第16話 重大発表
翌日。
12:00から始まるとされている柊彩の重大発表を前にして、大勢の人が配信はまだかと待機していた。
ついに勇者であることを明かすのか、だとか逆にネタバレをするのではないか、などとSNS上でも様々な憶測が飛び交っている。
そんな中、柊彩の部屋には4人の男女が集まっていた。
「配信のだいたいの流れはわかりましたか?」
「一応は。詰まったら助けてくれるんだろ?」
「できる範囲でサポートします」
「はやくはじまらないかなーっ」
直前まで念入りに打ち合わせを行う日聖と柊彩、その横で奏音は配信が始まるのを今か今かと待ち侘びている。
「落ち着け奏音、俺らは柊彩の紹介の後に入るんだぞ」
そしてバッドエンドも来ていた。
事務所立ち上げに必要な資金を融通してほしい、つまるところスポンサーになってくれという無茶なお願いをしたところ、二つ返事でOKしてくれた。
さらに話題性集めと広告も兼ねて、店はスタッフに任せて配信に出演予定である。
「よし、大丈夫。とりあえず事務所作ることを発表して、そのまま奏音のデビューに移れば良いんだな」
「はい、それでバッチリです!」
「りょーかい。じゃ、行くか!」
12時ぴったりになった瞬間、柊彩の配信が始まる。
今回は『重大発表』と銘打って事前に告知していたこともあり、恐ろしいことに開始と同時に100万人を超えるリスナーがついている。
〈勇者COか?〉
〈今度は何するつもりなんだ〉
「ヒロです!今日は告知にこんなに集まってくれてありがとう!最初に言っておくと今日はコメントは見れないです、ごめん!」
スムーズに発表を行うためにも今回に限りコメントは無視する、というよりもチャット欄が爆速すぎて目で追うことすらできなかった。
「それでは早速本題に入ります!今回の重大発表なんだけど、この度、俺は新たに配信者のための事務所を設立します!」
〈事務所⁉︎〉
〈またなんかキタwww〉
〈これは予想外すぎる〉
「ありがたいことに前々から事務所のお誘いの話はあったのですが、どこも魅力的で決めかねるのでいっそのこと自分で作ることにしました!」
〈意味わからんw〉
〈やっぱコイツ頭おかしいわ〉
事務所の設立という誰も予想しなかった行動に出たことにより、元々速かったチャット欄の進みがさらに加速する。
しかしまだ足りない。
情報量の多さで話題を全て塗り替える、このために間髪おかずに話を進める。
「また、それに伴いスポンサーがつくことになりました!」
柊彩がそう言うと、バッドエンドが横から入ってくる。
「今回の事務所立ち上げにはドゥースシャルルのオーナー、羽戸さんに協力していただいてます!」
「久しぶりです!前回の配信で興味を持ってくれた方、実際に商品を買ってくれた方、ありがとうございます!」
〈案件からスポンサーになるの早すぎだろ〉
〈もう意味わからん〉
〈やっぱ儲かってるんだな〉
〈ヒロの行動力はなんなんだよ〉
「今話にあったようにこの度はヒロのチャンネル、そして事務所のスポンサーとなりました。この配信をご覧の方、今まで以上にウチの商品をお願いします!ちなみに今着ているこの服も新商品です!」
これだけの人が集まった機会に宣伝を欠かさないあたり、さすがの商売魂といったところだろうか。
「気になった方は概要欄のurlからどうぞ!それと個人的にはウチの服を紹介してくれるモデルとかが事務所に来てくれたらなって思ってます!それではみなさん、これからよろしくお願いします!」
一部アドリブを交えつつもスムーズに宣伝と紹介、さらには配信者の募集呼びかけも行い、バッドエンドはカメラの外に出る。
これだけでも十分な配信なのだが、実際にはここまでが前座。
いよいよ本番である。
「既にビックリした人も多いかもしれませんが、今日はもう一つ、さらに重大発表があります!」
〈まだあんの⁉︎〉
〈もうお腹いっぱいだよ〉
「ウチの事務所から記念すべき一人目の配信者がデビューします!」
〈もういんの?〉
〈いつの間に募集してたんだ〉
〈展開早すぎて草〉
「それではどうぞ!」
そういって柊彩は一度はける。
それから少し時間を開け、リスナーの期待感を煽ってから奏音が登場した。
「はじめまして、かにゃです!」
自らを『かにゃ』と名乗り笑顔を浮かべるその少女が画面に映し出された瞬間、配信のボルテージは最高潮に達した。
〈マジか!!!!1〉
〈天使降臨〉
〈キター♪───O(≧∇≦)O────♪〉
〈ガチで重大発表で草〉
「すごくきんちょうしてるんですけど、よろしくおねがいします!」
画面越しとはいえ、その可愛さは驚異的。
少し映り込んだだけで多くの人を魅了したというのに、そんな子がカメラの正面でデカデカと映り、少し遠慮がちな笑顔を浮かべている。
その瞬間、大量の人が虜になった。
〈今日からパパになります〉
〈私の娘に手を出さないでください〉
チャット欄はさらに加速し、やれ娘だやれ妹だ、奏音の取り合いのようなものが始まってる。
「あ、えーっと、えーっと」
奏音は予想していなかった流れに困惑し、ワタワタと慌てながら顔を上げる。
すると柊彩は笑顔で親指を立てていた。
それを見て奏音は思い出した。
配信者になるなら最初のインパクトがすごく大事だ、柊彩にそう言われたことを。
「そ、そうだ!みてください!」
そう言ってリスナーの注目を集める。
あどけない顔、守ってあげたくなる雰囲気、脳に響くような柔らかい声、奏音の可愛さを構成する要素を挙げればきりがない。
そして何よりも奏音は生まれつき理解しているのだ、どうすれば自分が一番可愛く見えるのか。
それらが合わさった時、あらゆる人間を魅了する愛され体質が完成する。
「やばっ!」
いち早く危機を察したバッドエンドは日聖の目を手で覆い、自分も顔を背けた。
「えへへー」
その直後、奏音は恥ずかしさでわずかに頬を赤く染めつつも、カメラに向かって満面の笑みを浮かべた。
両の人差し指を頬に当て、小首を傾げ、少しだけ舌を出しながら。
悪気があったわけではない、純粋に可愛さをアピールしようとしただけである。
ただあまりにも強烈なそれは凶器となってリスナーに襲いかかり、全世界で数百万人を一斉に尊死させるという歴史に残る大事件を引き起こした。
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