第47話 超人気配信者(元勇者)、配信切り忘れで身バレする
この国を出るのに船を使うのか、飛行機を使うのか。
その辺りはともかくとして、とりあえず外壁を目指さないことには始まらない。
「みて、ヘリコプターだよ」
「なにがなんでも俺たちを逃したくないみたいだな、ここまで騒ぎが広がればもう終わりだってのにな」
確認はしていないが、配信が続いている以上この騒ぎは世界中に広まっている。
もしここで柊彩たちを捕まえたとしても、既にこの国は目をつけられている、ハッキリ言って逃げ場はない。
それでもこれだけの力を使って捕まえようとするのは、もはやある種の意地のようなものだろう。
「これからも走って逃げるんですか?私は背負ってもらっていますが、皆さんの体力が持たないのでは」
「もちろん、ここからは車を使う」
「車?そんなのどこにも見当たらないよー」
「いいえ、来たわ。ほら」
紗凪が指差した方向からものすごい速度でリムジンが来たかと思うと、それは柊彩たちの眼下で急停止した。
「あれに乗りゃ良いんだな?」
真っ先にバッドエンドがビルから飛び降り、残りのメンバーもそれに続く。
「完璧なタイミング、さすがね」
そのリムジンの運転手は廻斗だった。
「早く乗れ、バッドエンドと柊彩はボンネットだ」
「イジメか?」
「外壁の突破要因だ、頼むぞ」
「なるほどな、任せな!」
柊彩とバッドエンドはボンネットではなく車の上に、その他全員が車内に乗り込むと、リムジンは急発進した。
そして猛烈な勢いで外壁へと向かっていく。
「検問と外壁、それぞれ頼むぞ」
外壁が近づくにつれて柊彩は剣を構え、バッドエンドは拳を握りしめる。
そしてスピードを一切落とさないまま突っ込んだかと思うと、柊彩の剣がバリケードを全て斬り裂き、バッドエンドの拳が外壁を粉々に砕いた。
「よし、突破したわよ!」
外壁を起動した分、向こうは追手を十分に送り込めなくなっている。
そこで廻斗は一度リムジンを止め、柊彩とバッドエンドを車内に入れてから再び進み始めた。
「これで一安心ね」
「完全にってわけじゃなさそうだけどねー」
「このあとはどうするつもりだ?」
「海路を想定している、既に船はチャーター済み」
「準備いいじゃねぇか、さすが紗凪だな」
うまくいけばあとはこのまま港に出るだけ。
柊彩たちは一旦高級な車内の椅子に背中を預け、休息を取る。
そんな中、日聖だけが背筋を伸ばし、全員の顔を見渡しながら言った。
「皆さん、私のためにこんなにも力を貸していただき、改めて本当にありがとうございます」
座ったままではあるが、日聖は頭を深く下げる。
「何回も言うけど気にしないで。私だってこんな国、もうゴメンだもの」
「そうそう、結局この3年で一番楽しかったのってみんなでいた時だしねー」
「言ったろ?俺の力はこんな時のために、嬢ちゃんを守るような時のためにあるってな」
柊彩はもちろん、柊彩の仲間とはまだ知り合って間もない関係のはず。
それでもみんな嫌な顔ひとつしていない。
この国そのものを敵に回すことになったとしても、柊彩や日聖と共に逃げる道を選んでくれた。
そのことが嬉しすぎて、日聖は思わず泣きそうになる。
「ひじりちゃん、これからもよろしくね!」
奏音は日聖の太ももに手を乗せ、見上げる形でそう言った。
「あ、かわいい……」
「おい日聖!しっかりしろ!」
「さっきから何回も『お願い』を使ったせいで、無意識に出てしまうのね」
「えへへ、紗凪ちゃん、ぎゅーってして!」
「いいわよ、おいで」
日聖を一撃でノックアウトした奏音は、今度は紗凪の膝の上に乗って抱きついている。
その姿は小悪魔なんて言葉では言い表せないほどに恐ろしかった。
しかしそれも仕方がないことである、この短時間で愛され体質を使いすぎたせいで今は軽い暴走状態にあるのだ。
「そういや紗凪のヤツ、昔っから奏音にすごく甘いよな、なんでだ?」
「自分と柊彩の娘のように思ってるのよ、擬似家族体験ね」
「ヤベェだろ、煩悩まみれじゃねぇか。よくシスターになれたな、アイツ」
「まあ悪気はないからほっといていいでしょ、奏音も紗凪に甘えるの好きみたいだし」
国に追われる身になったというのに、柊彩たちはずっと笑っている。
日聖はそれを見ていると、この先なにがあってもなんとかなる気がしてきた。
「廻斗、さっきの話だけどよ。俺たちにSランク迷宮を攻略させたのも、アイツらの計画を阻止するためか?」
「そうだ、それと奴らが送り込んだ部隊と鉢合わせないようにする目的もあった」
「なるほどな、だから帰ったら家が荒らされてたわけか」
「ついでに言うと自作自演で操った魔物は俺に倒させて、俺を第二の勇者にするつもりだったらしい」
「つまりアイツらの計画は俺たちのせいで完全に破綻、後に残ったのは様々な悪事の証拠だけってわけか。ざまーみやがれ」
柊彩は心底嬉しそうに笑いながら言った。
「ところでこれから大丈夫なのでしょうか。お金などの問題がたくさんあるのではないですか?」
「ふふっ、心配いらないわ、アタシたちは世界中を旅してきたのよ。ずっとたった7人でね」
「それに日聖ちゃんの前にいるのは誰だと思ってるのー?」
日聖は前にいる柊彩の顔を見る。
柊彩は不敵に笑いながらこう答えた。
「俺はこれでも世界を救った勇者なんだぜ?世界中に一生かけても返してもらいきれねー恩があるんだ、どうとでもなるはずだ」
そう、彼らは勇者なのだ。
どこへだって行った事がある、どこでだって生きていける。
「わたしたちならだいじょうぶ!」
「奏音の言うとおりだ。日聖も変な心配なんかしないで、こっからの旅を楽しもーぜ」
「……はい!」
「それより柊彩、一応勇者のことは隠していたんじゃないのか?まだ配信は続いてあると思うが」
「……え?あっ!」
柊彩はすっかり記憶から抜け落ちていた配信画面を確認する。
〈やっぱり勇者かよww〉
〈まあさすがに最近のことで勘付いてたやつも多いけど〉
〈本人からのカミングアウト来た!〉
〈もしかしてこれ全員勇者パーティ?〉
〈ヒロって幸村柊彩から来てるのか、勇者の名前で草〉
今の会話もバッチリ聞かれており、遂に配信を通して自分が勇者であることが知れ渡ってしまった。
またみるみるうちにスマホに通知が溜まっていくのだが、今回ばかりは自白のため言い訳をすることもできない。
「はぁ、もういいや。そういうことなので、今から俺たち勇者一行は日本から逃げまーす。もう配信できるかはわからないけど、今まで見てくれてありがとな!」
〈すごい楽しそう〉
〈今まで楽しかった!〉
〈また勇者の配信待ってる!〉
最後にカメラに向けて車内の全員で手を振る。
結局勇者であることはバレてしまったが、こうして国を逃げることになった以上あまり関係ない。
それにこの国の悪事をバラすこともできた、もう配信を続ける意味もあまりない。
柊彩は少しだけこれまでの日々に未練を感じつつも、配信終了ボタンに手を伸ばす。
「それじゃあ配信を終わります、みんな見てくれてありがとう、ヒロでした!」
こうして超人気配信者ヒロは身バレして勇者であることが判明し、再び大バズりしたのであった。
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