第6話 コラボ配信
「どうも!アスタリスクです!今日の配信では、なんと!スペシャルゲストを呼んでおります、どうぞ!」
「お邪魔してます、ヒロです!」
〈マジか!〉
〈スゲェ!!〉
〈キター♪───O(≧∇≦)O────♪〉
雑談配信の翌日、あっという間に話がまとまり、柊彩は超人気配信グループ『アスタリスク』とのコラボを行っていた。
アスタリスクといえば各々が単身でAランクの魔物を倒せる程の凄腕4人組であり、半年前にたった4人でAランク迷宮を攻略したことで絶大な人気を獲得した。
今や世界最強候補の一角にも挙げられており、次世代の勇者候補との呼び声も高い。
そんな人気配信者だからだろうか、コラボの内容は段取りよく全て決めてくれたため、こうしてすぐに配信が行えているのだ。
「いやー、ヒロくん。今ヤバいね」
「俺が一番びっくりしてます、まさかアスタリスクさんとコラボするなんて夢のようですよ!」
「もしかして緊張してる?」
「しまくりですよ!みなさんとてもお強くて人気ですからね、もう心臓バクバクです」
「安心してよ、事前に言った通り今日はCランクの迷宮だから」
「皆さんのこと頼りにしてますね!」
柊彩とアスタリスクの二人が話す中、残りの二人はうっすらと笑みを浮かべていた。
集合時刻から今回挑戦する迷宮まで、全部アスタリスクが決めて柊彩に連絡していた。
だが実際にはそれは嘘。
向こうは柊彩を利用してより多くの人気を獲得するために、本当はSランクの迷宮に潜り、柊彩が本当に勇者なのかを暴こうとしているのだ。
その証拠に、配信画面に表示されているタイトルは、
【ドッキリ企画】ヒロは本当に勇者なのか⁉︎【検証してみた】
となっている。
そして概要欄には『勇者なら配信中に加護の力を使うはず!そうじゃないなら…………頑張って逃げますww』とあった。
もちろん今配信を行っている柊彩はそのことを知らない。
ただ、柊彩が加護の力を使えない状況で迷宮についてくるのはあまりにも危険だから、と自宅で待機していた日聖はそれに気づいた。
「嘘!この人たち、なんてことを!」
日聖は大慌てで柊彩に連絡を入れる。
勇者であることがバレそうになっているのを恐れているわけではない、事態はもっと深刻。
Sランク迷宮は、世界にたった9ヶ所しか存在しない最高難易度の迷宮。
これまでもAランク迷宮を攻略した猛者が幾度となく挑んできたが踏破した事例は一つもなく、運が良くて重症、半数以上が命を落としてきた。
そんなところにたったの5人で挑もうものなら、死は免れない。
日聖は必死に柊彩に電話をかけるのだが、配信中のためか全く繋がらない。
「よし、じゃあ早速行くか!そこに転移魔法の魔法陣があるから乗って!」
「わかりました」
アスタリスクと柊彩の5人は、魔法陣に乗ってとある迷宮の前にワープした。
〈マジでSランクじゃんww〉
〈さすがにやばくない?大丈夫?〉
チャット欄も困惑したり盛り上がったりと反応は人それぞれではあるが、少なくともどんどん人を集めているのは間違いない。
その様子を見ながらアスタリスクのメンバーはニヤリと笑う。
「あれ、ここって……」
「早く行こうぜ!視聴者みんな楽しみにしてるからさ!」
柊彩が何か言う前に背中を押して無理やり迷宮の中に入る。
その瞬間、柊彩は全て察した。
何度も魔物と戦ってきたからわかる。
この肌を突き刺すようなおぞましい感覚は、そこらの魔物や迷宮が出せるものではない。
「おい、お前ら!」
「ドッキリ大成功!はい、ここはSランク迷宮『ベリアル』でした〜」
計画がうまくいき、男たちはニヤニヤと笑みを浮かべている。
ただ一人、柊彩だけがこれまでにないほどに焦りを見せていた。
「バカなこと言ってんじゃねえ!早く逃げるぞ!」
「いやー、ヒロくん勇者なんだからいけるでしょ?早く加護の力使ってくれよ」
〈焦り方すごwww〉
〈これいいの?〉
〈Sランク迷宮ってこんな感じなんだ〉
〈画面越しでもこえー〉
〈いけ!勇者!〉
「ほら、リスナーのみんなも期待してるんだしさ」
「ふざけんな!今すぐ──」
その時だった。
地面に水溜りのように広がった闇から幾つもの腕が伸びたかと思うと、それは柊彩を掴んで一瞬で闇の中に引き摺り込んでしまった。
「……は?」
あまりの光景にアスタリスクの男たちも固まる。
彼らはAランク迷宮を攻略したこともある凄腕の配信者、だからこそ余計にわかっていなかったのだ。
──Sランク迷宮は人が挑んで良いものではない
「お、おいこれ……」
「ヤバい、逃げるぞ!」
すぐに入口に引き返そうとしたのは良いものの、無慈悲にも巨大な竜が行手を阻むように立ちはだかっていた。
それはAランク迷宮の最下層に潜んでいるようなモンスター、それがSランク迷宮では第一階層から現れるのだ。
「嘘、だろ……」
それも一体だけではなく、何体も。
半年前の配信において、彼らは4人がかりでどうにかこの竜を倒し、Aランク迷宮を踏破した。
その強さをよく知るからこそ、四方を囲まれているこの状況は絶望的だった。
「て、転移魔法は⁉︎」
「できねぇ、全部かき消される!」
〈逃げろ逃げろ逃げろ!〉
〈ヒロって死んだの?〉
〈誰かどうにかしろよ!人死ぬぞ!〉
〈もう死んだって、終わりだよ……〉
よりによってこれだけたくさんの人を集めた配信がこんな凄惨な事故を招くだなんて、誰も思わなかっただろう。
あまりにも恐ろしく、しかし目を背けることもできず、どうすることもない状況を嘆くコメントが流れていく。
もう終わりだ、誰もがそう思っていた。
だが彼らは知らない。
たった7人で世界を救いし者たち、そのリーダーであった勇者の実力を。
「バカどもが、だから逃げろって言ったんだよ」
声が聞こえた直後、そこにいた1匹の竜が地に伏せた。
そしてその背中には、全身が真っ赤に染まった柊彩が立っていた。
「あー、しんど。あのクソ野郎、第十階層まで引き摺り込みやがって」
「は?生きて……?」
「ちょうどいいや、それ貸して」
柊彩は元気そうに一人の男に近づくと、その腰の剣を抜いた。
「さすがに素手じゃ大変だったからな」
柊彩は何度か剣を振ってその感触を確かめている。
だがその向こうでは竜が大きく息を吸っていた。
「お、おい!」
「うるせーな、静かにしてろ」
竜のブレスは絶大な威力を誇る。
それを無傷で凌げるとしたらそれこそ勇者の『加護』の力くらいだろう、誰もがそう思っていたのだが。
「オラッ!」
柊彩が一度剣を振るう。
すると竜のブレスは真っ二つ、それどころかそれを吐いた竜そのものすら切断してしまった。
これこそが勇者の力。
例え加護の力を使わずとも、勇者に敵う人間などほとんどいない。
もしもいるとすれば、それこそともに魔王討伐の旅をしていた仲間たちくらいのものだろう。
それほどまでに圧倒的な力を前にして、アスタリスクもリスナーも言葉を失った。
「ここに連れてきたのはお前らだろーが、腰抜かしてる暇あったら早く逃げろ」
様子がまるで違う柊彩が放つ威圧感の前に、アスタリスクの男たちは大人しく従うことしかできなかった。
「しょーもないことしやがって」
男たちが逃げたのを確認すると、柊彩は狼狽える竜に睨みをきかせつつ、自分も迷宮を後にする。
こうしてコラボ配信は事故により中断、そして柊彩の名は再び、前回以上に世の中に広まるのであった。
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