第15話 ケモミミさんはお嬢様と会う

「………」


 今、腕を組んだオレの目の前で3人のメイドさんが、申し訳なさそうな顔をしながら正座をしている。

 なぜこんな状況になってしまったのかと頭を悩ませつつ、オレは3人の方を向いてキッと睨み付ける。見事にシンクロしてびくりと肩を跳ね上がらせた。

 あまりに綺麗に揃っていたので、思わず笑ってしまう。そのせいか、緊張していた空気がやわらいだ為、3人がいっせいに口を開いた。


「ごめんなさいなの…」

「…申し訳ないです…」

「ごめんなさいね~」


 3人がこちらの様子をちらちらと伺いながら謝罪をする。

 さっきまで、3人はトチ狂ったように騒いでいた。理由はオレのメイド服を見たからだ。ワケがわからないかもしれないが、そうとしか言えない。

 エリィは鼻血を流しながら「アイン~一緒ににベッドいこ~」と猫なで声でオレを誘い、マロン先輩は見えぬ脅威と戦っていた。「巨乳には負けないのですー!」とか言っていたからしょうもない敵と戦っていたのだろう。

 メイド長が一番酷かった。オレのフリフリメイド服を見るなり昔の、旦那との情事を思い出して年寄りとは思えないほどの蕩けた顔をしていた。

 うら若き娘たちがいる前でなんてこと思い出してんだ!このエロメイド!


 皆、正気に戻るのにすっごい時間かかったからね!エリィなんか鼻血出しすぎで倒れかけたし、掃除も大変だった…。


「…はぁ…もうその事はいいんですよ…それよりも仕事もあるし、お嬢様のこと放っておいていいんですか…?」

「「あっ…」」


 真っ青になりながら、顔を見合わせる祖母と孫娘。

 そんな漫画のような表情をする2人を見てオレは静かに笑う。


「…ほら、オレたちの自己紹介……も…?」


 うん?廊下から物凄い勢いで向かってくる者が…な、なんだこの速さは!?速すぎるッ!?

 バンッと勢いよく扉が開くと、肩で息をする1人の少女が立っていた。

 赤いルビーのような瞳に、エリィよりも濃い金色の髪は、これでもかと主張するドリルになっている!

 初めて見た…ドリルヘアー…こんなにも尖っているとは…恐るべし!


「アンナッ!!マロンッ!!遅いですわよ!?裁縫を教え…って、きゃあああああああ!!?ち、痴女よ!痴女がいますわ!追い出してくださいまし!!」

「……痴女じゃ…ないんですよ…」

「エリィたちは新しいメイドなの!…です?」


 エリィの言葉に、お嬢様が訝しげにオレたち2人を見てくる。


「ほ、ほんとにメイドですの…?特に…その…露出が多い服を着ている方は…」


 そんな目で見ないでお嬢様…しくしく。

 お嬢様に初対面で痴女と言われたことに若干傷つきながら、改めてお嬢様の方を見て頭を下げる。ついでにエリィの頭も掴んで下げさせた。


「…お嬢様…今日からメイドになった…アイスです」

「エリィなの!…です?」

「…エリィさんは敬語使わなくていいですよ…」

「…?どうしてなの?」

「マロンとキャラ被りするです…」


 マロン先輩…キャラ被りとか気にするんすね…。


「ふ、ふーん…ですわ。わたくしの名はプリシエラ=ヴァン・トゥンベリアですわ!アイン!エリィ!これからもよろしくお願いいたしますわ!」


 おっーほっほとどこから取り出したかわからない扇子を口に当ててお上品な笑いをあげるプリシエラお嬢様。


「…よろしくです…えーと、プリン様?」

「プリンなの!」

「プリンじゃありませんわッ!!!」


 プリン様と呼ばれて、若干嬉しそうにしているお嬢様であった。

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