよ、Sランクの魔物なんて出る訳がありません!」
:さすがにわかってるよね!?
:これ本気でわかってないんだよなぁ…
:それがようこの魅力でもあるから
:脳筋……
ちょっと待て、今聞き捨てならない言葉を聞いたぞ。何?
俺が、脳筋だと?
牛が突っ込んで来たがそんなの後だ。否定しないと!
「みなさん! 私は脳筋ではありません!」
:いやミノタウロス来てるって!
:そんなこといいから避けろ!
:ミノタウロスの突進は全てを破壊するって言われてるからマジでヤバい!
「ブモォ!!!」
「牛さんは黙っていてください」
「もぁ!?」
俺は雄叫びを上げて突っ込んでくる牛を片手で受け止め弁明を開始する。
「いいですか皆さん、私は脳筋ではありません。私はこれまでずっと考えて行動してきました。そして最適解を見つけそれを実行しただけに過ぎません。故に私は———」
「ブモォーー!!」
「うるさいです」
ゴシュッ、と俺は牛の頭を潰す。返り血は避けて弁明を再開。
「故に私は脳筋じゃないのです」
:……
:………
:いやミノタウロスの突進片手で止めて頭潰しながら言われましても
:説得力がねぇwww
:もう一周回って笑えてきたわw
:さらっと殺されたミノタウロスに笑いを禁じえないwww
:めっちゃ暴れてたのにうるさいと言う理由だけで殺されてて草
:み、ミノタウロスーーー!
:やっぱりようこちゃんは脳筋だな
「だから、脳筋じゃないですってー!」
うぐぐ、なぜか俺に脳筋キャラが……。
はぁ、仕方ない。ダンチューバー的にキャラが確立されるのはいいことだし、甘んじて受け入れるか。
「むー、はぁ。早く行きますよ」
そう言ってどんどん進んでいく。このダンジョンにはさっきのような牛の魔物がよく湧いているようで、俺を認識した瞬間突進してくる。
全部頭を砕いた。たまに俺に気付かない個体もいたが、落ちてる枝を頭に投げて絶命させた。
気付いていないなら殺さなくていいんじゃないかって?
背後から襲われるのは怖いじゃん。決して八つ当たりなんかじゃない。脳筋って言われたからって俺はそこまで器の小さい妖狐じゃない。
あ、牛だ。死ね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます