第8話 ケモミミさんは買い物をする
あの後、一度は大通りに出たオレたちだったが、人拐いの二人の存在を忘れていたことに気がつき、急いで戻った。
幸いにも、間抜け面で気絶していたままだったのでガッチガチに縛って道端にポイしておいた。
後で知ったことなのだが、どうやらあの二人、そこそこ有名な犯罪者だったようで捕まえるのに苦労していたようだ。一体誰が捕まえたのかと一時期騒ぎになったらしい。
「アインー!こっちこっち!」
さっきまで自分の身に危機が迫っていたというのにも関わらずキャッキャッとはしゃいでるエリィを見て、オレは苦笑する。
人拐いのおばかさんたちを放り投げた後、オレたちは買い物に来ていた。
なんでもお父さんに貰ったナイフがウルムガンドの野郎にぶん投げた後、ポッキリと折れてしまったのだ。それにローブを脱いだ今、胸と腰にしか布を巻いていないので、服が必要なのである。最初は気にしていなかったが色々な視線が正直鬱陶しい。
「ここだよ!服屋さん!!」
二人でやって来た店は、外見は少し古そうな建物であるものの、中は小綺麗な服屋さんだった。正直、この世界の技術レベルは見た感じ近世くらのレベルなので期待はしていなかったが、なかなかどうして、オシャレな店ではないか。
店の中を見ていると、ふとおっとりとした女性と目が合う。着ている服からして店員さんだろう。ニッコリと笑ってこっちに近づいて来る。
「あらぁ~、いらっしゃいエリィちゃん。あら?あらあらぁ?そちらの美人さんはエリィちゃんのお嫁さんかしら?」
「......いや、嫁じゃな──」
「そうなの!エリィたちね!結婚するの!!」
「...しませんよ?エリィさん??」
まったくこの子は...店員さんも店員さんだよっ!!
そんな様子をニコニコと眺めてくる店員さん。......なんだ、その目は...
「フフフ、らぶらぶですねぇ。羨ましいです~」
「ラブラブちゃうわっ!」
クソッ!!なんだこの店員は!?
オレがジト目で店員を睨みつけていると、突然左の太ももに抱き着かれる。オレは驚きながらも太ももに目をやった。
「アイン!ミドリおねぇちゃんじゃなくて、エリィのことみてー!!」
「......あー、うん」
なんかエリィがめんどくさい子になってる...
愛が重すぎてそのうち後ろから刺されたりしないよな?
オレはそんな未来を思い浮かべ身震いする。
「あら~大胆ねぇ~」
ミドリさんとやらは微笑ましげにオレたちのことを見てくる。
「いいわ~歳の差、新しい本のネタができたわ~」
ネタにすな。
そんでちゃっかりお尻を揉むな。エリィ。
「...エリィ、離れてくれ。...服を選べない」
「やー!エリィが選ぶの!」
「...いや、服ぐらい自分で──」
「まぁ!!それじゃあ私と一緒に選びましょ!エリィちゃん!!」
「わかったの!アインをかわいくするの!」
あのー、本人のことは無視ですかー?
「......服の面積が少なくないか...?」
これ、水着じゃないのレベルで少ないんですが。
「アイン...へんたいさんなの...」
「...これエリィが選んだよね?なんでオレが悪いみたいに言われてんの?」
◆◆◆
「......なんでバニーガールなの?」
ケモミミ生えてんのにバニーガールかいな...てかなんでこんな服があるの??わけわかんないよ...
「いいわぁ、アインさんってスタイルがいいから...胸とかお尻が...フフフ」
「.........」
わっ!寒気がしたんだよ!!助けてー!ここに変態が居まーす!
◆◆◆
結局、二人はエロい服しか着せてこなかったのでオレが選ぶことに。
白いシャツに、茶色いズボンだ。選んだ理由は安いからだよ!
「むぅ...もっとアインさんのえっちな格好、見たかったです...」
「...見せねぇよ?」
「むぅ...もっとアインには服を着てほしかったの...」
「...着ないよ?」
エリィは絶対えっちな格好させるからな...
あとミドリお姉さん、ギラギラした目で見ないで欲しい。怖いわ!
自分自身を抱いて後ろに後ずさる。ここに居たら変態二人に襲われそうだ。今すぐに逃げ出したい。
遠い目をしていると、エリィが腰に巻いた布の端を掴んできた。
「...アインにはもっとオシャレしてほしいの...アインは、イヤ?」
...ぐっ...!そ、そんなこと言ったってオレは知らん!
......そんなキラキラした目でオレを見つめるな!
.........あーっ、もう!わかったよ!!
「...一着だけ...一着だけならオシャレしてやる...」
「ホント!?」
悲しそうな顔から、一気に嬉しそうな顔になったエリィが物凄い勢いで抱き着いてくる。
「...ほげぶっ!!」
「ありがと!!アイン!!!とっておきのを選ぶね!!」
いって~...エリィの頭がオレの鳩尾にクリティカルヒット…!
エリィはえへへとだらしない笑顔を浮かべながら勢いよく駆け出してオレの服を選びに行った。
「フフ、あの子があんなにはしゃぐなんて珍しいですね」
お腹を擦っていると、横からミドリお姉さんに話しかけられる。
「そうなのか...?」
出会ったときからずっとあんなテンションだったけど...
「あの子、本当は人見知りなんですよ?だから、あんなに他人に心を開くのは珍しくて...」
心を開く...か。
...なんでオレなんだ...?なんでオレみたいな忌み嫌われてるダークなんかに心を開くんだ...。挙げ句の果てには結婚するとか言い出すし...
「...アンタは、オレのことを...その、嫌わないのか?」
恐る恐る聞いてみる。ミドリお姉さんは微笑んだままだ。
「私は肌の色とか気にしませんよ?それに、アインさんは私の好みなので...じゅるり...」
「...ふーん」
「アインさーん?どうして私から離れるんですかー?」
いや、なに、貞操の危機が訪れたもんで...
性獣から逃げていると、服を抱えたエリィがはしゃぎながらやって来た。
「アインー!!これ!これ着てほしいの!!」
......ま、まぁちょっとオシャレなんじゃないの?
オレは無言で服を受け取る。オレの為に選んでくれたと考えると、正直ちょっとうれしい。
「あら~?アインさんなんだか嬉しそうですね~??」
「...別に...」
「...アイン、いやだったの?」
涙目でオレのことを見上げるエリィ。
くっ…!その攻撃はオレに効く…!
仕方ないのでエリィの頭を撫でる。
「......いや、う、うれしいよ...ありがと...」
エリィはパアアッと明るい天使のような笑顔を浮かべ、オレに抱き着いてきた。オレのお腹にすりすりと頬を擦り付けてくる。
...む、むぅ...
扱いに困ったオレはエリィの背中に手をやると、より強く抱き着いてきた。絶対に離れないエリィに、オレは苦笑しながら背中を擦ってやる。
結局、店を出るまでエリィはオレに抱き着いたままだった。
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