第5話 nanashiの正体
翌日の朝、俺は自分の席に座って自分の配信のSNSアカウントを見ていると、一つのダイレクトメッセージが届いていたのに気が付いた。
「nanashiさん?」
そう、そのアカウントは俺を昔から応援してくれていたnanashiさんからだった。
『おかちゃん、いつも楽しく配信見させてもらってます。
恋愛相談が好評で登録者も順調に伸びてきて私にとっても嬉しいことなのですが、おかちゃんが遠くに行ってしまいそうで不安で、その前に私の恋愛相談にも乗って欲しいと思いDMしました。下に私の電話番号を貼っておきます。』
この内容は本当なら、断るべきなのかもしれないがnanashiさんは随分と支えられてきた恩があるからな。
配信で相談しにくいことなのかもしれないし、恩を返すつもりで今回だけはオッケーすることにした。
『分かりました。今日は配信が休みなので、今日の夕方五時半頃なら電話できますよ。』
俺がそう返信すると、すぐに『ありがとうございます!』と返事が来た。
♢
そして、約束の時間。
俺は修学旅行の実行委員の溜まっていた仕事を終らせて学校の中庭に一人残り、DMに貼られていた電話番号に電話を掛けた。
「もしもし。」
『もしもし。』
「nanashiさんの携帯であってますか?」
『あっ、はいそうです。』
電話の向こうからは可愛らしい女の子の声がしたが、その声はどこかで聞き覚えがあるような気がした。
「いつも配信見てくださってありがとうございますね。nanashiさんに何度も支えてもらいましたよ。」
『いえいえ、こちらこそいつも楽しませてますよ。』
「それで、今回は相談を聞いて欲しいということですよね?」
『はい。恋愛相談なんですけど……。』
そうして、彼女が恋愛相談の内容を話そうとしたとき、
キーンコーンカーンコーン
生徒会長、副会長は至急職員室に集まってください。
キーンコーンカーンコーン
『あっ、すいません。私、今学校に居るのでチャイムと放送が鳴っちゃいました。』
「え?今の僕の方の音ですよね?」
『えっ?』
「まさか。すいません、nanashiさん。今どこの教室にいますか?」
『2年1組ですけど…‥。』
今の放送の内容、電話越しに聞こえたのとまったく同じだったということは、まさか。
俺はそのまさかを確認するべく、俺は中庭から2年1組に向かい、扉を勢いよく開いた。
「へっ!?蓮君!?」
「白石さん!?まさか、nanashiさんって白石さんだったの?」
「おかちゃんって蓮君だったの!?」
俺たちは一度、頭の中を整理するために隣同士に席に座った。
「何で気付かなかったんだろう。昔から応援していたおかちゃんが蓮君だったなんて。」
「いや、「おかちゃん」なんてどこにでもあるあだ名でしょ。気付かなくて当たり前だよ。」
「うちの学校にも蓮君に恋愛相談した人がいっぱいいるらしいよ。」
「へ~、そうなんだ。」
ていうか、nanashiさん=白石さんと言うことは、白石さんが恋愛相談したいということだよな。
彼氏がいるとかの話は聞いたことなかったけど、そりゃこの年になれば好きな人の一人や二人居るよな。
「それで、白石さんの相談って?もちろん、守秘義務は守るし、学校でも応援するから、気兼ねなく話してみてよ。」
「……。」
「でも、俺が白石さんの恋愛相談をするなんて思っても居なかっ……。」
「蓮君の意地悪!」
「へ?」
俺が相談に乗ろうと話しているのを、白石さんは遮り大きな声を上げた。
「本当はもう気付いているんでしょ?私が蓮君の事好きだって言うこと!」
「はい?」
「恋愛マスターに私の好きって言う気持ちが隠し通せるわけないことぐらい分かってるよ!」
突然の告白に俺は何の言葉もでない。
そんな俺をそっちのけで白石さんは言葉を続けていく。
「どうやったらこの気持ちを諦められますかって相談しようと思っていたのに、これじゃあただの恥ずかしい人だよ。」
「白石さんが俺のことを……?」
「気付いていなかった振りなんてしなくていいってば!気付いてたんでしょ?」
もちろん、全く気付いていなかった。
学校のマドンナがそこまで俺のことを好きだったということなんて思いもしなかった。
でも、ここで言わなきゃ男じゃない!
「……嬉しいよ。実は俺も、白石さんの事ずっと好きだった。」
「え!?じゃあ、もしかして、付き合ってくれるってこと?」
「う、うん!」
こうして俺は恋愛相談を受け続けることによって、誰よりも幸せな恋愛をすることが出来た。
間違いなく俺にとって人生最幸の一日だ。
――――――――――――
配信者名:おかちゃん
登録者数:419
視聴者数:400
同接数:355
――――――――――――
最終話は本日18:00に更新いたします。
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