TS転生した妖狐は正体隠してダンチューバーを始める

呂色黒羽

一章

第1話

ダンジョン、それが現れたのは10年ほど前。世界がひっくり返るような地震が唐突に起き、世界各地にダンジョンが現れた。

また、ダンジョンが現れて数分後、世界に激震が走った。

理由は特別な力が使えるようになったからである。身体能力を上げるものや魔法を使えるようになるものなど様々な力が人類に付与されていた。

人々はその力をスキルと名付けた。安直だが、これほどしっくりくる呼び方はないだろう。

スキルを手に入れた人類は、さっそくダンジョンに突入した。ダンジョンには魔物や罠が多くあり、とても危険だった。

だがその危険も安く思えるほどの魅力がダンジョンにはあった。

それは魔石を始めとするダンジョンから採れる資源だ。

魔物の素材や魔石は、人間に多大な恩恵を与えた。魔石や素材を使って作った魔道具は、人々の暮らしを豊かにし、夢を持たせた。

そして必然的にダンジョンは盛り上がっていった。国もダンジョンの素材を獲得するべく探索者という仕事を作った。魔石などの素材を売ってもらい国の力を上げる為だ。

人はダンジョンに入ることを躊躇わなくなっていった。

これほど盛り上がっているダンジョンだ。当然動画配信を始めとしたインターネット業界は黙っていない。

今この世はダンジョン配信者、通称ダンチューバーがブームになっている。ダンジョンを攻略する動画をインターネットに発信する仕事だ。

数々の人がダンチューバーを目指してゆく中、1人の少女もまた、ダンチューバーを始めるのだった。



俺の名前は狐坂こさかようこ。女だ。なぜ一人称が俺なのかって?

それは前世の記憶を持っているからである。俺の前世はどこにでもいる高校生男子だった。

ある日俺は学校の帰りにいつも通っている道の階段で躓いて落ちて死んだ。自分のことながらとても滑稽な死に方だった。

そして気付いたらなんかダンジョンがある世界に転生していたのだ。

それもただの転生ではない。女の子になっていた。それならまだ少しはわからないでもない。でも人間じゃなくて妖狐になるのはどうかと思う。

起きたら山の中、近くの池の水を覗いて見ると、そこには狐色の髪と蒼い瞳に、頭から狐の耳を、お尻からは九本の狐の尻尾を生やした身長145cmくらいの美少女がいた。

そしてそれが俺だった。その衝撃は今でも忘れない。パニクった。パニクって山を破壊した。

どうやらこの体はすごく強いらしいことがわかった。今は破壊した山を離れ、自分で建てた屋敷に住んでいる。ちゃんと土地は買った。金がなかったのでアルバイトはしたが。

人間に会う時は基本耳と尻尾は隠して髪と目も黒にしている。

普通にみんな耳も尻尾もなかった。あるのは俺だけだった。それに立て続けに驚いたのはなんとこの体、食料を必要としないのである。

何日も飲まず食わずで普通に生きれた。またいくら食べても太らないし排泄もしない親切設計。これがなければ俺は死んでいただろう。

今は生活の基盤も安定している。金はないが。なぜかって?

誰も俺を雇ってくれないんだ。それもそのはず。今の俺はロリと言っても過言ではないくらいの背をしている。

普通の精神をした人間ならば幼女を雇うなんてしない。アルバイトで雇ってくれた人は頭がおかしかった。

別にガスも水も使わないからいいけどそろそろ金を手に入れておきたい。何かあった後では遅いのだ。

でも誰も雇ってくれない。挫折しかけた俺が見つけたのは、一つの広告だった。仕事を名指して渋谷の道を歩いていてそれが目に入った。


『君もダンチューバーになろう!』


ダンチューバーとはダンジョンの攻略を配信する配信者の事である。年齢の規制はなく、誰でも始められて、今の世はダンジョン配信時代と言っても過言ではない程の盛り上がりを見せている。

この力があればやれるかもしれない。そう思った俺は急いでカメラとパソコンを製作した。

買う金なんてないのだ。バイトもやめたし。

カメラとパソコンの制作は上手くいき、今出回っている機種を凌駕する物ができた。だが俺は気付いた。気付いてしまった。

俺が作ったカメラ、ライブも動画投稿も全てできるな、と。

この世界は魔石によって産業革命を起こしていた。カメラ一つあれば配信なんて普通にできるのだ。そして俺はそれを凌駕する品を作ってしまった。

もうパソコンの存在意義がなくなったも同然だ。一応銀行の口座を作ったりするのに使ったし、動画も見たいので捨てはしないが。

そしてカメラなどを作り終えた俺は今ダンジョンの前にいる。近所にダンジョンがあったのだ。俺の屋敷は山の奥にあるので、こんなところにもあったのかと驚いた。

近くなので配信がしやすくて非常にありがたい。

さっそくカメラを起動して配信を始める。

今の俺の姿は巫女服に狐の仮面を被ったような感じだ。もちろん耳と尻尾は隠している。髪は黒色でポニーテール。

なんでこんな格好なのかというと、インパクトが欲しかったというのと、服を買う金がなくて自作して一番いい装備が巫女服だったからだ。

一応武器も作ってある。心配はない。

初の配信なのでやっぱり緊張する。一度深呼吸して、配信を開始する。


「みなさん初めまして。今日から配信を開始する狐坂ようこと申すものです。よろしくお願いします」


名前は本名を言うことにした。他の配信者を見たが全員本名ぽかったからだ。まぁどうせ自分で考えて付けた名前だから流出しても大丈夫だ。


「今回はこちらのダンジョンを攻略していきます。では入りましょう」


俺はダンジョンの扉を開け中に入った。どうやら迷宮のダンジョンのようだ。地下に道が延びている。

ダンジョンを確認してから配信画面を確認してみると何人か見てくれていた。いくつかコメントがある。


:初めまして

:小さいな

:まだ未成年か

:声可愛い

:なんで仮面?

:どこのダンジョンですか?

:好きな食べ物を教えてください


何個か質問がある。特に隠すこともないので答えることにした。


「申し訳ありませんが、ダンジョンの名前はわかりません。実は今回が初めてのダンジョン攻略なので。好きな食べ物は鶏肉です」


:初心者か

:鶏肉美味しいよな

:ようこちゃんを俺は食べたい

:幼女巫女ハァハァ

:変態がおる!


コメントでは多種多様なものが書かれていて面白い。配信は初めてだけど楽しいもんだな。

そう思いながら進んでいると一匹の魔物が現れた。雷を纏った巨大な狼だ。へぇ、こんなのもいるんだな。


:やべぇ、サンダーウルフだ!

:え? あいつAランクの魔物じゃなかったか!?

:なんで普通に湧いてるんだよ!

:ようこちゃん逃げろ!


ん? Aランク?

魔物にはランクがある。上からS、A、B、C、D、Eの順だ。ランクが高ければ高いほど強くなり、それぞれ国家壊滅、都市崩壊、町崩壊、家屋崩壊、一般人虐殺、ザコとなっている。

探索者のランクはAまでであり、ランクはそのランクの魔物を安定して狩れるかで付けられる。

そして今目の前にいるのは都市を崩壊させるだけの力を持ったAランクの魔物。探索者の最上位であるAランクでないと相手にすらならない。誰が見ても絶体絶命の状態だろう。

だが俺に恐怖はなかった。目の前にいる魔物に少しの脅威も感じない。なんなら少し可愛いとさえ思えて………いやないな。あんな凶悪な見た目で可愛いなんて思えない。

んー、これ絶対Aランクじゃないだろ。だって俺全く危険を感じてないんだぞ? 絶対違うな。Aランクの魔物とやらがこんなもんじゃないだろ。俺のラノベ知識がそう言っている。

まぁ、狩るか。

俺はゆっくりとサンダーウルフに近付いていく。俺の行動を見たリスナーは必死に食い止めてくる。


:あ、ようこちゃん近付いていってる!

:駄目だ、離れろ!

:血迷ったか!?


失礼な。俺は血迷ってないし正常だ。ただまぁ、リスナーを不安にさせないためにも狼には死んでもらおう。


「ぐろぁ!」


狼が近付いてきた俺を爪で切り裂くために腕を振るう。俺はそれを真正面から受け止めやる。


「!?」


困惑する狼の首ら辺に手を伸ばし、触れる。身に纏う雷が迸るが俺には効かない。


「さよならです」


何も言わないのは少し失礼だからな。短く別れを告げ、首をへし折ってやる。倒れ込む狼。それを見下す巫女の幼女。さぞかし面白い光景だろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る