第8話 新たなメッセージ
翌朝、柊彩が目を覚ますと日聖はパソコンの前に座っていた。
「……おはよ、朝から何してんの?」
「たくさん来てるメッセージの内容を確認してるんですよ」
「しばらくコラボは懲り懲りなんだけど」
「私もそうですが、何かヒントが得られるかもと思って」
昨日ご飯を終えてからもこの先のプランついて考えてみたが、結局のところいい案は浮かばなかった。
そこで日聖は嫌になるほど来たコラボの誘いの中に、何か今後の方向性の手がかりはないかと探し始めたのだ。
ただ今の所収穫はないようで、先ほどからカチカチとメッセージを送る音だけが部屋に響いている。
まだ普段起きている時間ではない柊彩は、半分寝ながらその様子を見ていた。
すると日聖の動きが止まった。
「何かいいのあったか?」
「いえ……ただ、不思議なメッセージがあったので」
「もしかしてまた誰かが助けを求めてんのか?」
柊彩は冗談めかして言いながら、ノソノソと画面の前に向かう。
すると件名には『授業参観のお誘い』とあった、確かに日聖の言うとおり不思議なメッセージだ。
当然ではあるが柊彩には子どもはいない、というよりも親族すら一人もいない。
イタズラか間違いかと思ったが、送り主の名前には一つだけ心当たりがあった。
『美浦慎二』
その名前自体は確かに聞いたことあるかな、といった程度だが、柊彩の知り合いに一人、同じ名字を持つ者がいる。
そしてその年齢を考えると──
「ちょっと配信とは関係ないけどいいか?」
「授業参観に行くんですか?」
「そう決まったわけじゃないけど、話だけでも聞きたいんだ」
柊彩がそう言うのも仕方ないだろう。
だって、一文に『あの子が会いたいと泣いてるのです』と書いてあるのだから。
「わかりました。これは勇者様のプライベートな話だと思うので、やり取りはお任せします」
「ありがとな」
こうして数回のやり取りをしたあと、3日後の昼にとあるカフェで待ち合わせの約束を取り付けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やっぱり、私まで来たのは良くなかったのでは……」
「日聖の顔知ってるやつなんてほとんどいないんだ、マスクしてりゃ平気だろ。俺ですら気づかれないんだし」
「確かに……案外そんなものなのでしょうか」
「ま、俺の場合ほとんど人と関わってこなかったからな」
なぜそこを誇らしげに言うのか、と日聖は思わず突っ込みそうになる。
二人は今、電車を乗り継いで待ち合わせのカフェがある都市部に来ていた。
家を出る前、日聖は『自分が外に出るのは見つかる可能性があるから危険だ』と外出を拒否していた。
しかし『ずっと家にいると気分が滅入る、それにちょっとくらい大丈夫』と柊彩は譲らなかった。
結局その押しの強さに負け、こうしてついていくことになったのだ。
さすがに少し考えが楽観的すぎるしここにいるのは危険ではないか、とも思った日聖であったが、それでもどこか安心感を覚えるのは柊彩が勇者であるからだろうか。
「ん、どうかしたか?」
「い、いえ!なんでもないです!」
じっと横顔を見つめていたからか、柊彩に不審がられて慌てて目を逸らす。
ふと周りを見渡すと、平日の昼間だというのに人通りも多く、柊彩の住んでいるアパートの周辺とは大違いだった。
紗凪が一番安全なのは柊彩の隣と言っていたが、それは人に見つかる可能性が少ないのも理由にあったのかもしれない。
だとするとやはりここに来たのは間違いになってしまうのだが。
「お、ここらしいぞ」
そんなことを考えていると指定のカフェに着いたらしい。
柊彩は改めてスマホの住所を確認して中に入り、店内を見渡す。
すると一人の男性が立ち上がり、柊彩に向かって頭を下げた。
かと思うと、その横から小さな影が動き出し──
「おにいちゃん!」
「ごふっ!」
柊彩の鳩尾に勢いよく飛び込んだ。
「す、すみません!大丈夫ですか?」
「は、はい……大丈夫です……」
柊彩はプルプルと震えながら、指で丸を作り強がって見せる。
「
「やだっ!」
柊彩にしがみついた小さな影は、お腹に顔を押し付けたままくぐもった声でそう答える。
「そうはいっても困っていらっしゃるだろう?」
「大丈夫です、このまま席に連れて行きます」
少しして呼吸ができるようになった柊彩は、それをヒョイっと抱え上げた。
「ご迷惑をおかけしてすみません、それでは私は一度席を外します」
「ご一緒なさらないのですか?」
「はい、きっと奏音はそれを望んでいると思うので。それとメッセージの件に関しては、また後ほどご連絡させていただきます。それでは」
その男性、メッセージの送り主である美浦慎二はそう言って、丁寧に頭を下げて店を出て行ってしまった。
まだ事態を飲み込めない日聖は、ひとまず柊彩に続いて先ほど彼らが座っていた席に着く。
日聖と向かい合って座っている柊彩は、胸に小さな女の子を抱えている。
その子は手足を存分に使って柊彩にしがみいており、よく見ると小刻みに震えていた。
「さっきからどうしたんだ?」
柊彩がそう問いかけても、少女は頭をグリグリと押し付けるだけである。
「まいったな……」
「えっと、その子は?」
「奏音、少し顔を上げてくれるか?」
柊彩が頭を撫でながら優しく言うと、その子は少し柊彩から離れて顔を上げた。
すると柊彩が手招きをしていたので、日聖は席を移動して隣に座る。
そしてその子の顔を見て、雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。
大きなクリンとした目と、ふっくらと丸く柔らかそうなほっぺた。
そしてなんとも愛くるしいあどけない顔立ち。
一言でいえば、とてつもなく可愛かったのだ。
「この子は
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