第2話
狼の首をへし折った俺は死体から素材を回収していく。その間コメントを見ていたが面白いことになっていた。
:は?
:待て、何が起こった
:サンダーウルフの攻撃を正面から受け止めて首をへし折った?
:雷めっちゃ迸ってたけど無傷?
:ヨウジョツオイ
「みなさんどうかしました?」
:どうかしましたか、じゃないんだよなぁ
:今あなたが倒したのはAランクの魔物です
「いやあんなに弱いのがAランクの魔物な訳ないじゃないですか。ちょっと似てるただの犬ですよ」
Aランクの魔物があんなに弱いはずがない。俺もこの体になってだいぶ強くなったと思うが流石にAランクの魔物に勝てる気がしない。まだ相対したことないけど。
:ようこの言うAランクとは?
:俺ランク調べられる魔道具持ってるんだが間違いなくAランクだったわ
「そんなわけないじゃないですか。皆さん私を騙そうとしても無駄ですからね? どうせDランク程の魔物でしょう?」
:………
:信じてくれない
:解せぬ
「素材も回収し終えたので次行きましょうか」
そう言って俺はどんどんダンジョンを攻略していく。途中で狼に何回も会った。やはり雑魚敵だったのだ。他にもデカい虫や姿を消すオークなんてものとも会ったが全部見掛け倒しだ。
デカい虫はデコピンで体を砕き、姿を消すオークは普通に気配でわかったので回し蹴りで首を飛ばした。
やっぱり雑魚だ。それなのにコメントは大変盛り上がっている。
:やばい配信者がいると聞いて見にきたが
:なんでこのダンジョンAランクの魔物が雑魚敵の如く湧いてんの?
:リスナー教えてやれよ、これマジで危険なダンジョンじゃん
:指摘したら俺達が嘘ついてると思われるし
:どうせ一撃で始末してるし
:wwwwww
なんでみんなこんな雑魚をAランクと思っているか知らないが勘違いは誰にでもあるだろう、と無理やり納得した。
敵を薙ぎ倒しながら進むこと数分後、通路の横に扉があった。
「なんですかね?」
俺は謎の扉を開けて中に入った。中は3畳程の小さな空間になっていた。そしてその中心に大きな宝箱がある。
「宝箱ですか。でも鍵がかかっていますね」
確認したが鍵がかかっていて開けられないようだった。
:もしかしてダンジョン内に鍵があったりするのか?
:え、あの危険なダンジョンをもう一回回るの?
:ようこ諦めろ
「流石にもう一度ダンジョンを一から散策するのは面倒なのでそんなことはしません。ですが宝箱も諦めません」
俺はそう言って宝箱の上に手を置いた。そして———
「えい」
宝箱の上の部分を握り潰した。これで解錠は成功だ。
:え?
:ファ!?
:破壊した!?
:普通宝箱って壊せないはずなんだよなぁ
「中身は………お、刀が入っています」
中に入っていたのは鍔のない刀、白鞘と呼ばれている刀だった。ちなみに探索者は武器を持っていても咎められることはない。素手で魔物に勝てなんて無茶振りだからだ。
ふむ、このフォルムなかなかいいな。俺は取り出して視聴者に見せつけた。
「皆さん見てください、刀です。白鞘です。今からこれで戦います!」
:刀か、かっけえな
:大丈夫そう? 結構技術いるみたいだけど
:ようこちゃんの笑顔が仮面をしていても伝わってきて俺は満足だ
武器を手に入れた俺はさっそく部屋から出て行こうとした。だが、なぜか扉が閉まっていた。罠だろうか?
:あ! 天井が迫ってきてる!
:まずい罠だ!
:ようこちゃん!
罠だったらしい。徐々に天井が俺目掛けて落ちてきている。でもそんなに慌てることか?
「せい」
俺は刀を抜き、一閃て天井を真っ二つにした。うん、良い切れ味だ。
:………
:………
:………
:……なんか言えよ
:心配して損した
何やら視聴者が物言いだそうだがとりあえず進んでいく。次は魔物を斬りながら進んでいく。たまに力加減間違えて壁を斬ってしまったが問題はなかった。
一つ問題があったとするならば返り血がうざいことだな。刀を使う前は首を折ったり内臓を潰したりで返り血を出さないようにしていたのだが刀ではそうはいかない。
斬ったら斬ったぶんだけ血が飛んでくる。避けるのは地味に疲れた。
そんなこんなでとうとうボス部屋に着いた。扉を開けてみると中には大きな黒いドラゴンが寝そべっている。
……やっとまともに戦えそうなのが出てきた。
:!?
:え、もしかして黒竜!?
:あのSランク認定されてる黒竜!?
:え、なにそれ
:5年前に突如として現れた伝説の竜で、国一つ消し飛ばした災害
:うわ、さすがにようこでもこれは無理だろ
:ようこ、今度こそ逃げろ!
なんかコメントが騒いでいるが、別に脅威とは思っていない。あの狼達よりは少しマシになったとしか俺は思っていないのだ。
「皆さん安心してください。全然威圧感のないただのトカゲじゃないですか」
俺の煽りにトカゲくんは黒い炎をノーアクションで放ってきた。俺はそれを正面からくらった。別にくらってもなんかダメージにもなんないし。
:ようこーーー!
:おいマジで大丈夫か?
:放送事故じゃね?
:あ、あ、あ
慌てているリスナー達を安心させるため俺は声を上げる。
「皆さん大丈夫です。少しぬるいくらいなので。今消しますね」
俺はそう言って抜刀し炎を吹き飛ばした。
:よかった、生きてた!
:あれくらってなんで生きてるの?
:正面からくらったよね今!
:ていうか一振りで炎払ってるんだが
炎を払った俺はトカゲくんを注視する。気付いたのだが、もしかしてこいつ———
「皆さん、このトカゲ、トカゲじゃないかもしれません」
:ちょっと何言ってんのか分からない
:いや何を当たり前のことを
:普通のトカゲはこんなに大きくないし炎も吐きません
そうかトカゲじゃなかったのか。ちっ、捕まえて飼育しようと割と本気で考えてたのに。よく見ると可愛いんだよこいつ。仕方ないなぁ、名残惜しいけど狩るか。
「ガァーーー!」
やばい、鳴き声可愛い。く、これを殺さなくてはいけないのか!?
トカゲくんは炎が効かないとわかると俺に物理攻撃を仕掛けてきた。俺はそれを片手で受け止める。
あ、結構冷たいんだな。
どうしよう、ガチで飼育したい。徹底的に痛め付けたらいいのかな?
とりあえず聞くだけ聞いてみよう。
「君、私のペットになりたいという気持ちはあります?」
「………ガァーーー!!!!」
どうやら駄目らしい。仕方ない。本当は嫌だけど、死ぬほど嫌だけど、圧倒的な力に任せるか。痛めつけるのは違う。そう、力の片鱗を見せたらいいだけなのだ。
俺はトカゲくんを気付けないように納刀し、右手でパンチをする。少しだけ力を込めたものだ。それを放ち、トカゲくんの目の前で寸止めする。
俺のパンチは中々の威力だったらしく、トカゲくんの体は傷付けずに風圧だけでダンジョンの壁を崩壊させた。
トカゲくんは目を丸くして驚いている。そしてなぜか震えていた。寒いのだろうか? でも凍えるトカゲくんも可愛い。
ガタガタと震えているトカゲくんに俺は優しく微笑む。そしてもう一度聞いた。
「私のペットになりませんか?」
トカゲくんは震える体をさらに震わせて、めちゃくちゃ首を縦に振った。よかったよかった、これで聞いてくれなかったら殺すことになってたから。
:え………
:…………
:なんで黒竜の一撃を片手で受け止めてなんでパンチの寸止めだけでダンジョンの壁が崩壊してるんだよ
:うわ……黒竜かわいそう
:ひぇ……
:とてつもない圧を感じる
「どうしたんですか皆さん?」
:ひぇ……
:なんでもございませんマジで
:こわいこわいこわい
なんかコメントがおかしなことを言っていた気がするがとりあえず無視しよう。まずはトカゲくんの名前を決めようではないか。
「じゃあ君の名前を決めましょう。そうですね……安直ですがネロなんてどうでしょう」
トカゲくんはブンブンと頷いた。気に入ってくれたのかな?
「さて、後は宝箱だけですね」
俺はネロがいた部屋の奥のにある宝箱の部屋に入った。ネロはスキルで小さくなり俺の肩に乗った。かわいい。
宝箱は先程開けたものとは違いとても豪華でとても大きな宝箱だ。
鍵は掛かってないらしく、普通に開けられる。一応罠が仕掛けられているかもしれないので確認したが、罠はないようだ。
確認も終えたのでさっそく開けてみる。
「これは……!」
中に入っていたのは、特大の魔石と輝く一つのスキルオーブだった。スキルオーブとは、先天的に得たスキルの他にスキルを習得する方法である。主にダンジョンで手に入るのだが、宝箱から出てくることは滅多にない。
売れば最低1億はする程の品だ。
そしてもう一つの魔石も売れば最低でも10億はする代物だ。正直なんでこんな所に置いてあるのかが不思議で仕方ない程だが、貰えるものはもらっておこう。
あ、視聴者にもちゃんと報告しないと。
「宝箱から出てきたのはこの2つ、特大の魔石とスキルオーブですね。どうやらこのスキルオーブでは黒炎というスキルを習得できるみたいです。おそらくネロがさっき使っていたやつですね」
正直俺には使い道がない。なぜなら俺はスキルを習得できないからだ。
いや、正確にいうとスキルがなくても魔法などが全て使える。ネロが先程吐いた炎くらい余裕で使うことができる。なんならさらに強化することが可能だ。
だからこのスキルを得たところで何の意味も価値もない。売ろうかな……。
まぁそこは後々考えることにして、まずは視聴者だな。さて、どんな反応してるかな?
:マジか……あれが使えるようになるの?
:5年前国を消失させたあの炎が使える!?
:やばいな、もう核兵器所有してるようなもんじゃん
:黒竜を無傷で屈服させた奴がそれを所持しても意味がない件について
なんで俺のリスナーはこんな雑魚スキルが国を消失させる程強力なんて勘違いしてるんだ?
自分で受けてみたらわかるけどぬるま湯もびっくりするぐらいぬるかったからな?
まぁ考えても仕方ないか。俺は考えることをやめた。
さて、そろそろいい時間だし、終わるか。
「それでは、以上で終わります。ご視聴、ありがとうございました」
俺は深く礼をして、配信を終わらせた。そして後に知ることになる。
この配信が大バズりし、登録者が急激に増え続けることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます