第3話 中級配信者の仲間入り?

「くっ、また何で俺がこんなことやらなきゃいけないんだ。俺も帰ってやることがあるってのに。」


昼休みに、段ボールを職員室まで運びに行くと先生は感謝の言葉に新しい仕事をハッピーセットのように俺に任せてきたのだ。完全の先生のパシリである。

始めは愚痴をこぼしながら、何のプリントなのか分からないものを一枚一枚丁寧に折り進めていたが、時間が経つにつれて俺はただ無心で手を動かしていた。


その時、俺の視界が何かに遮られてしまい、目の前が真っ暗になってしまった。


「あぁ、俺は死んだのか。仕事のし過ぎで。」


無心で仕事をしていたために俺は通常の思考回路は持ち合わせていなかったために口から変な言葉が出てしまった。

しかし、俺がその言葉を発したと同時に、目の前に光が戻って来た。


「何言ってんの?蓮君。」


そして、俺の後ろからそんな声が聞こえてきたので振り返って見て見ると、そこにはクラスのマドンナ、白石美咲が立っていたのだ。

彼女は俺の後ろの席だが、俺の圧倒的コミュ障のお陰でほとんどと言っていいほど接点がないが、どんな人にも分け隔てなく接してくれるので俺も好印象を抱いている。


「し、白石さん。どうしたの?!」

「それ、実行委員の仕事?一人じゃ大変そうだし、私も手伝おうか?」

「いいや、大丈夫だよ。白石さんに迷惑かけられないよ。」


こんなところがクラスの男子には止まらず、学校中の男子が好意を寄せてしまう理由なんだなと自ら実感しながらも白石の提案を断った。

二人で作業なんてしているところなんて見られたらそれこそ考えるだけでみんなの視線が怖い。


「そう?人手が必要になったらいつでも言ってね。」

「うん、ありがと。」


そう言って白石は教室から去って行ってしまったので、俺はそのまま作業を続けたのだった。







「皆さん、いらっしゃいませ!この配信へようこそ!ここで一緒に素晴らしい時間を過ごしましょう!」


今日もいつものように、俺は学校から帰宅してすぐに配信を付けスタートの挨拶をする。

すると早速いくつもコメントが書き込まれる。


”おかちゃん!こんばんは!”

”初見です!”

”初めて来ました~!!”

”いい声~”

”待ちくたびれたよ~。何かあったの?”


「そうなんだよ。今日、学校の先生に仕事押し付けられちゃって、帰りが遅くなったし、くたくただよ。」


”それは大変だったね。(_´Д`)ノ~~オツカレー”


「て言うか、今日人数多くない?!」


俺は疲れてさっきまで見るのを忘れていたが、今の視聴者数を見て見るとそこには10という数字が表示されていたのだ。


”そうだよ!始まる前から5人くらい待機してたよ~。”


「え?何で?!」


”友達から話を聞いてきて見ました。”

”口コミ見て来た民”

”ノ”

”ノ”

”ノ”


「口コミ?何それ。」


”昨日の恋愛相談してきた子じゃない?”


俺は底辺配信者であり、口コミを書かれるような有名人ではないと思っていたのだが「nanashi」さんのそのコメントで理解した。

確か去り際にそんなことを言っていた気がする。


「あ~、なるほど。そう言うことか!みんな話したい事あったら気軽にコメントして行ってね~。」


”は~い”

”昨日の子?”

”恋愛相談聞いて。”

”二人だけの時間が……。”

”眠た~い。”

”なんだかいい雰囲気な配信だ。”

”はい!”


俺のその言葉にコメントが次々と流れていくが、その中で1つ目に留まる物があった。


「恋愛相談を聞いて欲しいの?」


ユーザー名を登録の時のまま変えていないuser1029273さんから”恋愛相談聞いて。”と送られて来ていたのだ。


”うん”

”きゃ~(*ノωノ)”

”恋愛相談だ!”

”これが噂の”

”恋愛相談だってよ!!”

”期待が膨らむな~”


「何でも話してみてください!できる限りのアドバイスをしますよ。」


コメントが一層火を噴く中、俺はあまり期待しないで欲しいという思いを配信が盛り上がるならばと心の中に抑え込み、恋愛相談を聞く。


”私、同じクラスに好きな人が居るんだけど、そいつ陰キャで。好みのタイプとかも全然わからなくて、だから客観的な意見が聞きたくて。思い切って金髪とかにしてみるのもいいかなって。”


「なるほど。」


俺は少し考える。

俺がここで答えなければいけないのは相談者の人が、好きな人のためにイメチェンしようとしている背中を押すか否かである。

しかし、ここで俺が無責任にこっちの方が良い、と答えてしまっては失敗してしまった時が最悪である。

ここは、こうするしかないな。


「えっと、それでは、実際に本人に聞いてみてはどうでしょう。」


”本人に?でも、それって恥ずかしいじゃん。”


「でも、それを聞かれた相手の男子にも意識させられるので、好みも分かって一石二鳥だと思いますよ。」


”そっか、確かにそうかも。ありがとう、すっきりしました!”


「それは良かったです。また、いつでも相談してくださいね。」


”はい!おかちゃんさんの事SNSで拡散しときますね!”

”すげ~。”

”(゚д゚)!”

”アドバイスが適格だよ。”

”さてはヤリ手だな!?”

”私も拡散しとこ。”

”いつか私も相談したいな。”

”(;゚Д゚)”


それからは、今回の恋愛相談の話で持ち切りで配信が終わりの時間を迎えた。


「じゃあ、今日の配信はここまで!概要欄やSNSで予定確認してみてくださいね~!それじゃあ、お疲れ様~。あっ、チャンネル登録お願いしま~す。」


”おかちゃん、いつも楽しい配信ありがとう!また来ますね!”

”は~い”

”今日はありがと”

”(_´Д`)ノ~~オツカレー”


「ばいば~い。」


配信画面を閉じ、視聴者数、登録者ともに昨日よりも大幅に増えていた。

俺はしばらくその数字を満足するまで眺めて、今日は眠りについたのだった。



―――――――――――




配信者名:おかちゃん

登録者数:8

視聴者数:12

同接数:9

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