第326話 ◆KWN株式会社の会議室にて1
◇◆◇ 20X0年11月16日 12:56 ◆◇◆
池袋にあるKWN株式会社の本社ビル。
KWN堂の記者【
「なんとも……親会社とはいえ、お金持ちの考える事ってわからないわー」
そんな事をぼやきながらも、御剣はビルの中へと入って行く。
エレベーターに乗り、ボタンを押す。
上階へ上がり出すエレベーターの中で、御剣は手鏡を開き、自身の顔、表情を確認する。
(……よし、大丈夫……多分。し、仕事の話よね? あんなに格式ばった文章だったし、KWN本社ビルだし……でも、もしもって事もないからね。うん、大丈夫。服も……
仕事以上の緊張に、御剣は何度も自分をチェックしていた。
しばらくすると、エレベーターが目的の階に着いた電子音が流れる。
ドアが開き、広めの廊下を歩き、案内板に従って目的の会議室へと向かう。
「会議室15番……ここよね?」
ドアの前に立ち、ノック。
返ってきた声は――――、
『わ、あつ……あつくない……か。あ、どうぞー』
伊達玖命の慌てた声。
入室許可と共にドアを開けた御剣が目にしたのは、業務用ドリンクサーバーとにらめっこする伊達玖命。
「これ……で、煎茶が出る……はず……!」
ボタン操作を終えた玖命の前に、煎茶が注がれる。
目を輝かせた玖命がその場で拍手をするも、御剣はその事態に追いつけていない。
「えっと……伊達さん……?」
「あ、御剣さん! 聞いてください! このドリンクサーバー、各会議室に置いてあるんですって!」
「ま、まぁKWNくらいの大企業になるとそういう部屋はあると思いますけど……」
「しかもこれ、タダなんですって!」
「さ、さすがにドリンクサーバーの飲み物でお金をとる企業……稀じゃないかな……ははは」
「そういうものなんですね! あ、御剣さんも何か呑みます?」
「え? えと……それじゃあコーヒーを」
「はい、お任せください!」
そう言って、玖命は再びドリンクサーバーと睨めっこを始める。
御剣は苦笑しながら、会議室のテーブルを見る。
(伊達君の荷物がこっちだから……私はこっちでいいのかな?)
奥の席に荷物を下ろすも、御剣はその場で伊達の後ろ姿を眺めていた。
(やっぱり若いよなー……彼が日本一……いいえ、世界有数の天才だなんて、この後ろ姿からは想像も出来ない……)
「ん?」
玖命が御剣の視線に気付き、振り返る。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「何で謝ってるんですか?」
そう言って首を傾げる玖命だったが、御剣が未だ立っている事に気付く。
「あ、こちらこそすみません! ど、どうぞ座ってください」
「ど、どうも……」
顔を紅潮させる御剣。
(むぅ……あの横顔は反則だなぁ……)
そう思いながら、御剣は手で顔を
「はっ!?」
玖命が思い出したかのように声をあげる。
「な、何? どうしました?」
「お、俺……コーヒー……ホットかアイスか聞いてなくて……勝手にホットを……!?」
そう言いながら、玖命の手にはホットコーヒーがあった。
「あ、いいんです。ホットで。ちょうどホットが呑みたかったんです」
「そうですか! じゃあ、これ」
「ご丁寧にありがとうございます」
御剣はくすりと笑いながらホットコーヒーを受け取る。
正面の玖命が御剣の対面に着席する。
御剣はコーヒーを横に置き、玖命を見据えた。
「それで、伊達さん……本日はどのようなご相談を……? 私がわかる事なんてクランの表層ばかりで、お役に立てる事なんて余りないと思うんですけど」
御剣が
すると、玖命は煎茶を一口呑んでから御剣の目を見たのだ。
「御剣さん……最近、困ってませんか?」
それは、余りにも唐突で、余りにも漠然とした質問だった。
だが、御剣はビクッと肩を反応させた。
真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな質問。これを受け、御剣は玖命から目を逸らす事しか出来なかった。
「伊達さん……私の事、お調べになったんですか……?」
聞くも、玖命は首を横に振る。
「仕事の関係で知りました」
「調べてないと?」
「少しだけ調べました。申し訳ありません」
玖命が深々と頭を下げる。
「あ、いや、別に謝って欲しかった訳じゃ……ないです」
「そうですか……ですが、御剣さんに対して不義理を働いたのは事実です。すみません」
「いい、いい。いいですから。許します……はい」
「ありがとうございます」
「それじゃ……どこまで知ってらっしゃるんですか?」
「七海建設の社長につきまとわれ、振り回されてる……と。それと、先日の取材の帰り品川にいらっしゃいましたよね」
「あ、あの後つけてたんですか……?」
「いえ、翔に呼び出されて向かったら、そこに御剣さんがいらっしゃいました。それでKWNの社長に色々聞きまして」
「川奈社長まで関わってるのね……でもそうか、七海君相手となると、川奈社長も動きにくいもんね……」
そう言って、御剣は玖命が動いた理由を知った。
しかし、知ったとしても、玖命が動く程の事かと、やはり川奈宗頼と同じ疑問が御剣の頭に過る。
しかし――、
「御剣さん……最近、困ってませんか?」
玖命からは追撃の質問が届くばかり。
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