第46話 逃走劇
「こっちに真っ直ぐ逃げるのが一番楽」
そう言って紗凪が指差す先には壁があった。
「なるほどな。じゃあこのバッドエンド様が道を切り開くとするぜ!」
バッドエンドはその拳で壁に大穴を開ける。
ここに来るまでに紗凪たちは既に逃亡プランを立てていた、それは文字通り最短経路で逃走を図るというもの。
「あと壁二つ先に敵がいる、それと後ろからも来てるわ」
「後ろは僕に任せてー」
紫安は背後からの銃撃は全て受け止めつつ、ポケットから取り出した瓶を投げつける。
「気をつけてねー、それ超強力な催眠ガスだから」
「撃たれてる最中に投げんじゃねーよ、割れてたらどーすんだ!」
「その時は走って逃げるしかないよねー」
「オラァッ!庭に出たぞ、全員来い!」
その頃戦闘では広い庭に出たバッドエンドが、近くに生えていた木を武器に待ち構えていた警備隊を薙ぎ倒していた。
「なあ廻斗、さっきの続きを聞かせてくれよ」
「わかった、全てを話そう」
前と後ろで激しい戦いが行われている中、廻斗は配信でこれまでの真実を話し始めた。
ここまで起きた数々の事件、その狙いはたった一つ。
日本を魔王侵攻時と同じく世界の中心にすること。
女神の加護を受けた柊彩を始め、勇者一行には5人の日本人と1人のハーフがいる。
そのため当時は日本を中心に魔王軍への反撃を始めよう、という風潮が強かった。
聖教会はその勢いに乗じて日本が作り上げたものであったが、当時は勇者という象徴があったため、世界各地から信仰を集めていた。
だが魔王討伐後、勇者を中心としていた世界のバランスも崩れ、日本一強のパワーバランスも崩壊しつつあった。
それは世界が平和になったが故のことなのだが、日本と聖教会にとっては好ましくなかった。
そこで彼らは一つの計画を立てた。
迷宮にいる魔物を操り再び人々の脅威を生み出すことで、過去と同じ状況を作り出す。
そしてそれを倒す存在、第二の勇者を再び日本から排出することで日本と聖協会の地位を高めようとしたのだ。
「先日の聖誕祭における魔物の出現。あれは事故ではなく、魔物のコントロール実験によるものだ」
〈さすがに嘘だろ?〉
〈実験で人殺したのかよ……〉
〈そんなの噂すら聞いたことないけどな〉
「当然それを知る人はほとんどいない。なにせカモフラージュのためにわかりやすい事件を各地で起こし、注目をそちらに向けていたのだからな」
「私が命を狙われていたのも関係はあるのでしょうか」
「ある。貴女が気づいた聖教会の怪しい金の動きは、実験用の研究費。彼らは聖教会の信者を利用して金を集め、魔物を操る実験を行なっていた」
「では信徒からお金を騙し取るようにしていたのも……」
「そう、全てはこの計画のため。もし計画まで気づかれると水の泡になる、だから彼らはそれより先に貴女を殺そうとしていた」
「すげーな、そこまでわかったのか」
「俺たちが全容を暴いたのは聖誕祭の前日だ」
「少し遅かった。本当ならこうなる前に、私たちだけで終わらせるつもりだった」
「なるほどな。ま、良いじゃねーか。俺も結局予定通りとはいかなかったが、今が一番楽しそーだしな。なあ、バッドエンド!」
「おうよ!」
バッドエンドの最後の一撃が敵を蹴散らす。
もう彼らの道を邪魔する者はいなかった。
「まだまだ道は長いわ、とりあえず突き進むわよ!」
ひたすらに壁を壊し、一行は遂に聖教会の外に出る。
だがそこは既に警察に包囲されていた。
「奏音、行くぞ!」
「うん!」
しかしそんなことはお構いなしに、バッドエンドは奏音を背負って警察に突っ込んでいく。
そして目の前にいる警官を全て蹴散らし、一台の車両を占領した。
「お願い、“わたしたちをみのがして”!」
車両についたマイクを通して響く奏音のお願い。
それを聞いてしまった警官は朦朧としながら柊彩たちが通れる道を開けた。
「俺は少しやることがある、先に行ってろ」
「変なことするつもりじゃねーよな?」
「ああ、全員で逃げるために必要なことだ」
「わかった、任せたぞ!」
ここで一旦廻斗だけは別行動を取り、柊彩たちは奏音が作った道を行く。
外まで来ればもう楽だった。
全員でビルの屋上に飛び乗り、そのまま屋根伝いに逃げていけばほとんど追っ手は来ない。
「あ、おい!あれ見ろ!」
だが向こうも本気だった。
普段は起動しない要塞都市の外壁を全て起動し、柊彩たちを外に出さないようにする。
「みんな見てるー?この向こうの本気度。そろそろこの話がマジってわかってきた人もいるだろ?」
「アンタ余裕ね」
「俺は配信者だぜ?それにこんな話題集める配信、やらなきゃ損だろ。な、日聖!」
「えっ?あ、でもはい!そう思います!」
「嬢ちゃん、乗らなくて良いぞ」
「柊彩くんと一緒にいて、考え方も似てきたのかもねー」
「この先も逃走経路は完成している、ついてきて」
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