第2話 ケモミミさんは冒険者に会う
(冒険者視点)
クソッ!このままじゃマズイ...。
どくどくと血が流れる左腕の痛みを我慢し、片手で剣を振るうも、目の前のゴブリンに全て弾かれる。
今まで色んな魔物を殺してきたが、今俺の前にいるゴブリンは他のどんな魔物よりも人を殺し慣れている。それなりに良い装備を着ており、垢や汚れが付いたその汚く小さい手には魔力を纏った剣が握られている。
このゴブリン...何がヤバイかって、剣術を使えることだ。俺だって、ゴールド級というそこそこの地位を名乗ってる冒険者だ。剣の腕を磨く為に王国騎士団の元剣術指南役のジジイに教わったりもしたが、その剣を全て弾かれている。
「ぅぐっ!?」
突然、足に痛みが走った。小型のナイフが刺さっている。いつの間に...!ケタケタと下衆な笑いをあげ近づいてくるゴブリン達
「ギャハハハ!ニンゲン、ヨワイ!」
「オンナ!オンナ!オカス!」
「ウホッ!イイオトコッ!」
...うん?なんだろう、ケツの穴がキュッ!としたんだが...
下品な発言をしながら、じりじり寄ってくる。
...ここで負ける訳にはいかねぇ...
トーマスは重症で動けねぇし、マリーンとセレナは魔力切れで気絶している。今動けるのは俺だけだ...!
体が悲鳴を上げている、血を流しすぎて立ちくらみを起こしながらも、剣を支えにして立ち上がる。
「コイツ、マダウゴクゾ!」
「ハヤクコロセ!オレガアノオンナヲオカス!」
「ハァ...カッコイイ...オジサマ...」
なんか最後のやつだけおかしくない?
「こんなところで...くたばってたまるかァッ!!」
今出せる全力を全て出しきって剣を振るう。ブチブチと筋肉が千切れる音がする。口から血が溢れる。だが、コイツらを殺せば、3人は助かるかもしれねぇ...!
「うおおぉぉぉぉッ!!!!」
そんな希望も虚しく、簡単に剣を弾かれる。もう...ここまでか...。
「...すま...ねぇ......」
目を閉じて自身の死を待つ。意外と怖くはない。ゴブリンどもの足音が死へのカウントダウン。何か言っているがもう、なにも聞こえない。きっと俺のことを罵倒しているのだろう。さっさと殺してくれればいいものを...
しかし、いつまでたってもその時は訪れなかった。
「...大丈夫か?」
......女...?
酷く痛む瞼を開け、声のする方へと目を向ける。真っ白な髪に長い獣の耳、シュッとした鼻筋、ぷっくりとした唇に全てを見通すかのような鋭い目。そして......褐色の肌...。
「ま、ぞく...?」
俺は気を失った。
目を開けると、高く、生い茂ったたくさんの木が見える。ぼんやりとした記憶が、目が覚めるにつれ鮮明に蘇ってくる。
「......ッ!皆ッ!?......ッてぇ~」
勢いよく起き上がったせいで、ゴブリンから受けた傷が痛む。体をペタペタと触って無事を確認すると同時に、包帯でぐるぐる巻きにされていることに疑問を持つ。一体、誰が...?
「......起きたか」
「ッ!?」
思い出した!気絶する前に現れた魔族の女!
臨戦態勢にハイロウズとするも痛む体のせいで起き上がれない。
「.........動くな。傷が開く」
俺の気のせいか、ほんの一瞬、悲しそうな顔を浮かべた魔族がお椀を持ってこっちにやってくる。
「......食え」
「.........は?」
魔族は俺にお椀を差し出すなり、早足でどこかに行ってしまった。余りにも突然のことに困惑しながらも、貰ったお椀を見る。
ほんのりと湯気をたてながら、甘い香りがするスープだ。
ぐぅ~~っ
目の前の料理を欲しがるように俺の腹が鳴る。
魔族が作った料理だぞ...?毒が入ってるかもしれないのに...体が欲しがってしまう。口の中から溢れんばかりに出てくる唾液を飲み込み、ギュッと目を瞑って我慢しようとする
が、空腹には堪えられなかった。
「...うまっ!?」
優しいミルクの味わいが口いっぱいに広がると同時に体がポカポカと暖かくなる。
美味すぎだろ...毎日食いてぇわ...
「ふぅ~、食った食ったぁ」
魔族だからといって警戒ばかりしていたが、案外いいやつなのかもしれんな...
そんなことを思いつつ辺りを見渡す。
トーマス、マリーン、セレナが川の字で寝ているのを見つけ、ほっとため息をついた。
「......ん、これを飲め」
いつの間にか現れた獣人の女がコップを差し出してくる。俺は素直に従い、どろどろに濁った緑色の液体を飲み干す。
「不味ゥ!?」
なんじゃこりゃあ!?
「......そこら辺の草を混ぜた栄養汁だ。」
「雑草いれてんのこれ!?ねぇ!?ホントに栄養あるの!?」
「...うるさい奴だな!酷い怪我だったから心配したのに!感謝ぐらいしたらどうだ!このつむじハゲっ!」
「つむじハゲ!?」
バカな!?俺はハゲてねぇぞ!?...ハゲてねぇよな?やべ、心配になってきた...
自分の頭を丁寧に撫でつつ改めて獣人の女をまっすぐ見つめる
「あんたが助けてくれたんだな...それと、さっきはすまな...ッ!?」
俺は急いで視線をそらす。
「...?どうした...?」
こちらの顔を覗きこもうとやってくる。やっ、やめろ!来るなぁ!
「ふっ、服!服着て!」
さっきまでは自分の状況を把握するのに精一杯で気づかなかったがこの女!胸と腰に布を巻いているだけでほとんど全裸である。でるところもでており、胸に巻いている布は今にもはち切れそうである。み、見れてラッキーだなんて思ってないからなッ!?
「...ッ!?へっ、変態ッ!!!」
顔を真っ赤にして手で自身の大事なところを隠そうとする彼女を不覚にも可愛いと思ってしまった。...って、ちょっとまって!
「なんで俺が変態なんだよ!そっちが痴女みてぇな格好してるから悪いんだろぉが!」
「うっせぇ!誰が痴女じゃぁ!」
「ほげぶッ!?」
ナ、ナイスパンチ...
俺は見事に鳩尾に拳を入れられ気絶した。
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