第5話 ケモミミさんは出会う
「おねーちゃん、お腹いたいの?」
「......は?」
顔を上げると、そこには天使がいた。
腰まで伸ばした金色の髪。睫毛は長く、くりくりとしたブルーサファイアの瞳。小ぶりの鼻に、少し紅潮している頬と薄桃色のぷっくりとした唇。
有り得ない程白い肌をした少女は、人形が動いているのではと錯覚する程だった。
「......?どうしたのおねーちゃん?やっぱりお腹いたいの?」
瞳をうるうるとさせ、上目遣いでこちらを見てくる。
ぎゃああああああぁぁぁぁ!!!可愛いいぃぃぃぃぃぃ!!!!
なんだこの少女は!?て、天使か!?オレの不幸体質を心配してくれて下界に降りてきてくれたのかっ!!そうに違いない!!
そんな阿保なことを考えていたせいで、目の前の少女を放置していたことを忘れてしまう。これがいけなかった。
「やっぱりお腹いたいのね!体が冷たくなってるの!ぎゅ~ってして暖めてあげるね!」
「.........は???」
言っていることが理解できず、呆けていたオレに突然少女が抱き着いてきた。
「......んなっ!!??」
「ぎゅーっ!!」
あっ、あっ、あっ、ちょ、ちょっとまて!!
すとっぷ!...ぷ、ぷにぷにしてっ......こっ!これ以上はダメですお客様!!変な道に走ってしまいます!!ロリは不味いですよ!!...あっ...良い匂い...じゃなくてっ!!!
「はーなーれーろっ!!」
少女の肩を掴み引き剥がそうとする。
「...おねーちゃん、イヤなの?」
抱き着きながらこちらの様子を伺うその泣き顔は一国、いや世界を滅ぼせるレベルの破壊力だ。
「...グッ、いや...そういうワケじゃ......」
「じゃあエリィがもっとあっためてあげるね!」
ぺたぺた
「......おっきい...」
...?なんのこ...
「んひゃんっ!?」
ちょっ!お、おっぱい触んな!や、やめ...んっ、なんか触りかたがいやらしいんだけど!!...んんっ!さ、先っちょが擦れて...ぁん!
「だ、大丈夫!大丈夫だからッ!もうお腹痛くない!」
「...そーなの?わかった!」
ハァ...ハァ...た、助かった...
しかし何故なんだ...胸を触られたのに...嫌じゃなかった...。な、何故なんだ...何故胸がドキドキするんだ...っ!
オレは前世が男だったが、今世は女性だ。この世界で十数年生きて、オレは女性であることを受け入れた。今では心もすっかり女性になった...と思う...。口調は男のまんまだけどね!
昔、まだ女性であることを受け入れていなかったときのことだ。頑張って女の子のように振る舞い、一人称も『私』にして女の子のような口調を頑張ってしていたがついうっかりお母さんの前で男口調で話してしまった。すると『アインらしくていいわね!』と言ってくれたのが嬉しくてそれ以来ずっとこんな感じだ。
まぁそれはおいといて。
身も心も女性になったオレだが恋愛対象は前世同様女性だ。いや、まぢ男とか無理だから。里で良い思いでないんだよね。レイプまがいのことをされかけたし。
んで、オレの好みはボンキュッボンのおねーさんなんだが...
この少女、エリィちゃんに抱き着かれて不覚にもドキドキしたんだよね。オレってロリコンだったの...?いやいやいや!違う違うぜっっっったい違う!!
オレは年上のおねーさんが好きなの!ロリコンじゃねぇから!前世でも里でも女の子とほとんど会話したりスキンシップとることなかったからちょっと動揺しただけだし!
......でもオレ、セレナちゃんに膝枕したよな...?
あ、あわわ...
み、認めん認めんぞ!だいたいいたいけな少女に手を出すなんて犯罪だっ!!
YES!!ロリータ!!NO!!タッチ!!
「...おねーちゃん?」
「...んんっ!な、何でもない...」
...ハッ!オレは一体何を考えてるだ...と、とにかくこの子と一緒にいるのは危険だ...!一刻も早く逃げよう!
「...じゃあ、オレは...」
「おねーちゃん!お名前なんていうの!?」
帰してくれないぃぃぃぃ!!!
「......アイン...だ」
「アイン!?アインって言うの!?エリィはエリィだよ!!!」
OH...勢いがしゅごい...
「えへへ...なんだか絵本みたいだね!!」
「...は?絵本???」
「うん!『騎士とお姫様』の出会いとそっくり!!」
ああ、その絵本、知ってる。
泣いて眠れない夜によくお母さんが読んでくれたっけ...。内容は至って普通の王道ストーリー。若い騎士がお姫様と恋に落ちて幸せになる話だ。
物語の中で騎士はパトロール中、路地裏で泣いているお姫様に出会うのだ。意気投合した二人は、その路地裏でよく会って話すようになった。だがある日、お姫様が人拐いに捕らわれてしまう。そんな中現れる騎士、お姫様を救いだす。
...確かお姫様抱っこしながら人拐いと戦うんだっけ...。いや無理だろ!なんて心の中でツッコミながら聞いてたなぁ。
「......オレがお姫様なの...?」
「えへへ、アインって可愛いからお似合いだね!」
「ふにょっ!?」
ボフン!
今、オレの顔はトマトが如く真っ赤だろう...
「あはは!アイン顔まっかだよ!」
「ぐぎぎ...」
むぅ......この少女...強い...っ!
「...あっ!お使いのこと忘れてたっ!急がなきゃ!!」
ほっ、やっと解放される...
「ね!アイン!明日もまた会おうよ!」
「ブフォッ!!」
ちょ、なんで!?
「...いや、あの...そのだな...えー...と」
「...嫌なの?」
くっ...!その目は卑怯だぞ...!!
「...いや、その~...あ!危ないからな!こんな路地裏に女の子一人じゃ危ないからな!」
「大丈夫だよっ!近道だからよく使うの!」
「...だ、ダメだっ!人拐いだっているんだぞ!大体、オレが悪いヤツだったらとっくに拐われてるんだぞ!?もっと気をつけるべきだ!」
ぷんぷん!
「もぅ!アインは悪い人じゃないのっ!!エリィは見ただけでわかるもんっ!!」
エリィは無いに等しい胸を張りそう言った。
...いや、ちょっとあるな......BよりのAかな...?
じゃなーくーてー!!
「危ないか...」
「あっ、もういかなきゃ!ごめんね!!アイン!!また明日ねーっ!!!」
「...はやっ!?」
一瞬で行ってしまった...。
「......はぁ...つかれた...」
...嵐のような少女だった...。
でも、こういうのも悪くないと思ったオレであった。
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