第16話 ケモミミさんは約束する

「だーかーら!プリンじゃありませんわっ!」

「プリン様!怒ってばっかだと体にわるいの!」

「ムキーッ!!」


 プリン様が白いハンカチをキーッと噛みながら地団駄を踏む。

 どっから取り出したんやそのハンカチ…。

 仕方がないのでお嬢様をフォローする。


「…お、お嬢様…ぷぷっ…プリン…は…オレは可愛いと思いますよ…?ぷぷっ…」

「何笑ってますの!?アインがいい始めたのでしょう!?責任取ってくださいまし!!」

「……プリプリ様…ぷぷっ」

「プリプリってなんですの!?」


 プリン様がぷりぷりとお怒りになっている。顔を真っ赤にして頬を膨らませ、プルプルと震えてる…プリンだけに…ぷぷっ


「…いじめるのはそれぐらいにするですよ…プリン様を…ぷっ」

「マロン…あなた…」


 マロン先輩は何事もないかのように振る舞っているが、よく見るとその小さな口元は歪み、肩を静かに震わせている。お主も悪よのう!先輩っ!!


「みんな~お嬢様で遊ぶのはやめなさ~い。…それで、お裁縫でしたね~?お嬢様~」

「…はっ!そうですの!すっかり忘れていわしたわ!お裁縫を教えてほしくってよ!」

「プリシエラ様、大変申し訳ないのですが、アインちゃんたちに仕事を教えなくてはならなくて~お裁縫はまた明日に…」

「え…?」


 プリン様はいつも自信満々気なその美しいお顔を、メイド長の言葉を聞いた瞬間、絶望に染まった、この世の終わりみたいな顔をオレたちに見せた。

 う~ん、こっちに原因があるだけにめちゃくちゃ申し訳なくなってきたな。

 顔を俯かせて泣きそうになっているプリン様の前にオレは膝をつき、目線を合わせる。


「…お嬢様…あー…かわりと言ってはなんだが…オレにできることならなんでも…」


 あ。なんでもはいいすぎ──


「ほんとですのっ!?!?」

「わっ」


 ぐいっと顔を近づけてくるお嬢様、あまりの近さにオレとお嬢様の鼻の先っちょが当たりそうになる。近距離から放たれるお嬢様のキラキラとした眼差しにオレは、思わず後退りをする。

 お、お嬢様!?お顔が近うございますですよ!?


「プ、プリン様?」

「プリシエラですわっ!……その…なんでも…って言いましたわよね?」

「…え、ええ」


 お嬢様は顔に手を当て、頬を紅潮させる。これだけ見れば可愛らしい、恥じらう乙女なのだが……なんだろう?背中がぞわぞわするぞ。むずむずする…まるで、捕食者に狙われているような…


「アインの…しっぽをモフらせてくださいまし!!」

「………」


 ギラギラとした目でプリン様はそう言った。

 ここで豆知識。獣人の耳としっぽを触るのは、交尾をするときだけである。基本、どちらも外には出しているが、獣人のデリケートゾーンと呼ばれているのだ。つまり…


「お、お嬢様…そんな…積極的///」

「……何をおっしゃってますの?」


 はっ!?危うく堕とされるところだった…助かったぜ!出会って三秒でズッコンバッコンは免れた!!挿れるモノなんてないけどね!!!


「……お嬢様、ちょっと耳をお貸しになるです…」

「マロン?なんですの?」


 マロン先輩がプリン様の耳元に口を近づけ、ごにょごにょと正しい知識を教えている。


「……ボンッ…」


 あっ、お嬢様が真っ赤になって爆発した!


「アイン?プリン様なんで顔真っ赤なの?」

「………知らなくていいこともあるんだよ?」


 エリィの頭を撫で、遠くを見る。エリィは納得いっていない顔をしていたが、君が知るにはまだ早い。うん。エリィ、知ったら襲って来そうだから。


「べ、べべっべつにわたくしはそういうことがしたいんじゃ…た、ただしっぽを触ると気持ち良さそうで…!」

「…ははは、お嬢様の気持ちはわかりますよ…?」


 オレも子供のころ知らなくて、お母さんのしっぽをモフったらいつになく真剣な顔で諭されたからね。

 意味を知ったときはびっくりしたよホント。お父さんに見られてたらなんて言われてたことか…。でもモフったその日の夜に寝室から両親の声がしたんだよね…。お母さんはオレのテクで発情したのだ。……なんか複雑な気分…。


 まぁともかく獣人の耳やらしっぽをモフるのは夢ではあるけど、やったらセクハラだからね。皆も異世界に転生したときは気を付けようね!


「まぁ…お嬢様なら、触るだけだったらいいですよ…?」

「ホントですの!?」


 嬉しそうに笑うプリン様。やっぱり美少女は笑顔が一番似合うね!


「エリィももふもふするの!」

「ダメ」

「なんでっ!?」


 君はさりげなーくセクハラするからね。絶対ダメだよ。


「ううう…」


 目の端に大きな涙を浮かべて、固く握った拳を震わせるエリィ。今にも大泣きしそうなその様子にオレは焦る。

 えっ!?そ、そんなことで泣きそうになるの!?


「……アイン…ぐすっ…」


 パニックになるオレ。他の皆は呆れたようにこちらを見ているが。


「…わかった!モフっていい!モフっていいから!な?」

「わーい、ありがとなのー!」


 切り替えはやっ!?

 オレはジト目でエリィを見つめる。本人は口笛を吹いてあからさまに目線を反らした。

 口笛吹けてないぞ。エリィ!


 結局、お子さま2人にしっぽをモフモフさせる約束をしてしまったオレであった。




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