第3話 気になる話
「それは、つまり?」
「俺がここと時間の違う並行世界に来たとき、美波はもう死んでた。んで、俺はたまたま美波を好きになった子を好きになった」
「んーと。ごめん、よくわからない」
「俺が好きになった子が、好きな子を失って悲しんでた。だからその運命を変えに来た」
私を好きな子。それは誰? 思い当たらない。普段、友達として接している誰か? それとも、特に話したことがない子?
海人はそれが誰なのかは教えてくれなかった。とりあえず、海人が私のことを好きじゃなさそうなのはわかった。
それはそれとして、ちょっと気になる。
海人がそこまでする気になるほど好きになった相手。
てか、並行世界から来るってそんな簡単なの。
「できるってわかれば簡単だよ。でも誰も本気で信じられないだろ。信じる、感じる、それだけで行ける」
「じゃあ、私も?」
「ああ。ただ制限はある。俺がここにいられるのは、本来、俺が転校してきた時間まで。わかる?」
「いや、わからない」
「さっきも言ったけど、俺が本来ここに来たとき、もう美波はいなかった。でもそこから俺は、まだ美波のいる時間に来ている」
「うん」
「だけど本来の俺が現れる時間が来たら、今の俺はいなくなるんじゃないかってこと」
「なる。それで今度のそのときは、私生きてるかな?」
「あぁんと」
「あり?」
「まぁ、生きていたとしたら、世界が分岐するかも」
「分岐?」
「美波が生きてて、俺は元の並行世界に帰る。んで美波が生きた先は、本来の俺が現れた世界とも違うから、別物かも」
「え、でもそれだったら、海人が私を助ける意味ある?」
「あるさ」
海人はそれからなぜか黙ってしまった。たいしてゴミのない中、ひたすら廊下を箒で掃いていた。
私を助けられたら、それでいいのか。私を好きだという謎の子のために?
でも海人が戻る並行世界が特に変化しないままだったら、その子は悲しんだままじゃないか? 違う世界で私を救ったとでも言うのか?
それとも海人はその子のために私を救ったという経験が欲しいだけなのか?
そして、私は夏休みを無事に過ごすことができたら、海人に会えなくなるのか? 今ここに来ている海人とも、本来の海人とも?
申し訳ないけど、私のことが好きだという謎の子といられる日々が続くことより、海人に会えなくなることの方がまだ気になるかもしれない。
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