第6話 ケモミミさんはミスをする

......また来てしまった...。


昨日、少女と別れた後、なんとか『白猫亭』にたどりついたオレは部屋を借り、数年振りにベッドで寝た。宿で疲れをとった後に少女との約束を思い出し朝イチで昨日の路地裏に来たわけだが...


朝イチて。そんな早くから来るわけなかろうて。そんなに少女と会うのが楽しみなのか!?アイン!!


「暇だぁ...」


欠伸を噛み殺し、転がっていた石ころをコロコロと転がして弄る。

普通に買い物をして、夕方ぐらいに来た方が良かったか...。昨日、少女に会ったのもそれぐらいの時間だったからな...。迎えに行った方がいいかなぁ...でも家知らないし...。

何度目かもわからない後悔をしながら空を見上げ、面白い形をした雲を探し始めた。






「......ハッ!」


こくりこくりと頭を揺らしながら殆ど寝掛けていたオレは突然聞こえた悲鳴に、びくりと肩を震わせ覚醒する。目でも追えぬ速さで起き上がり、声のした方向に急いで向かう。


───あの声は昨日の少女のものだ。


「...クソッ!」


森で鍛えたその脚を使い、路地裏を駆け抜ける。

やはり、迎えに行っていれば...。

拳をグッと握りしめ鋭く尖った犬歯が折れんばかりに歯ぎしりをする。


オレは馬鹿だ。昨日、彼女に人拐いがいる等と言っておきながら「大丈夫だから」と何の根拠もない言葉を鵜呑みにし、幼い少女に路地裏に来させようとした。

正直、人の生き死になんてどうでもいい。誰が、何処で死のうが、自分には関係ないからだ。...だけど、彼女は、彼女だけは...。

初めてだったのだ。両親以外の人間に、純粋な目で真っ直ぐ見てくれたのは。初めてだったのだ。出会ってすぐに心配してくれたのは。


彼女はオレの目元を見てダークだと気が付いていただろう。それなのに、優しくしてくれた。だから、せめて彼女だけは───。






(エリィ視点)


「待て、このガキッ!」

「クソッ!!ちょこまかちょこまかと...!」


後ろから、男の人たちが追いかけてくる。さっきからずっと走っていたからお腹の横が痛いの...。


あの男の人のたちは人拐い...?だとしたら、アインの言うとおりだったの...。自分は大丈夫だと思って、注意してくれたのに無視をして...鼻の奥がじんと熱くなり、目の端に涙が浮かび上がる。


「やー!来ないで!!」


助けて!怖いよ!誰か!

そんな思いも虚しく、男たちとの距離がどんどん近くなる。

息も絶え絶えで、曲がり角を曲がる。しかし、その先は行き止まりであった。


「そんな...!」

「この糞ガキ...妙にすばしっこがったがやっと追い付いたぜ...」

「はぁ...はぁ...まぢむり......おぢさん死ぬ......はぁ...捕まえた...!」


人拐いの男にきつく腕を掴まれる。


「痛い!やめてっ!」

「うるせぇぞ!このガキ!!やっと見つけた上玉だ...一体幾らになるだろうなぁ?ま、その前に楽しませて貰うがな...」


獣人の男はエリィの体を舐めるように見て、舌舐めずりをする。

そんな目で見られるのが初めてだったエリィは、訳の分からぬまま寒気を覚えて顔をひきつらせる。

い、イヤ!やめてほしいの!!


男はエリィの着ているワンピースを引きちぎろうとする。体をよじって逃げようとするが、大人の男に力で勝てるわけがない。されるがままに組伏せられる。

イヤ!誰か、誰か!


助けて───!!


「うぐぉっ!?」


突然、男が後ろへと吹っ飛んだ。無様に何度も転がって倒れる。


「───大丈夫か?」


目の前に、騎士がいた。










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