最終話 新たなる旅立ち
「あ、あれみて!なにかおいかけてきてるよ!」
「追手じゃねぇか、しつこいやつらだな」
ちょうど追手の姿が見え始めたタイミングで、廻斗は高速道路に乗る。
だがそれはスピードを上げて突破するためではない、横から敵が来るのを防ぐためである。
「前と後ろ、それぞれ任せて良いか?」
「じゃあ俺が前を見る。後ろは柊彩、テメェに任せた」
「はいよ」
廻斗が一度車を止め、二人が外に出る。
先ほど外壁を突破した時と同じく、車の上に乗って戦うためである。
しかし、いざそうやって後ろを見ると、想定の10倍近い追手が来ているのが見えた。
「あれ、さすがに来すぎじゃないかなー」
「自暴自棄。全ての計画が破綻して自分たちが終わるからと、私たちを道連れにしようとしている」
しかもただ警察車両やらなんやらが大量に追いかけてきているだけじゃない。
「装甲車まで引っ張り出してきてるわ、頭おかしくなったのかしら」
もはやそれは警察というよりは軍隊。
柊彩たちの車一台を捕まえるために、あり得ないほどの戦力を動かしている。
このままでは平気でカーチェイスをしながら色々な兵器を撃ち込んでくるはず、そう考えると簡単には逃げられなさそうだった。
「あー、そういや、俺このせいで自分で立ち上げた店を捨てることになったんだよな」
その時だった。
どこか棒読みながら突然バッドエンドはそんなことを言い出した。
柊彩は意味がわからなかったが、何かに気づいたソフィもニヤリと笑ってそれに続く。
「アタシもモデルを辞めたわよ、誰かさんのせいで」
「僕も会社辞めることになるねー、退職金は出ないや」
「私も聖教会には戻れない」
「俺なんて勇者候補から犯罪者に転落だ」
「わたしもがっこうやめた!」
みんな本気ではない、むしろどこか笑いを堪えながらそう言った。
「えっと、あの、本当にすみません。私のせいでみなさんの人生を」
「謝らなくて良いわよ、日聖ちゃんは」
てっきり自分が責められていると思った日聖は謝ろうとしたが、それをソフィが制する。
柊彩の顔を見ながら。
「責任とって欲しいよねー、でもそういうのってやっぱりリーダーの役目だよねー」
「おい、お前らまさか……」
「つーわけで責任取ってくれな!そんじゃ!」
バッドエンドが勢いよく車内に乗り込む、と同時にリムジンは超加速で行ってしまった。
柊彩だけをその場に残して。
「おい、待てェッ!!」
そんな叫びも虚しく、廻斗たちには届かない。
「はぁ、まったく。最高の仲間を持ったもんだ」
そう言ってため息をつく柊彩の顔は笑っていた。
そしてゆっくりと振り返り、ずっとつけていた両手の手袋をその辺に放り投げる。
すると少ししてとんでもない数の追手が姿を現した。
「じゃあ果たしてやるか、リーダーとしての、勇者としての責任ってやつ。俺に任せろってんだ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「良いんですか⁉︎勇者様を置いてきてますよ!」
「むしろあの方がいい、柊彩はまだ俺たちに多少負い目を感じているはずだ」
「こうやって無理やり責任取らせりゃ、アイツもすっきりするはずだ」
「いや、そうじゃなくて……さっきの見たはずです!あんな数を相手に」
「それこそもっと問題ないわ。アイツは勇者よ」
「日聖ちゃん、知ってる?おにいちゃんはまだね、いっかいも力を使ってないの!」
「多分今なら使う。柊彩が自分のことを『勇者』と言ったのだから」
そう言われて日聖は初めて気がついた。
今まで柊彩は自分のことを一度も『勇者』とは言わなかった。
柊彩だけではない、ここにいるみんなもそう、柊彩を『勇者様』と呼んでいたのは日聖だけなのだ。
「アイツ、昔っから言ってたんだ。『平和な時代に勇者はいらない、魔王を倒したら勇者は必要ない』ってな」
「だから加護の力も人前では絶対に使わないようにしてたんだと思うわ。それを誰かの前で使ったら、勇者がこの時代に必要になったってことだから」
「でも柊彩くんは自分を勇者と言った、ということはー」
突然、背後から眩い光が放たれる。
窓を開けて後ろを見ると、そこには二つの巨大な金色の翼があった。
「奴らは平和を乱す存在、柊彩はそう認識したんだ。ならば容赦なく使う、柊彩が持つ『加護』の特異体質をな」
柊彩がその力を本気で使った時、加護の力は金色の翼となって具現化する。
それは完全無欠の護りの力。
その翼はありとあらゆる攻撃を防ぎ、柊彩がその気になればそのまま全てを反射する。
2枚の金色の翼が一際強い輝きを放ち、大きく動く。
その直後、背後で巨大な爆発が起こった。
「本当に大丈夫なんですか?」
「うん、おにいちゃんは最強だよ!」
「アイツは魔王ですら傷一つつけられなかった、全戦全勝の勇者よ」
「ああ、だから心配なんていらねーよ」
その声は上から響いた。
かと思うと突然車が宙に浮く。
「もう面倒だ、このまま飛んで逃げるぞ!」
「勇者様⁉︎もう終わったんですか?」
「ちょっと追っ払っただけだ。どうせ全部の悪事もバレてこれから国際的に追求されるんだからな、俺が手を下すまでもねーよ」
柊彩は車を持って翼をはためかせ、そのまま空を飛ぶ。
「さあ、港とか船とかなしだ!このまま海外行くぞ!」
「体力持つの?」
「何のためにずっと配信者やってきたと思ってんだ。俺にはブランクなんてものはねーよ、海一つ超えるぐらい余裕だ!それよりどこ行くか決めよーぜ!」
柊彩に突然言われ、紗凪たちは考え込む。
だが日聖は笑ってすぐに答えた。
「ならあそこに行きましょう!星が見える丘に!」
「なるほどな、任せろ。しっかり捕まっとけよ!」
柊彩はさらに上空へと向かっていく。
目指すは星の見える丘、いつの日かの約束を果たすために。
これから彼らが行先に何が待ち受けているのか、それは誰にもわからない。
きっとたくさんの困難が待ち受けているのだろう。
それがわかっていてなお、誰一人として後悔はなかった。
最も信頼できる仲間たちと共にいられるのだから。
「楽しくなってきたな!お前ら、テンション上げてくぞ!」
「おおー!」
勇者一行と聖女による新たな旅はここから始まるのであった。
─────────────────────
あと1話、明日にエピローグを投稿して本作品は完結といたします。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます