第5話 普通の配信者を目指せ
「ヒロです!みんな、昨日ぶり!って、突然始めたのにもうこんなたくさんの人、みんなありがとう!」
翌朝、聖教会の中央大聖堂へと帰った紗凪を見送った後、柊彩は日聖の提案でゲリラ配信を始めていた。
全く予告していなかったにもかかわらず、相変わらずというべきか、瞬く間にたくさんの人が集まってくる。
ただ柊彩は既に吹っ切れており、もうそれに動じたりはしない。
「今日はみんなの質問に答える雑談配信をしようかと思います、ただどれだけ読めるかわからないのでできる範囲で!」
この配信を提案した日聖の考えはこうだ。
とにかく今チャンネルを削除すれば、勇者であることがバレたから逃げたとみんな考えるはず、なので配信は続けなければならない。
しかし配信で必死に否定するのも怪しまれる、もし勇者ではない普通の配信者ならこのチャンスに乗じて一気に人気になろうと考えるはず。
つまり勇者である証拠は見せないようにしつつできるだけ配信で人を集め、“普通の”超人気配信者を目指すことで、最も自然に勇者であることを隠せる。
そのための第一歩として、まずは質問に答える雑談配信を始めた。
まずはここで勇者であるか知りたい人の質問に答え、怪しまれないように勇者ではないことを主張する。
「〈手袋を外してください〉?確かに昨日落ちちゃいましたからね、じゃあいきますよ」
質問に答え、まずは手の甲に紋章がないことを映す。
〈紋章ないじゃん〉
〈勇者じゃないの?〉
〈メイクで隠してね?〉
「あれば良かったんですけどね、まあもし本当に俺が勇者なら今頃チヤホヤされながら豪邸で過ごしてますよ」
笑顔で思ってもないことをペラペラと話す柊彩を見て、なぜこんなに演技が上手いのだ、と日聖は思わず吹き出しそうになる。
しかしそれを堪え、チャット欄からちょうど良いコメントを抜き出し、カンペに書き出して柊彩に見せる。
「えーっと、〈じゃあなんで手袋してんの?〉カッコよくないですか?これ」
そう答えつつ柊彩は画面に向けて手袋をつける。
〈ダサイ〉
〈なんかコイツキモくね?〉
〈ただのイタイやつの可能性出てきたな〉
「おい、訴えるぞ!勝手に盛り上がったのはそっちだからな!」
〈今までの配信ちょっと見たけど、正直そんな大した迷宮は行ってないよな〉
「高ランクの迷宮とかそもそも一人で行くもんじゃないですよ、普通に危ないし」
〈今度高ランクいってよ〉
「は?嫌ですよ!死にたくないし!」
ふと顔を上げると、日聖は手で丸を作っている。
別にこれで人がつこうが離れようがどっちでもいい、大事なのは人気になろうという努力をすること。
そのためには可能な限りコメントを拾い、喋り続けなければならない。
柊彩が困ってそうに見えたなら、日聖はすぐにカンペを用意する。
そこには〈一度迷宮配信してほしい〉というコメントとともに、『乗り気で答える』と日聖からの指示もあった。
「いつも通りの迷宮攻略の配信ならやりますよ!ぜひ見に来てください!」
ここまでの柊彩のやり取りは、いかにもこの偶然の人気にあやかって人を集めようとしてるように見えるだろう。
その後もこの調子で日聖に手伝ってもらいつつ30分程度の雑談配信を終え、最後に今度は迷宮攻略の配信を約束した。
「ふぅ、こんなもんでどうだ?」
「良かったと思います。それよりも凄いですね、上手でしたよ」
「ま、伊達に1年配信者を続けてきたわけじゃないからな」
「あとは迷宮攻略の配信をするだけですね」
「それはいつも通りでいいんだよな?」
「はい、少し気合が入ってるくらいでもいいと思います」
配信が終わるや否や、二人は早速次の配信の打ち合わせをする。
先ほどの雑談配信はいわゆる掴み、本番は次の迷宮攻略だ。
自然に振る舞うためにもあまり配信の間隔を開けられない、ブームが続いてるうちに配信すべきだ。
だがそのためのちょうど良い迷宮はないか、そう考えていたその時だった。
「勇者様、通知が来ましたよ」
「柊彩でいいよ、あと通知もいつものことだから無視で。多分コラボの誘いだから」
「コラボ?それです!」
日聖は勢いよく立ち上がった。
「この際ですから、誰かとコラボして証人の代わりをしてもらいましょう。影響力の強そうな人に『アイツは普通だった』と言ってもらえれば、この騒ぎも落ち着く可能性が高いです」
またとない名案だった。
これで自然に熱が冷めれば注目を集めることもなくなり、より安全に聖 日聖を匿うこともできる。
「ていうかさっきの通知、超有名な配信者グループからだぞ」
「ちょうどいいですね!すぐに返信しちゃいましょう!」
こうして勇者かもしれない配信者・雪村柊彩の次の配信は、超有名配信者とのコラボ配信に決まったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おっ、返信が来たぞ!『是非コラボをお願いします!』だとよ」
「お、いいねぇ。じゃあ適当に簡単な迷宮に行こう、って送っとけ」
「いいのか?せっかくの機会だぜ?」
「バーカ、嘘に決まってんだろ。当日はSランク迷宮に連れてって配信すんだよ。『【ドッキリ企画】ヒロは本当に勇者なのか⁉︎【検証してみた】』ってタイトルでな」
「あったまいいー!じゃ、それでいくわ」
柊彩たちはまだ知らない。
次の配信で柊彩の人気も落ち着くはずが、むしろ今まで以上の注目を集めてしまうことになることを。
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