第2話 初めての恋愛相談

”私、好きな人がいるんです。”



俺は初見さんが長居してくれて、さらにコメントで相談がしたいと言って来てくれたことにテンションが上がって、二つ返事でオッケーしたのは良いものの、それは、彼女が居ないし出来たことも無い俺にとっては一番苦手とする相談、「恋愛相談」だったのだ。


”きゃ~(*ノωノ)”

”恋愛相談だよ!”

”恋愛相談だってよ!!”


初見さんの相談内容に対して、コメント欄いや、「nanashi」さんは異様な盛り上がりをしている。

俺は初見さんの相談に対して、緊張しながらもリラックスした態度で返答しようと心掛けた。


「「nanashi」さん、少し落ち着いてくださいね。」


”すいませ~ん。”


「モブ眼鏡さん、何でも話してみてください。俺はできる限りのアドバイスをしますよ。」


”ありがとうございます。”


それから、しばらくして相談の続きであろうコメントが打ち込まれていく。


”好きな人がいるんですが、彼は私の事全然眼中になんかなくて”


「それは辛いですね。」


”でも、私が悪いんです。昔から真面目なだけが取り柄で小学校の時のあだ名はモブ眼鏡でした。”


「だから、そのアカウント名なんですね。」


”はい。それで、彼にだけはどうしても振り向いてもらいたいんですけど、容姿をバッサリ変えるのには少し抵抗があって。私はどうしたらいいんでしょうか。”


”甘酸っぱいね~。”


”青春だね~(*^^*)”


聞かれた質問に対して、俺は考え込んだ。

自分自身が恋愛経験がなく、上手くアドバイスできる自信はなかったが、脳みそをフル回転させてアドバイスの言葉を紡ぎ出す。


「そうですね~。それじゃあ、その彼に対してだけ言葉遣いを変えてみるというのはどうでしょうか?」


”言葉遣い……。そんなことで良いんですか?”


「はい。ほんの少しの変化でも『彼にだけ』見せることで、その彼もちょっとした特別感が湧いてきて、少しは発展するかもしれませんよ。」


”なるほど……、言葉遣いですね。試してみます!”


”おかちゃん、素晴らしいアドバイス。まさかヤリ手か!?”


”相談に乗ってくれてありがとうございました!”


「どういたしまして!いつでも相談に乗りますよ。」


”はい!おかちゃんさんの事SNSで拡散しときますね!”


「ありがとうございます!!モブ眼鏡さんも頑張ってくださいね。」


モブ眼鏡さんは感謝の言葉を述べてくれた後、配信を抜けて行ってしまったが、その瞬間、俺の登録者の数が1増えた。多分、モブ眼鏡さんが登録してくれたんだろう。


自分が初見さんの役に立てたのかと思うと、少し嬉しい気持ちになった。


『やっぱり、配信を続けている意味があるんだな。少なくとも、少しでも人の役に立てるなら、これからも頑張ってみよう。』


そんな風に思いながら、俺は配信を続けた。

続く配信では、誰かが入ってくることは無く「nanashi」さんからのコメントや質問が寄せられ、俺はそれぞれに返答し、いつものように二人での会話を楽しんだ。


「じゃあ、今日の配信はここまで!概要欄やSNSで予定確認してみてくださいね~!それじゃあ、お疲れ様~。あっ、チャンネル登録お願いしま~す。」


”おかちゃん、いつも楽しい配信ありがとう!また来ますね!”


「ばいば~い。」


その日の配信が終わり、画面を閉じる前に俺は深呼吸をし、俺は少し疲れたけれど充実感に満たされた気持ちで配信画面を閉じた。視聴者数はまだまだ少なく、登録者もモブ眼鏡さん以降増えていなかったが、それでも何人かの人たちが俺の配信を楽しみにしてくれているのだ。

視聴者たちとの交流を通じて、自分にとって配信はただの一人で喋るだけの行為ではなく、何かを伝えたり人とつながることができる素晴らしい場になっていることを感じた。


「少しずつでも成長していけるように頑張ろう。」


俺はそう思い、明日の学校の準備を済ませて今日は眠りについたのだった。






「くっ、何で俺が運ばなきゃいけないんだ。」


翌日のお昼、俺は先生に頼まれて重たい段ボールを抱え、愚痴をこぼしながら、学校の廊下を歩いていた。

段ボールをは想像以上に重く、俺は廊下の真ん中で一旦段ボールを下ろして、壁にもたれ掛かって腰を下ろして休憩をする。


「あれ、蓮君?こんなところでどうしたの?」

「え、あぁ委員長。ちょっと休憩してるだけだよ。」

「そっか。」

「ここ、邪魔だったよね、もう行くね。」


俺は立ち上がろうとすると、目の前に手が差し出される。


「ほら。手貸してあげる。」

「あ、ありがと。ん?委員長、前まで敬語で話してなかったっけ?」


俺は差し出された手を掴み、立ち上がりながらそんなことを尋ねた。


「あ~うん。ちょっとね。小学校からの幼馴染だし、蓮君だけにはタメ口で話そうかなって。」

「へ~そうなんだ~。急に接し方変わってドキッとしたわ~。」

「それじゃあ、私も先生に頼まれてることがあるからもう行くね。」


そう言いながら、委員長は向こうの方に歩いて行ってしまった。


「今の会話、どこかでしたような気が……。まぁ、いっか。早く運ばないと先生に怒られちゃうし。」


俺は少し引っ掛かることがあったが、気にせずに重たい段ボールを職員室まで運んで行った。



――――――――――――





配信者名:おかちゃん

登録者数:2

視聴者数:2

同接数:2

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